野生動物の死を目撃した主人公に訪れる人生の転機。人間も動物も生きるための学問「法獣医学」をテーマにした医療マンガ

マンガ

公開日:2022/7/2

ラストカルテ -法獣医学者 当麻健匠の記憶-
ラストカルテ -法獣医学者 当麻健匠の記憶-』(浅山わかび/小学館)

 昨今、日本でも野生動物の大量死や不審死が増えているという。感染症、中毒、虐待など要因はさまざま考えられるが、それを追求・解明するのは、僕らが想像する医師や法医学者ではない。「餅は餅屋」という言葉があるように、野生動物の死因や病態の研究は「法獣医学者」たちに委ねられている。

ラストカルテ -法獣医学者 当麻健匠の記憶-』(浅山わかび/小学館)は、そんな法獣医学がメインテーマのマンガ作品だ。

 本作の主人公は、北海道の美森高校に通う当麻健匠(とうま・けんしょう)。彼は自身の進路について悩んでいた。夢もなくやりたいことも見つからず、進路希望調査票は空白のまま。

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 そんなある日、健匠は公園でカラスが数羽死んでいるところを目撃する。初めて野生動物の死を目の当たりにし、驚きを隠せずにいると、彼の前に2人の男女が現れる。法獣医学者の茨戸雷火(ばらと・らいか)と、彼女の弟で健匠の同級生・爽介だ。カラスの死因と、同じ高校生でありながら白衣を着て姉を手伝う爽介の姿が気になった彼は、雷火が所属する大学の研究室までついていくことに。この出来事が、彼の将来を大きく変えるきっかけになるとも知らずに。

 本作の特徴は、日本ではあまり知られていない法獣医学の仕事について、深く描かれている点にある。作中には、カラス以外にタヌキやシマリスといった野生動物が登場し、それらにまつわる謎や事件が取り上げられる。健匠は、雷火の助手として爽介とともに研究を手伝うことになるのだが、野生動物とはいえ死因や病態が解明される瞬間は実に残酷で、悲しい。

 また野生動物の死が、感染症という形で人間に二次被害を及ぼすこともある。作中では、亡くなった野生動物から病原菌が検出され、物語は一気に緊迫していく。決してハッピーな話ばかりではないところも、法獣医学のリアルな一面と言えるだろう。

 ただ、法獣医学による死因や病態の研究は、いまを生きる野生動物や人間のためでもある。野生動物の死因特定が、種の保存への対処や、感染症拡大の予防、公衆衛生の維持にもつながるからだ。きっと動物の死と向き合うことは楽ではない。ただ法獣医学という学問は、人間と動物が共存するために必要不可欠といっても過言ではないだろう。健匠も作中でこう語っている。「法獣医学は死体を扱うからって悲しい学問じゃない。人間も動物も生きるための学問」だと。

 第1巻では、健匠はまだ高校生だが、本作のタイトルには「法獣医学者 当麻健匠」とある。おそらく彼が法獣医学者になることは間違いない。彼がこれからどんな野生動物と出会い、どんな苦難や苦境を乗り越えていくのか。じっくり見守っていきたい。

文=トヤカン

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