若き弁護士の“正義感”が暴いた残酷な真実――真保裕一著『ダブル・フォールト』

文芸・カルチャー

2017/11/6

『ダブル・フォールト』

 弁護士法1条1項において、弁護士は「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」ということが定められている。刑事事件では弁護人として罪を犯した疑いのある者の弁護活動を行う。どんな人間であっても正当な弁護を受ける権利があり、弁護士は行き過ぎた刑罰が科せられることのないよう見逃していた事実がないか調査し、その弁護に力を尽くす。しかし、そんな弁護士の職務が罪のない人間を苦しませることがあるとしたら――。

 本作の主人公・本條務は、弁護士登録を行って1年半の新米弁護士。自らが理想とする弁護士になるために日々の仕事に励む本條だったが、浅はかな罪を犯した者に手を差し伸べる意味がどこにあるのか、疑問を感じることもあった。そんなある日、本條は所属事務所のボスである高階徹也から初めて殺人事件の担当を任される。

 本條が弁護人を務めることになったのは、町工場を経営する戸三田宗介。彼は昔から付き合いのある金融業者の成瀬隆二からいかがわしい投資話を脅迫同然にしつこく持ちかけられており、口論の末に首を絞められ、現場にあったペーパーナイフで咄嗟に刺してしまったという。

 戸三田は事件の翌日に自ら警察に出頭していることから自首が認められる可能性が高く、一方で成瀬はヤクザまがいの悪質な取り立てを行うことでも知られていた。本條と高階は正当防衛も視野に入れつつ、戸三田の無罪、あるいは減刑を勝ち取るために成瀬の身辺を調査。悪評を集めて、その所業を次々と法廷で暴き立てていく。

 しかし、弁護側の証人尋問の最中、被害者である成瀬の娘、香菜が叫ぶ。「もうやめて。父さんは殺されたのよ!」「裁かれるのは父さんじゃない。あいつのほうよ! 人殺しを責めなさいよ。父さんはあいつに殺されたのよ!」――その痛ましい叫び声が本條の耳の奥に響き渡る。

 犯人側の弁護士が罪を軽減するために被害者側にも落ち度や問題がなかったか調査し、その証拠や証言を法廷に出すのは刑事事件では珍しいことではないだろう。弁護士であればそこで貶められた被害者遺族の心情に配慮などする必要はないはずだが、本條の心には躊躇いが生まれていく。自らが弁護を務める戸三田のことも信じきれず、その疑念から彼は尊敬するボスである高階の信頼を失ってまで独自に調査を進め、ついに隠されていた真実にたどり着く。

 題材になっているのは地味な事件ながら、刑事事件における法廷テクニックや弁護士界の実情が盛り込まれ、弁護側と検察側の迫真のやりとりは法廷ミステリーならではの醍醐味。そして、若き正義感ゆえに揺れる本條の苦悩、敵対する立場であるはずの香菜との交流のドラマに思わず引き込まれ、最後に明かされる衝撃的で残酷な真実には誰もが胸を衝かれるだろう。ミステリーファン以外にも楽しめる傑作リーガル・サスペンス。

文=橋富政彦