『ガラスの仮面』の美内すずえはホラーもすごい! 夏に読みたい、身の毛もよだつ傑作ホラー3選

マンガ

更新日:2022/7/7

ガラスの仮面
ガラスの仮面』(美内すずえ/白泉社)

※この記事にはネタバレが含まれます。ご了承の上、お読みください。

 漫画家・美内すずえ先生といえば、もちろん代表作は『ガラスの仮面』。1976年に連載が始まり今年でなんと46年目。紅天女をめぐる北島マヤと姫川亜弓の演技バトルは、今なお決着がついていません。

 現時点では、2012年に発売された49巻を最後に連載はストップしていますが、読者のみなさんは、いつかきっと続きが読めると信じ、1巻から49巻までを繰り返し読んでいることでしょう。読み返すたびに、新たな発見があるのが“ガラかめ”の魅力のひとつです。

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 しかし、美内先生の傑作は、なにもガラかめだけではありません。優れたホラー・サスペンス作品も数多く発表しています。

 主に1970年代に発表されたそれらの作品は、ガラかめほどの知名度こそないものの、壮大なストーリー展開はまるで映画のよう。最近の少女漫画では、まずお目にかかれないテイストの作品ばかりです。

 というわけで、夏にぴったりの美内すずえ傑作ホラー作品を紹介したいと思います。

※以下よりネタバレが含まれます。

寄宿舎の中で行われていたのは、魔女の育成!?『13月の悲劇』

13月の悲劇
13月の悲劇』(美内すずえ/白泉社)

 舞台はイギリスにある寄宿舎、聖バラ十字学校。母親を亡くしたことをきっかけに、この寄宿舎へとやってきた主人公のマリー。しかし、シスターの不自然な様子や、生気を失ったかのような生徒たちを見て、マリーは学校に違和感を覚える。ある晩、マリーは校内で悪魔崇拝の儀式が行われているのを目撃。じつは聖バラ十字学校は、魔女を育成する学校だった!

 寄宿舎という閉ざされた空間の中で繰り広げられる、ホラー・サスペンス作品です。寄宿舎では、遊びもイベントもなく、毎日が同じことの繰り返し。外部とは別の世界という意味で、マリーは寄宿舎を「13月」だと表現します。

 外の世界と完全に遮断された寄宿舎では、マリーの味方は友人デボラだけ。しかし彼女も、悪魔の生贄となってしまいます。打ちひしがれるマリーに、さらなる追い打ちが。実父でハリウッド俳優でもあるラリーが、人気女優のレイチェルとの再婚を考えているというのです。じつはレイチェルもまた、聖バラ十字学校の卒業生で魔女。寄宿舎内だけではなく、外にいる家族までも危機にさらされることで、ドラマ性がグッと高まります。

 そんなマリーの絶体絶命のピンチを救ったのが、映画監督を夢見るカルロス。門を隔てて、友人になった2人は、共闘して魔女に立ち向かうのです。見た目と優しさはガラかめの桜小路くんとほぼ同じ。このカルロスがまた、いい仕事するんです。

 最終的に聖バラ十字学校は解体し、寄宿舎にいた生徒たちは皆家族のもとへ帰ります。しかし能面のような表情は最後まで変わらないまま。彼女たちの心に住み着いた悪魔はどうなったのか? 気になる終わり方です。

黒百合に秘められた恐ろしい祟り…『黒百合の系図』

黒百合の系図
黒百合の系図』(美内すずえ/白泉社)

 ある日、庭に黒百合が咲いているのを発見した安希子。母親の千里は、黒百合を見た日から様子がおかしくなり、1週間後、陸橋から飛び降りて亡くなってしまう。黒百合に何か秘密があると感じ、母の故郷である鬼姫谷へと向かう安希子。そこには母の先祖、飛竜家にまつわる恐ろしい祟りが待ちうけていた…。

 祟りのはじまりは戦国時代。鬼姫谷を支配していた千也姫は、生まれながらに鬼に呪われていました。猟奇的な性格で、村人や家族を次々手にかけていきます。特に衝撃的なのが、火付けのシーン。

 農民を小屋に閉じ込めたまま火をつけて、焼き殺されるさまを見ながら、「あれ あのように手足をバタバタさせて ああおもしろい」と笑うのです。

 筆者がこの作品をはじめて読んだのは15年以上前ですが、このシーンだけはいつまでも鮮明に覚えています。

 異常なことばかりするので、千也姫はみんなから疎まれ、最終的には身内に裏切られて処刑されます。このときの千也姫の呪いが黒百合となって、安希子や千里に襲いかかったというわけです。

 しかし、美内ホラーのいいところは、必ず心強い助っ人が現れるところ。この作品にも、タフで陽気な冒険家、源太郎がサポート役として登場します。ガラかめの里見くんに似た爽やかさを持つ青年です。源太郎のファインプレーによって、安希子は窮地を脱します。

黒百合の系図』は猟奇的な描写が多く、サスペンス度が高めです。途中、安希子が電車に首を挟まれたまま出発するシーンも衝撃的でした。

 助かったあと、居合わせた乗客が「あのまま電車が走り続けていたら…首の骨を折り 足は車輪に巻き込まれ 身体はふりまわされて…想像しただけでもおそろしい」と、追い打ちをかける台詞も秀逸です…。

カーテンを開けたらそこには雛人形『妖鬼妃伝』

妖鬼妃伝
妖鬼妃伝』(美内すずえ/白泉社)

 日本人形に苦手意識のある人は気をつけてください。日本人形がめちゃくちゃ出てくる作品です。

 デパートの日本人形展を訪れた、つばさと親友のターコ。美しくもどこか不気味な日本人形に、つばさたちはゾッとしてその場を離れます。ところが帰る途中、ターコがデパート内で行方不明に。そして数日後、電車にはねられ亡くなった状態で見つかったのです。

 じつはこのデパートの地下には、誰も知らない秘密の都・宮之内があり、そこには千年もの間年を取らずに生き続ける妖鬼妃が住んでいました。人を操ることのできる妖鬼妃は、常に権力者たちの陰に隠れ、日本の歴史を動かしてきたといいます。デパートで働く人々も皆、妖鬼妃の手下だったのです。

 この秘密を教えてくれたのが、霊能力者の家系に生まれた九曜久秀。ミステリアスで物静かなイケメンです。ガラかめでいうと、聖さん的なキャラです。

 つばさはターコの仇を討つため、九曜さんとともに妖鬼妃を倒すことを決意します。しかし宮之内の人々も黙っていません。深夜つばさが目を覚まし、カーテンを開けると、そこには目をカッと見開いた日本人形が…。絶叫して思わず窓を割るつばさ。こんな状態ならガラスの一枚や二枚、割っても仕方ありません。

 そして激闘の末、宮之内は全焼。数多の日本人形が焼け落ちていきます。

 この作品のハイライトは、戦い直後の電車のシーン。すべての戦いが終わり、ほっとしたつばさ。心の中で言った「九曜さんが好き」という言葉が、テレパシーで九曜に伝わってしまいます。このときの慌てふためく九曜さんがとってもキュート。日本人形の恐ろしさを忘れさせてくれるのでした。

 ガラかめのオリジナル劇中劇を読んでもわかるとおり、美内先生は本当に物語作りの天才です。どの作品も、目が離せない展開で読者を最後まで飽きさせません。良質なホラー・サスペンス作品が読みたいなら、美内すずえ傑作選で決まりです。

文=中村未来

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