『バチェラー・ジャパン』史上最速の破局! 番組を壊した友永氏は、何がしたかったのか?【ネタバレあり】

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更新日:2020/5/7

■友永さんは今までのバチェラーと何が違ったのか?

 今回、最終回が衝撃的だったのは確かなのだが、友永氏が今までのバチェラーとして違う点は他にもいくつかある。たとえば、その本気度を表明するためオーダーメイドの指輪を自ら用意したこと。

 また、第7話のカクテルパーティで弱音を吐き試すようなことを言った中川友里さんに対して「ローズを渡されへん」と宣言したこと。基本、女性に対する結果はローズセレモニーで伝えることが原則である。この時点ですでに友永さんは「バチェラージャパン」という番組の構造を少しずつ壊し始めていた

 そして特筆すべき点は、ファーストローズ(第一話、初対面のカクテルパーティで最初に特別に渡されるローズ)を渡した相手を最後の最後まで残したこと。

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 ファーストローズを渡した相手は、途中で脱落することが今までのシーズンのジンクスになっていた。シーズン1でいえば、鶴愛華さん。シーズン2でいえば、岡田茉里乃さん。最初のカクテルパーティとなると、判断基準は自己紹介時の第一印象と限られた時間での少ない会話程度である。バチェラーに限った話ではないが、第一印象がよすぎることはその後のちょっとしたボロで一気に減点されてしまいやすくなる、というリスクもある。

 ファーストローズについては、一歩リードというよりは、ハンデを抱えてスタートした、という方が正しい見方だろう。

 ファーストローズを渡された相手が途中で脱落してしまうことは、なんら不自然ではない。

 しかし、今回シーズン3では、ファーストローズをもらった岩間さんが最後まで残り続けた。序盤は特に目立った出来事もなく、2人きりのデートや会話もあまりないまま、彼女は当然のように残り続ける

 これはシーズン1と似たような流れである。女性の中でも特に容姿の美しい女性が、他の女性が試行錯誤してバチェラーの気を引こうとする中、ストレートのグーパンチで勝ち進んでいくあの流れ。シーズン1も終わってみれば、久保さんは最初から蒼川さんがタイプだったことは明らかで、「好みの容姿」に小手先の技術は歯が立たないのだ、という残酷なひとつの事実を突きつけてきたのだった。

 シーズン3も、「とにかく強い女が好きだ」と言い続けてきた友永さんは、しかし最も容姿も性格も理想的であるはずの野原遥さんを最後まで残すことはなかった。彼女が彼のタイプだったかどうかは知らないが、とにかく岩間さんとは対極といっていいほど違う女性なので、彼にとって、口先の理想と、現実のタイプには大きな隔たりがあったのだろう

 また、野原さんが脱落した9話は、友永さんの人間性が最も露骨に出た場面としても記憶している。

 3人の女性に会った後の家族に、誰がよかったか聞いた彼は、全員が口を揃えて「水田さん」というのに対して、突如烈火のごとくキレ始める。自分から聞いておいて「女性を比べるなんておかしい」というおかしなことを語り始め、最後「俺は恵さんがいいと思っているのに!」である。

 彼は最初から最後まで、岩間恵さんがいいと思っていた、ただそれだけである

■岩間恵さんと付き合うための最適解が番組の破壊だった

 では、それがなぜ、こんなにもこじれたのか。

 それは最後に岩間恵さんがゴネ始めたからである。というより、最初から岩間さんを好きで、「好きになってほしい」という告白までしていた友永さんだが、バチェラーとしての驕りがあったのだろう。当然岩間さんは自分のことを好きだと思っていたのだろう。だから、特別なデートなんて用意せず、ただ最後にローズを渡すだけで満足していた。

 しかし、彼女にとっては、最初にローズを渡されてデートをしたあとは、すっかり放置。いわゆる「釣った魚に餌をやらない」男に思えてきても仕方がない。油断をしている友永さんに対する、苛立ちもあるだろう。おまけにどうやら、彼女が異性との相性として大事にしている食の好みも合わないようだ。

 信頼関係を深めるよりもまず、不安ばかりを育んでしまっていた彼女は、最終話、彼に対して本音を打ち明ける。「人としても好きだし、一緒にいる時間も好き。なんだけど、これって恋愛感情なのかなって思うと、ちょっと違和感がある」と。事実上、友永さんはフラれたのだった。

 これはシーズン1でも同様のことがあった。久保さんが当然のようにローズを受け取ってもらえると思ったら、その場で辞退されたことがあったのだ。バチェラーは、単に選ぶことができる最大の権力者ではない。彼らもまた選ばれる立場にある

 最後のローズセレモニー。フラれる覚悟があっても、岩間さんにローズを渡す、という選択肢もあっただろう。また、セレモニー前の彼女の心の内を聞く限り、渡されたら辞退することはなさそうだった。しかし、彼は渡さなかった。

 その理由については一視聴者の立場ではわからない。しかし、その彼の選択こそが、この番組において、最も好きな女性である岩間恵さんと結ばれる可能性の高いことだったというのは否めない。

 覚悟ができていない恵さんにローズを渡しても、結局いままでのバチェラー同様、実生活までの関係性を築くのはかなり難しかったかもしれないからだ。

 しかし、彼は舞台を下りたあと、バチェラーという立場を一切合切捨て、その上で本当に求める相手のもとに向かっていった。

 これはもはや「バチェラー・ジャパン」が標榜する「真実の愛」の否定でしかない。この世界では真実の愛は手に入らないとわかり、一度は終わらせたあと、改めて彼は諦めきれない欲望のまま動いた。

 7話で中川さんが脱落したあと、スタジオではMCの藤森慎吾さんが「バチェラーは全員が幸せになるなんてことはないんです」という真実をさらりと言ってのけていた。そんな彼の残酷な一言に、しかし今田耕司さんは同調しながらも「そのために豪華な車で泣けるようにしているんです。リムジンで送っていきますから」とカバーする。まさか、最後のローズを渡された相手が泣くことになるとは、誰も想像していなかった。

 顛末を伝えたあとのスタジオでは、バチェラーとしてのプロ意識の低さを糾弾される場面もあった。「バチェラーじゃなくて婚活パーティ行ったら?」という辛辣なセリフも吐かれていた。しかし、彼にとっては屁でもないだろう。だって、バチェラーという番組に背を向けて得た幸せなわけだから。知ったこっちゃないだろう。

 時間も距離も不自然なほどに制限された世界で争う「バチェラー・ジャパン」という番組において、一度相手と距離をとり、ゆっくりと時間をかけながら絆を結ぶ、という恋愛における最適ルートを選んだ友永さん。番組としては崩壊しているが、たとえば「いい加減、結婚報告を聞きたい」というスタジオメンバーや多くの視聴者の望みには、もしかしたら最も高い可能性で応えるかもしれないのだから、皮肉である

 といっても、これは何度も使える手ではないだろう。シーズン4の募集はすでに始まっている。「バチェラー・ジャパン」という番組に対する視聴者の期待や、それに応えることの難しさがこのような形で明らかになったあと、次のバチェラーはどのようにして「真実の愛」を手に入れようとするのだろうか。

文=園田もなか

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