『天才と発達障害』――モーツァルトもアインシュタインも…「空気が読めない人」を生かす方法とは?

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2019/5/21

『天才と発達障害』(岩波明/文藝春秋)

「天才」といわれて、どんな人物を思い出すだろう。アインシュタイン、モーツァルト、南方熊楠…古今東西、歴史上にはさまざまな偉業を成し遂げた天才たちがいる。凡人には到底およばない彼らを単純に尊敬する一方で、どこかで「天才=変人」という印象を持ってはいないだろうか(実際、上記の3人は映画や本を通じて、その変人ぶりが描かれたりしている)。

 昭和大学医学部精神科教授・岩波明氏の最新刊『天才と発達障害』(文藝春秋)によれば、天才たちにある精神特性があったのは事実のようだ。この本では豊富な事例をもとに、彼らの過剰な集中力や大いなる創造性といった側面が発達障害などの精神的特性と関連していることが珍しくないことを示してくれる。

 中でも世の中にない物を生み出す力となる「創造性」は、天才を天才たらしめている大きな特徴といえるだろう。最近の研究では、マインド・ワンダリング(たとえば授業中に上の空で別のことを考えてしまうなど、現在進行していることとは無関係な思考が生起する現象)を「適度」にする傾向がある人ほど、創造性が高いというデータがあるという。

 このマインド・ワンダリングは、精神疾患の中でとりわけADHD(注意欠如・多動性障害)と関連が深い。たとえばアメリカの研究所で「24時間仕事男」と揶揄されるほど研究に没頭する一方で、極端な浪費癖と生活力のなさが目立ったという野口英世や、ひとつのことに打ち込むと他のことを忘れてしまう過剰集中の傾向と、自分でも抑えられないほどの癇癪持ちという衝動性を持つ南方熊楠といった天才たちの特性は多分にADHD的。ほかにもモーツァルトやマーク・トゥエインなどが紹介されているが、彼らのADHD的特性が創造性のファクターになったと考えられるのだ。

 また、もうひとつの発達障害であるASD(自閉症スペクトラム障害)に該当する天才たちも多くいる。時に平均以上の知的能力を持っているが、とにかく特定の事柄にこだわりが強いという彼らだが、たとえばほとんど家から出ずに毎日、日課通りの生活を送っていたというダーウィンや、長らく隠遁生活を続け「自分自身の中に引きこもりたい」との発言まで残しているアインシュタインなど、対人コミュニケーションに難ありの人物が多い。他人の表情や言葉のニュアンスを汲み取れず、いわゆる「空気が読めない」ために孤立することも多いが、その異常なまでのこだわりの強さと集中が創造性につながっているとも考えられる。

 ひとくちに発達障害といってもレベルはさまざまであり、天才だけにより極端な特性が出ていたという面もあるだろう。こと彼らに関してはお世辞にも「つきあいやすい」タイプではないが、そんな彼らがイノベーションを巻き起こし時代や世界を変える原動力となったわけだ。さまざまな行き詰まりをみせている現代社会は、むしろ彼らのようなタイプの登場が切望されもするだろう。

 ではこの先、こうした天才をどうやって育てたらいいのだろう。本書は「〈天才を使いこなせていない〉日本社会の現状を変えなければいけない」と警告する。単一民族国家ではないが日本は極めて高い同質性を持ち、中でも教育現場ではより同調圧力が働きやすい。そこでは、いつも上の空だったり、空気が読めなかったり、集団に馴染めなかったりする発達障害の子ははじき出されてしまいやすく、もしも彼らの中に天才の芽を持つ子がいたとしても、それを育てることはおろか、見つけてあげることすらできていないおそれがある。

 近年、ダイバーシティの重要性がことさら強調されるが、性別や人種だけでなく、こうした発達障害をプラスに評価し個性として受け入れることも大事だ。ある意味、天才を事例に発達障害の「超プラス面」を分析しているともいえる本書。こうした本をガイドに個人が意識変化することも、イノベーションの大事な一歩になるだろう。

文=荒井理恵