何気ない日常も面白すぎる…モンスターエンジン西森『声を出して笑っていただきたい本』

エンタメ

2019/1/1

『声を出して笑っていただきたい本』(西森洋一/ワニブックス)

 お笑いコンビ・モンスターエンジンの面白さをかいつまんで説明するのは難しい。代表ネタ「神々の遊び」を思い出してみよう。さまざまな人間の前に、上半身裸の男が現れて「私は神だ」と名乗る。人間は最初戸惑っているが、そのうち苦しめ始めてやはり上半身裸になり「私だ」と言う。どういう原理かはわからないが、見る者はやみつきになってしまうのだ。

 ネタ作成をおもに担当している西森洋一さんの著書『声を出して笑っていただきたい本』(ワニブックス)には、そんな「理由は不明だが面白い」感覚がつまっている。西森さんは2016年元日から毎日、日記をつけることにした。本書は2年半の日記から選ばれた98編で構成されている。タイトル通り「声を出して笑える」日もあれば、後からじわじわ面白くなる日もある。そして、気がつけばまた最初から読み直してしまう。

 日記とはいえども、本書は単なる日常の記録ではない。どのエピソードも途中までは1日の出来事が綴られているのだが、やがて西森さんの妄想が挟まってくる。たとえば行きつけの美容院で、西森さんはお客の中で自分だけ2回髪の毛を洗われていると気づく。よほど自分の頭は臭いのだろうか。そこから西森さんは、美容院のスタッフルームには、常連客の写真と注意書きが貼ってあるに違いないと妄想していく。

『西森は最初よく洗うこと。カムバックデンジャラスあり』
『佐伯は、ほとんどの時間、切っているふりで良い。どうせすぐ、また来る。金持ち、ハゲ、カモ』
『飯田には、雑誌を店あるだけ持って行け。速読術あり』

 さすが芸人だけあって、ネタのような完成度の文章である。そのほか、何気ない日常についての記述も面白い。特に、西森さんと子供たちのエピソードは秀逸だ。予測もつかない行動をとる子供たちがなんとも微笑ましい。そして何より、西森さんの切り取り方が天才的である。

家の前で、ムスメとシャボン玉をした。
ムスメが「シャボン玉大好き」と言ったので、「なんで?」と聞いてみた。
するとムスメ、

「だって、すぐ、消えてなくなるから」

 こんな風に、西森さんの日常はネタの宝庫だ。営業で地方を飛び回ったり、家族と出かけたりすると、必ずといっていいほど事件が起こる。痔に悩まされて手術を受けたときは、苦しみながらも「これが笑いにならないか」と考えている様が伝わってくる。また、凝り性の西森さんには趣味も多い。休みの日にはアート製作のため、実家の工場でせっせと機械を動かす。ゴルフやフットサルなど、芸人仲間との交流にも大忙しだ。人気芸人の日常が垣間見える点でも、本書は貴重だろう。

 個人的には、西森さんが物事にツッコミを入れるときの視点が大好きである。普通の人が見逃してしまうような小さい違和感を、西森さんは突き詰めていく。代表例として、とあるラジコン用エンジンについてアマゾンでカスタマーレビューを読んだときの反応を挙げてみよう。「これまでの商品に満足できず円形脱毛症と鬱病を発症した」というレビュアーに西森さんは容赦なく牙をむく。

悩みすぎ……おもちゃが原因で酷い病気になりすぎ。

川に投げ捨ててやれば良かったのだ。

これが病気になるとしたら、何が原因でもなる。

 この調子で2ページ以上もツッコミが入る。もはや、レビューではなく西森さん自身が面白い。

 西森さんにとって日記はライフワークと化している。日記を朗読するライブを定期的に開催しているほか、これから内容がたまり次第続編を刊行する可能性も「あとがき」で綴っている。それにしても、どうして西森さんはテレビや賞レースのようにドラマティックな出来事ではなく、どうでもいいエピソードばかり日記に書きたがるのだろう? その答えは、終盤のエピソード「武智さんとカラオケ」に詰まっている。それを読んだ後は、読者自身も日記を書き始めたくなるだろう。

文=石塚就一