「原宿駅」がなくなる? THE ALFEE高見沢俊彦の、リアルな70年代を感じさせてくれる物語『音叉』が単行本に!

エンタメ

2018/7/28

『音叉』(高見澤俊彦/文藝春秋)

 2020年のオリンピックに向け、現在、急速に東京の風景が変わりつつある。馴染みのある建物が次々に解体されピカピカな建造物に。そんな中、「原宿駅」も存続の危機にあるのをご存じだろうか。利便性向上のための大幅改良が決定し、大正時代建造の瀟洒な洋館風の駅舎が残るのかどうか、まだはっきりしていない。かつては明治神宮の玄関として整備された街も、いまでは世界的に知られる若者文化の中心地。そんな街の歴史を見つめ続けたシンボルを残したいとの声は根強い。

 ちなみに原宿が今のような若者文化の中心地になったのは70年代に遡る。グラムやプログレなどロックカルチャー全盛期、奇抜で先進的なファッションの若者が闊歩し、新しいバンドやシーンがさまざまに生まれた。そんな当時の原宿に憧れる若者も多いが、このほどそんな街の先端の気配と、かすかに漂う学生運動の残り香、街に流れる洋楽ロックの風景を絶妙に切り取り、まさにリアルな70年代を感じさせてくれる物語が登場した。THE ALFEEのリーダー、高見沢俊彦さんが書いた『音叉』(文藝春秋)だ。文芸誌『オール讀物』で連載され大反響となり、このほど待望の単行本化。バンドでプロデビューを目指す大学生・雅彦の物語は等身大でピュアな情熱が疾走し、どこか高見沢さん本人を連想させる。

 1973年、東京。都内のミッション系大学に通う平凡な大学生・雅彦は、高校からの仲間と組んだバンドがレコード会社の目にとまり、目下デビューに向けて準備中。だがレコード会社担当の瀬川から「バンド名の変更」を一方的に打診され、雅彦は「そんなことならデビューしない」と逆ギレしてしまう。意外に前向きなメンバーたちに促され、一度は仕切り直しを願い出た雅彦だったが、さらに「ボーカルの変更」「作詞の見直し」も提案され、再びやる気を失ってしまう。特に作詞担当は雅彦であり、高校時代の恋人だった響子との別れから生まれた大事な曲を「シングルにしては少し弱い」と指摘され、まるで自分を否定されたようで大いに傷ついたのだ。失意の中、歌舞伎町をふらつく雅彦は、水商売のバイトをしている同級生の加奈子と鉢合わせする。彼女に誘われるまま原宿のロック喫茶に行った雅彦は響子と再会。不慣れな強い酒にノックアウトされた雅彦は、そのまま響子の家へ――。

 情熱と未来の行方に迷う雅彦が、響子や加奈子に翻弄され恋愛の迷宮に迷いこむのは、実在した原宿のロック喫茶「DJストーン」や、クリエイターが多く集った原宿セントラルアパートの喫茶店「レオン」、来日アーティストも多く来店した伝説のディスコ「赤坂ビブロス」など実在の店舗の数々。なにかと気後れする普通すぎる雅彦に対し、エッジィなスリルを楽しむような女たち。なぜか彼女たちが現在の女子より大胆に感じるのは、まだまだ男女雇用機会均等法などない時代、自立したイケてる女を気取るには「強がり」が武器だったからだろうか。

 紆余曲折ありながらも進んでいたデビュー話は、思いがけない悲劇で「デビューか、友情か」の選択を迫られることに。葛藤の末に雅彦が辿り着くのは、ある意味「大人になる」ということなのかもしれない。ちなみに作中に登場する雅彦のバンドは三声のコーラスが売りの大学生バンドであり、真偽のほどはわからないが明治学院大学在学中に結成されたTHE ALFFEに自然に重なる。

 それにしてもバンドに関するすったもんだは時代を経ても変わらないものだ。プロの厳しさを感じさせる音楽物語としても秀逸。そこはやはり著者の底力なのだろう。

文=荒井理恵