変化迫られる電子書店 ――海賊版や定額制とどう向き合うか?

アニメ・マンガ

2018/6/8

(ハイブリッド型総合書店「honto」ホームページより https://honto.jp/

進む資本増強・再編・戦略の見直し

 2010年ごろのいわゆる「電子書籍元年」とそれに続く電子書籍ブームはすっかり落ち着いたようにみえるが、ここに来てオンライン書店・書店流通の再編や戦略の見直しが相次いでいる。

 4月1日には、KADOKAWA子会社のブックウォーカーが、「読書メーター」や「ニコニコ漫画」を運営する株式会社トリスタの全株式をドワンゴから取得し、子会社化した。

 大日本印刷(DNP)は5月2日に、子会社であるトゥ・ディファクトが運営するハイブリッド型総合書店「honto」を7月から承継することを発表した。2010年にNTTドコモとのジョイントベンチャーとして鳴り物入りでスタートしたトゥ・ディファクトは、2012年には丸善CHI傘下の「ビーケーワン」を統合し、電子書店と丸善・ジュンク堂・文教堂といったリアル書店とを連携したサービスを展開していた。

 5月22日には、電子コミックサービス「LINEマンガ」を運営するLINEが、事業を分社化し、新会社「LINE Digital Frontier」を7月に設立すると発表。売上高約17億円、月間利用者数279万人で国内首位となっているマンガサービスをさらにスピード感をもって展開していくとしている。

 さらに5月25日には、楽天が筆頭株主となっていた書籍流通大手の大阪屋栗田を、第三者割当増資により子会社化したことを発表。この増資にはKADOKAWA・講談社・集英社・小学館・大日本印刷も参加している。

 出版市場全体は縮小を続けているが、電子分野はコミック(前年比17.2%増)・書籍(同12.4%増)・雑誌(同12.0%増)と成長が続いている(※)。各社とも、「電子シフト」の次の段階に向けた資本増強や、戦略の見直しを急ピッチで進めていると言えるだろう。

※2017年出版市場(紙+電子)を発表しました|全国出版協会 http://www.ajpea.or.jp/information/20180125/index.html

背景に海賊版や定額制の影響も

 2018年前半は、出版業界は「海賊版」で大いに揺れたと記憶されることになるだろう(→参考記事)。大手出版各社はこぞって海賊版による被害の大きさを訴え、「漫画村」に対するサイトブロッキングの実施を巡っては、IT業界も巻き込んでの論争が巻き起こった。そんな動きと呼応するかのように、いま電子書店では資本や戦略の見直しが相次いでいる。

 海賊版が支持された背景には、無料であることはもちろんなのだが、「あらゆる漫画が横断的に読めた」点があげられる。それを疑う余地はないだろう。「現状の電子書店でも扱いタイトルは増え、網羅されているではないか」という指摘が一部にはあるが、これは違う。1タイトルごとに購入するというアクションが求められ、その都度課金への意識が生じる電子書店は、定額制サービスにおけるユーザーの消費行動とは全く異なるものだからだ。

 映像・音楽など他のコンテンツ分野では定額制サービスの普及が進む。出版分野でも、雑誌の読み放題サービスは支持を集めている。電子雑誌のシェアの5割近くを占めるとされるdマガジンは2016年3月期決算で、325万契約に至っている。そこで閲覧される人気雑誌の売上も非常に高い水準にあり、いわゆる「雑誌不況」とは異なる状況がそこにはある。

 かつてマンガは、週刊誌・月刊誌という広告収入にも支えられた比較的安価な媒体を通じて、人気連載と新作をパッケージにしてユーザーに届けるという機能を備えていた(さらに言えば、回し読みという形で面白いマンガは「シェア」されていた)。その中で、自分が気に入った作品を見つけてもらい、単行本という形で購入を促すという商流が完成されていた。ネット・スマホの普及によって、その購買行動は過去のものとなり、「そもそも若者がマンガに出会うきっかけがなくなった」とも言われる。

 ここまでの電子書籍の成長は、マンガの貢献が大きい。古くから人気がある大型タイトルが、場所を取らず、ポイント還元などを伴ってまとめ買いできる、あるいは新作の認知拡大を狙って、期間限定での大幅値引きも珍しくなくなり、市場は拡大した。しかし、これは過去の資産の再活用による一時的な売上アップや、紙の本よりも安いという値引きに魅力を感じる消費者に訴求している部分が大きく、いわばDVDが登場した際にも映像市場が経験したのと同様のバブルであり、紙の本の市場を食いながらの成長というカニバリゼーションに過ぎないという意地悪な見方もできる。

 そんな中、電子書店は新たな「作品との出会い」をユーザーに利便性のある形で提供できるのかが問われている、と言えるだろう。

理想の「ハイブリッド書店」は生まれるか?

 海賊版サイトは、新作も旧作ものべつくまなく無料で提供し、広告によって暴利を貪っていた。海賊ならではの商売であり、正規のビジネスプレイヤーがそれを真似てはそもそも採算が成り立たない。映像や音楽と異なり、大量のコンテンツを一気に消費できてしまう、本、特にマンガでは、作品調達や運営のコストが、広告収益を上回ってしまうのだ。

 そのことをある種いち早く証明したのが、アマゾンのKindle Unlimitedだった。2016年8月にスタートした定額読み放題サービスだったが、人気マンガも一気に読めてしまうため、アマゾンの出版社への支払いが想定以上に膨らんだ。それが原因となり対象作品が絞り込まれ出版社とのトラブルに発展した経緯がある。

 それでいてKindle Unlimitedは今ひとつ利用が拡がっているとは言えない状況だ。紙の本のオンライン購入からスタートしたアマゾンでは、ユーザーインターフェイスもあくまで都度購入がベースになっており、たとえ読み放題の本でも次々と読み進められるようになっていないのも理由の1つに挙げられるだろう。

 そんな中、いま主立った国内事業者が目指すのが定額制と都度課金を組み合わせた「ハイブリッド型」の電子書店サービスの確立だ。そこでは一定期間は人気作も含め新作が読み放題で提供され、タイミングをみて都度課金に移行する。かつての雑誌+単行本のビジネスモデルをネット上に再現するかのようなサービスモデルに本格的に移行しつつあり、各社ともそのためのシステム開発や作品調達に向けた資本増強や組織の見直しを行っているとみて良いはずだ。

 それを象徴するのが前述のように分社化も発表し、6月7日にはサイトの大幅リニューアルを行う予定のLINEマンガだ。

 オリジナル作品や、既刊の各話エピソードなど毎日200作品以上が無料で読めることをアピールするLINEマンガアプリには、ストアカテゴリも設けられ、単行本単位での電子書籍の購入も促している。リニューアル以降は、連載作品をこれまでの約2倍に増やし、23時間が経過すると無料で次の話数が読める機能も追加となる。NetflixやSpotifyなど他の定額制サービスがそうであるように、デファクトスタンダードとなるサービスを提供する事業者が市場を制することになる。それは市場が比較的未成熟で小さいが故に棲み分けが可能だった従来の都度課金型の電子書店とは異なる競争が始まっていることを意味する。いかに作品と出会ってもらい、続きを読みたくなる意欲を刺激できるのか、各社の試行錯誤と投資がしばらく続くことになるだろう。

取材・文=まつもとあつし