人気コメディエンヌを“苦悩の底なし沼”から救ったマインドフルネスとは? 自分を責めず「今ここ」に集中すれば、うつや怒りっぽさは改善できる!

暮らし

2018/12/13

『心がヘトヘトなあなたのためのオックスフォード式マインドフルネス』(上原裕美子:訳/双葉社)

 「集中力を高め、創造的な発想を生み出す」と、グーグルやマッキンゼーなど数多くの外資系企業が社員研修に採用し、日本でもフリマアプリで知られるメルカリの社内で「マインドフルネス部」が立ち上げるなど、国内外の企業で注目されている「マインドフルネス」。そもそもは禅など仏教の瞑想法を源流とし、MIT(マサチューセッツ工科大学)での研究をきっかけに脳機能における有効性が立証され始め、今ではうつや不安神経症、ストレス改善のための認知療法としての研究が進んでいる。いわば「科学」も認めた瞑想法だ。

 本書『心がヘトヘトなあなたのためのオックスフォード式マインドフルネス』(上原裕美子:訳/双葉社)の著者で英国の人気コメディエンヌ、ルビー・ワックス氏が、自らのうつを克服するために門を叩いたのも、こうした脳科学や心理学に裏打ちされた最新研究が進んでいる拠点の一つ、オックスフォード大学だった。

 本書は、マインドフルネス認知療法を学んだ人気コメディエンヌが、日常生活にどうマインドフルネスを取り入れればいいのかを、自らの体験を、これでもかというほどユーモアたっぷり、時にイギリス流のブラックジョークも交えながら饒舌に語り尽す一冊だ。

 著者はまず、情報過多時代を生きる私たちの心がなぜヘトヘトになってしまうのかを、いくつかの要因を挙げて解き明かす。さらに、脳の仕組みや科学的な解説を交えながらマインドフルネスの基本的な考え方を紹介(といっても難しい専門用語が並ぶわけではなく、“ヘタウマ”なルビー画伯による図解もあってわかりやすいのでご安心を)。

 また、手っ取り早く「心がヘトヘトな状態を解消したい!」という方には、すぐに実践できる「6週間コース」や、買い物や仕事中など日常でできるマインドフルネス・エクササイズがオススメだ。さらに、本書のところどころに挿入された著者自身のうつ体験の回想は、いまストレスやうつに苦しんでいる方には「あるある、そうなんだよね」と共感する部分も多いだろう。

●「ひとつのこと」と「今ここ」に集中し、評価はせずに「観察する」

 そもそもマインドフルネスとは何か? 本書によれば、主要なエッセンスは大きく2つある。まず、いろんなことに思いを巡らせがちな思考を抑えて「ひとつのこと(具体的には「いま、ここ」)に心を配る(=マインドフルな)状態にする」こと。

 生きていれば誰だって、「あ~、あんなことしなければよかった」「なんでああしなかったんだろう」などと、過去の行動や判断に対する後悔に囚われることは多いはず。また逆に「この先どうすればいいんだろう?」「自分の選んだ道は正しいのだろうか……」と、未来への不安に囚われがちになるもの。そんな過去や未来に足を取られて身動きが取れなくなってしまう私たちの意識や思考を、「いま、ここ」に集中させることの重要性を伝える教え、それがマインドフルネスなのだという。

 ビジネスでも過去の失敗や先の不安ばかりに思考がとらわれ、「今やるべきこと」に集中できないことがないだろうか? そんな時、マインドフルネスを実践すれば、今やるべきことが冷静に見えてくるというわけだ。

 そして、マインドフルネスのもうひとつのポイントが「批判などはせずに、ただひたすら観察する=気づく」こと。例えば、つまらないことでキレてしまったりすることは誰でもあるだろう。そんな時、怒りに囚われるのでもなく、自分を「こんな小さなことでキレるなんてダメな奴だ」などとディスるのでもなく、ただ、一歩離れたところから眺めるように「あ~、キレてる自分がいるなぁ」と“気づく”だけにする。

マインドフルネスは「気づくこと」が大事なのであって、「正すこと」が目的ではありません。

 著者もこう強調するように、マインドフルネスとはすなわち、気づきの作業なのだ。

●情動を抑制して空気が読める「メタ認知力」が高まる

 なぜ気づくだけにするのか? ここがマインドフルネスの重要なポイントだ。著者は人と思考の関係を、騎手と馬(思考)にたとえている。馬は時に勝手に暴走する。そんな馬を騎手が無理やり抑えようとすればさらに事態は悪化する。そこで騎手自身が冷静になり「どうどう」とやっていれば、馬はやがて落ち着きを取り戻す。

思考を「見守る」気持ちになって、その思考と自分はイコールではないと気づけるのなら、荒れ狂う勢いには呑まれません。

 つまり気づくだけにすることで、自分の思考と同化しないように一歩距離を置くことができるようになるという。さらに著者の例で紹介しよう。

 著者はうつ以外にも、「怒り依存症」とでもいうべき生来の怒りっぽさを抑えたいと感じていたという。マインドフルネスを実践する中で、今までは自動反応的に怒ってしまっていたことでも、暴れ馬を抑える騎手のごとく制御できるようになったそうだ。

 その理由は、客観的に気づく「メタ認知力」(自分を一歩引いて眺める力)が向上したからだ。本書によれば、マインドフルネスを実践することで、直感やメタ認知力を司る脳の「島皮質(とうひしつ)」という部位が活性化するという。ちなみにメタ認知力は、情動調整だけでなく空気を読む力も高めるため、人間関係もスムーズになり、ビジネス面では生産性が高まるという。

●毎日の朝昼晩にできること、人間関係に応用できることなど情報満載

 こうしたマインドフルネスの主要な効果を知ったら、後は実践あるのみだ。

 とはいえ、「マインドフルネス」で読者の皆さんがイメージする、「暗い部屋に籠って瞑想しなくちゃ(そんな時間ないよ!)」というものと、本書が紹介するマインドフルネスのメソッドはひと味違う。例えば、本書の「6週間コース」の内容は、自宅や仕事場でも簡単にできるエクササイズが中心。また、朝起きてから通勤電車やバスの中、仕事中や休憩時間、帰宅後にできることなどもそれぞれにアドバイスがあり、一日中、ちょっとしたすきま時間でマインドフルネスが実践できるのが、この本の“ツボ”だ。

 また、人間関係へのマインドフルネスの応用も「上司に全否定されたとき」「ムカつく相手をやり込めたくなったとき」「奥さんや旦那さんに八つ当たりされたとき」など、具体的なケース別アドバイスがあるので人間関係に悩んでいる人はぜひ、参考にしてほしい。

 スピーディにマルチタスクをこなすことが求められる現代において、私たちの脳は常に複数のタスクや「やるべきこと」「考えなきゃいけないこと」でパンパンになってストレスだらけだ。そして、こうしたストレスが依存症や肥満、さらにはがんや心臓病や糖尿病など、現代人特有の心や身体の病気を引き起こすのだが、本書にはそうした疾患に対する病理別アドバイスもある。ぜひ本書でマインドフルネスを学び、“ヘトヘト”に疲れがちな脳に滋養を与え、心も身体も健康になり、より自分らしく生きてみてほしい。

文=町田光