「超心配性」はビジネスで有利!?

ビジネス

公開日:2018/1/26

『パラノイアだけが生き残る』(アンドリュー・S・グローブ:著、佐々木かをり:訳/日経BP社)

 経営者にとって最も大事な資質は何だと思いますか? ある種の心配症気質が大切だと主張する『パラノイアだけが生き残る』(アンドリュー・S・グローブ:著、佐々木かをり:訳/日経BP社)は、あなたが持っているイメージを覆すものかもしれません。

 著者のアンドリュー・グローブ氏はインテルの創業メンバーの一人でのちに社長兼CEOとなった人物。本書では、1994年にペンティアムの欠陥が発覚事件のときの動揺や事件を乗り越えるために行った意志決定の過程、日本企業との競争などを詳細に綴っています。事例の紹介はインテルのものが中心ですが、転換点を迎えたさまざまな企業が紹介されているので非常に示唆に富んだものになっています。原著は、スティーブ・ジョズやピーター・ドラッカーにも支持されました。

 パラノイアは、日本語では偏執症や妄想症などと訳される、いわば「超心配性」のこと。本書の結論は「超心配性な人だけが自分を取り巻く環境変化の兆候を察知し、適切に対処し生き残ることができる」ということ。パラノイア=心配性と訳してしまうから少し違和感を覚えてしまいますが、あらゆる状況を想定して、選択肢を複数用意できる人だけが不透明な時代を生き抜いていくことができる、と言い換えることもできるかもしれません。

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 これは企業経営者だけの話ではありません。個人のキャリアでも同じことがいえます。誰にでも転換点は人生の中で何度か訪れるものですが、うまく流れに乗る人、躊躇して足踏みしてしまう人、そしてそもそも変化に気がつかない人がいます。転換点が訪れてもすぐに何か行動を起こさなければダメというわけではありません。しかし、その行動の「結果は長期にわたり、徐々に重大な影響となって現れてくる」ものです。そのため、どんな人でも自分の仕事環境に常に疑問を持ち、自分で自分と討論を行う習慣を身につけることが必要なのです。

「キャリア」と言ってしまうと仕事を持つ人だけに関係がある話だと感じるかもしれないので、「人生」と置き換えると分かりやすいでしょうか。著者が主張しているのは、自分の人生の主人は他ならぬ自分しかいない、ということ。自分の人生は自分のビジネスという感覚を持って、経営していくことが求められる、ということです。

 転換点にはいくつかの困難が待ち受けています。1つは、それが転換点かどうかの見極めが難しいということ。そしてもう1つは、多くの場合、前例がないためその選択が正しいかどうかが分からないことです。転換点は、一見してそれとは分からないケースがほとんど。いつもは科学的アプローチで判断している人でも、いざとなったら直感と個人的判断しか頼れるものはありません。そのときに正しい選択ができるようにするためには、日頃から自分の直感力を磨き、さまざまなシグナルを感知できるようにすることが大切だといいます。

 いざチャンスが到来したときにそれをしっかりつかむには、現状に安心しきった態度では難しいでしょう。人生の手綱を自分で握るには、ある種の「心配」を持ちながらも、やはりリスクを取るための決断と行動力が必要です。

かつての土地で得られた機会はごくわずか、ことによるとゼロだったかもしれないが、新たな土地では未来を手にすることができる。その見返りはあらゆるリスクを冒すだけの価値がある。

文=いづつえり