『Fate』シリーズ生みの親である奈須きのこ・武内崇の出会い、そしてTYPE-MOON誕生秘話

アニメ

公開日:2018/2/26

『TYPE-MOONの軌跡』(坂上秋成/星海社新書)

 スポーツ選手、ミュージシャン、医者、宇宙飛行士、YouTuberなど子どもが憧れる職業は様々だ。あなたが学生の頃はどのような夢を持っていただろう。そして、夢見ていた仕事に何人の人が就けるのだろうか。運よく夢を叶えた後、一体何割が“成功”を掴んでいるのだろうか。

 私は恐れ多くも、自分のやりたかった仕事ができている。友人に話せば「お前は好きなことができていい」と羨ましがられることもしばしば。とはいえ、自分がやりたいことが100%できているかと問われればNO。もちろん“成功”も掴んでいない。

 だが、クリエイティブ集団・TYPE-MOONを牽引する奈須きのこ氏と武内崇氏は違う。中学時代からの盟友である二人は当時の熱量のまま今もさらなる夢に向かって走り続けているようだ。『TYPE-MOONの軌跡』(坂上秋成/星海社新書)を読み、そう感じた。

advertisement

 TYPE-MOONを知らないという方でも『月姫』『空の境界』『Fate』といった作品を知る方は多いはず。これらを生み出し、世に送りだしたのがTYPE-MOONだ。特に『Fate』シリーズは、昨年劇場版が公開され、アニメ『Fate/Apocrypha』が放送され、スマートフォンゲーム『Fate/Grand Order』が幕張メッセで大規模イベントが催されるほど人気を博した。

 本書では、TYPE-MOONの中心人物であるイラストレーター・武内崇氏とシナリオライター・奈須きのこ氏の出会い、TYPE-MOONの誕生秘話、作品が生まれるまでの苦悩・道程が時系列で記されている。本稿は武内氏と奈須氏、二人の出会いからTYPE-MOON誕生までの一部を紹介したい。

 二人の出会いは中学校の入学式直後に、奈須が消しゴムを忘れ、武内に借りたことからスタート。その後、ゲームやマンガ、小説などを薦め合う内に、武内はマンガ家に、奈須は小説家になることを目指したという。そして、夢を実現させるため、中学2年時には小説を書き上げる奈須。その作品を読んだ武内は奈須の才能を見出す。

 その後、それぞれ別の高校へ進学し、別の仕事に就く二人。だが、武内はイラストの道も、「奈須きのこという才能を世に送りだす」ことも諦めていなかった。やがて、武内は奈須を誘って、1998年に同人サークル「竹箒」を立ち上げる。そして、サークル名義のHPに劇場版アニメになった『空の境界』の小説が掲載された。

 ドラマであれば、この小説が話題となり“新進気鋭の作家”ということで華々しくデビューとなるが上手くいかなかった。同人誌即売会コミティアに『空の境界』のコピー誌を頒布するも売上はたったの6部。読んでもらえれば面白さは伝わるはず。しかし、そもそも読んでもらえない。この二人の強さはここからだった。

 読んでもらえないならば、読んでもらえる場所を探せばいい。売れないならば、売れる舞台を見つければいい。作品が全く受け入れられなかったにもかかわらず、二人はこのように考えた。希望を捨てない者に“成功”は訪れるのかもしれない。思案した結果、次なる一手は、「面白ければ何をやっても受け入れてもらえる」空気があったという18禁ノベルゲームの世界だった。

 そのノベルゲーム制作用のサークルとして立ち上がったのがTYPE-MOONだ。その後、第一作『月姫』が反響を呼び、その後『Fate/stay night』はアニメや小説などに波及するほどの大ヒットに。制作裏話や苦労、そしてTYPE-MOONメンバーが団結して「奈須のシナリオを魅力的に見せる」ためのこだわりの詳細については本書をご覧いただきたい。

 自分の作品が面白いと思ってもらえる読者へ、妥協せず、ストーリーを生み出す奈須きのこ。奈須が作り出す世界を多くの人に届けるために全力を尽くす武内崇。世間的にも、大きな“成功”を収めてもなお、彼らは第一線で走り続ける。TYPE-MOON作品のファンであっても、そうでなくても、二人のひたむきな仕事ぶりに胸が熱くなるはずだ。

文=冴島友貴