【コラム】After the Rainのこれまでとこれから

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更新日:2018/9/13

 そらるとまふまふが初めて出逢ったのは2011〜2012年頃だったという。その頃彼らはすでに動画投稿サイトでの活動を行っていて、そらるはすでに人気歌い手としてのポジションを確立、2012年にソロアーティストとして1stアルバム『そらあい』を発表している。同時期にまふまふも自主制作のCD『夢色シグナル』をリリース。作詞作曲に加え編曲、演奏、楽曲編集までを手がけるマルチクリエイターとして独自の存在感を発揮しはじめていた。

 そんな彼らが、2014年4月、ついにそらる×まふまふ名義での初のCD『アフターレインクエスト』がリリースされた。ふたりだけで楽曲制作を行ったこのアルバムは人気クリエイター同士のコラボレーションということで大きな話題となり、これが現在のAfter the Rainにつながる歴史のはじまりとなった。その後もCDの制作だけではなく、動画投稿やふたりでの生放送(「そらるとまふまふのひきこもらないラジオ」)など、ふたりの活動はどんどん深まっていく。2015年8月に2作目となる自主アルバム『プレリズムアーチ』がリリースされる頃には、そらるとまふまふのコラボレーションは一時的な「課外活動」の域をとっくに超えて、ふたりのクリエイターの活動の中心となっていたといっていいだろう。2015年12月には初となる全国ツアーを敢行。このツアータイトルは「「After the Rain -WINTER TOUR 2015-」といい、当時まだ発表されていなかったユニット名を冠したものになっている。このツアーが決定した時にはすでに、彼らはこのユニットをパーマネントに続けていくことを心に秘めていたのかもしれない。

 繰り返しになるが、そらるもまふまふも、ネットミュージックシーンにおいてすでに才能を開花させ注目を集めていたクリエイターである。そのふたりが、なぜユニットとしての活動を選んだのか。しかもそれが結果的にひとつの運命共同体とでも呼べるような存在感をもつに至っていることは、『クロクレストストーリー』と『イザナワレトラベラー』という2枚のアルバムに触れた人であれば理解できるだろう。After the Rainの歩み、そしてその中で生まれた音楽が物語るのは、そらるとまふまふは出逢うべくして出逢い、運命のようにしてAfter the Rainというユニットになったということである。それは、ユニットとしての活動を経て、ふたりがどのように変化したかをみれば明らかだ。

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 そらる×まふまふとしてリリースした『アフターレインクエスト』と2015年の『プレリズムアーチ』という2作のアルバムに収録された楽曲には、ほとんどの作詞作曲を手がけたまふまふ自身の世界の見方や人生論、率直な感情や思いが投影されていた。そんな一種の「告白」のような作品が多くの人に受け入れられ、支持されることが、彼にとってどれほど心強いものだったかは想像に難くない。当初ライブで歌うことが死ぬほど嫌いだったという彼だが、近年ではAfter the Rainとしての活動以外でもワンマンツアーや自身主催のフェスを敢行するなど、ステージに立つことをいとわなくなった。そのこと自体が、そらるとのコラボレーションによって彼の中の何かが変化した証拠だろう。

 一方でそらるの側にも彼と組む必然があった。彼がまふまふと組むまでに発表してきた作品群を聴けばわかるが、まふまふの曲を歌うときのそらるはまさに水を得た魚のような伸びやかさで表現を羽ばたかせている。2012年にはすでにソロアルバムをリリースしライブも積極的に行うなど、アーティストとしての立ち位置を確立させつつあったそらるだが、『アフターレインクエスト』以降、彼が作詞作曲を手がけるようになったのも、表現者としてのそらるが、まふまふとの共同作業という「本拠地」を手にしたことによってひとつの「壁」を突破したからだといえるかもしれない。

 前述のとおり2枚のアルバムをリリースしたあと、そらる×まふまふはそのユニットを「After the Rain」と名付け、新たなフェーズに進む決断をした。もちろんふたりのなかでは自然な成り行きだっただろうし、音楽を生み出す環境としても大きな変化があったわけではない。だがユニットにちゃんとした名前を付け、活動の足場を固めるということは、つまりそれを「続ける」覚悟を決めたということでもある。実際、After the Rainとしての1stアルバム『クロクレストストーリー』にみなぎるテンションは今までのものとは明らかに違っていたし、ふたりの歌唱も、曲の世界観をはみ出して個性をにじませるようになってきた。そしてその個性の掛け算としてのユニットの個性、言葉を換えればAfter the Rainとしての「人格」のようなものも、くっきりと浮かび上がってきた。

 After the Rain「最初」のアルバムとしてリリースされた『クロクレストストーリー』はオリコンチャートで2位を記録。彼らの挑戦はしっかりと受け止められ、その後のさらなる躍進への追い風となった。その後の活躍についてはみなさんも知ってのとおりだろう。そらるとまふまふ、ふたりのクリエイターの出逢いから始まったAfter the Rainは、クリエイター同士のコラボという領域を遥かに超えたひとつの運命共同体として走り始めた。最新アルバム『イザナワレトラベラー』の楽曲たちは、歌い手としてのふたりにさらに高いハードルを課し、リスナー・ファンにもさらに強固なコミュニケーションを求めている。楽曲が織りなすファンタジックな世界観が魅力のユニットだが、『イザナワレトラベラー』の描き出す世界はもっと生身だ。アーティスト・After the Rainの本領は、ここからますます発揮され、広がっていくはずだ。

文=小川智宏