整形しようか迷う女、男性芸人級のすっぴんをメイクで隠す女……“おしゃれ”に取り憑かれた女たちの闇と光

健康・美容

更新日:2020/3/11

『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(劇団雌猫/柏書房)

 中学高校と、“イケてない”グループに属していた。可愛いクラスメートたちを見て、「自分は一生、あっち側には行けないんだろうな」と思っていた。しかし大学に入ると、一人の先輩にこう言われた。「水野は可愛い。顔はビミョーだけど」……顔はビミョー! ショックだったが、生まれて初めて「可愛い」と言われたことは素直に嬉しかった。メイクをすれば、“ビミョーな顔”をカバーして、ちゃんと可愛くなれるかもしれない。そう思って、メイクにハマった。いまでは毎月、美容雑誌を4冊購入し、暇があればデパートのコスメカウンターに足繁く通う、まあまあオタクだ。

『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(劇団雌猫/柏書房)を読んで、思わず号泣してしまった。コンプレックスを抱え、それでも自分を着飾ることで、救われている女性たちがたくさんいる。そのことがわたしを大いに勇気づけた。

■オンオフのギャップがとことん激しい女

 ニシキヘビさん(30)がメイクにハマったきっかけは、大学生になって「せめて人並みに小綺麗になりたい」という些細なものだった。それがいつしか、一度に20アイテム以上使い、1時間半かけてメイクをするようになった。ナチュラルメイクには一切、興味がなく、人間味を殺した不自然に作り込まれた顔が好き。ついたあだ名は「叶美香」。彼氏に初めてスッピンを見せたとき、震える声で「千原ジュニアみたいだね……」と言われたが、男性芸人にたとえられたショックより、オンとオフで、叶美香と千原ジュニアほどの差が生じるくらい、理想のメイクができているのだと認められたことのほうが嬉しかった。

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 大抵の男性からの評判はすこぶる悪い。たまにメイクを薄くすると「そっちのほうがいいよ!」などと、聞いてもいないのにありがたいご意見をくれる方もいる。しかし彼女が目指しているのは、“男ウケが良さそうな親しみやすい可愛さ”ではなく、“浮世離れしていてうかつに話しかけられない強い顔”。彼女は今日も、なにかに取り憑かれたように、そして幸福感に満ち溢れながら、化粧で自分を装備しているのだろう。

■整形しようか迷っている女

 フェネックギツネさん(24)。中学に入って、「可愛い」と言われるようになったことから、容姿に対する自意識がおかしなことになっていった。それまで「可愛い女の子」という扱いを受けたことがなかった彼女は、喜ぶと同時に戸惑った。他人に見られ、評され、その上でがっかりされないようにしなければならない。人の目が見られなくなり、だれか他の女の子がいるときには、トイレで鏡を見られなくなった。「え、ぜんぜん、言うほど可愛くないじゃん」――自分がそう思うように、他人にも期待外れだと思われることが怖くなっていった。

 整形をしたい。しかし、整形をしても自分が納得するような容姿を手に入れることはできないだろうと薄々気づいていた。彼女が最もしたかった手術は、骨を切ることが必要な「中顔面短縮手術」で、何百万円もの費用がかかる。「わたしのなにが可愛いんだろう」――何百万円の負債であるはずの顔に化粧をしながら考える。彼女はこう締めくくる。「わたしだけのわたしの容姿を、いつか、取り戻してみたい」。そのために、信じてみよう、と――。

 本書は、女性たちの闇を浮き彫りにする。しかし、闇の裏には必ず光が存在する。登場する女性たちはだれもが生きづらさを感じながら、それでも“おしゃれ”に生きる希望を見出している。彼女たちがコンプレックスから解き放たれ、都会のメインストリートを颯爽と歩く日が訪れることを願ってやまない。

文=水野シンパシー