落合陽一氏が見透かす2030年以降の世界の姿とは? データと図解、論客との対談で示す未来の形

ビジネス

公開日:2019/12/11

『2030年の世界地図帳』(落合陽一/SBクリエイティブ)

 今から10年後の2030年、世界と日本はどうなっているのだろうか?様々なテクノロジーが進化した世界にはなるはずだが、それを推測するのは容易ではないだろう。

 一方で、地球と文明の“持続可能性” には、先の見えない不安要素も多い。国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、「現在のペースで二酸化炭素が排出され続けた場合、2030年から2052年の間に1.5度※1、2100年には4度程度まで上昇するシナリオ※2」もありうると警告する。また、他にも、世界的な格差社会の広がり※3や、日本では少子高齢化社会が本格化※4するといわれている。

 こうした“曲がり角”を迎える時代に、どうすれば近未来予測ができるのか。『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』(SBクリエイティブ)を上梓した落合陽一氏によれば、「これからの世界について考える上で、重要な鍵となる国際的な枠組み」があるという。

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 それが、タイトルにもある「SDGs(エスディージーズ、Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」だ。

 2015年の国連サミットで採択された「SDGs」とは、各国政府が国連やNGO、さらにはグローバル企業を筆頭とする産業界とも一丸となって掲げる、世界を変えるための共通目標であり、具体的には“2030年までに達成すべき17の目標”だ。

 17項目には、気候変動対策やクリーエネルギーの推進だけでなく、貧困・飢餓の撲滅、人種・ジェンダーの平等、教育なども含まれている。

 そして、2030~50年頃までの近未来における世界情勢と日本を、SDGs、つまり、持続可能性という観点を土台に含めながら、テクノロジーと人口、貧困と格差、環境問題と企業、SDGsとヨーロッパの時代…といったテーマ別に予測・解説するのが本書なのである。

 では、SDGsを土台にした“未来望遠鏡”には、どんな世界や日本の姿が映るのだろう? 本稿では多くの人の関心が高い「テクノロジー」について紹介しよう。

出典:経団連

 例えば、ロボティクス医療の高度化、iPS細胞による再生医療、ゲノム編集技術等、医療分野における様々な明るい未来予測が本書にある。

 これらが実現することで、SDGsの目標のひとつ、「すべての人に健康と福祉を」も同時に達成できることになる。

 また本書では、世界的な潮流を予測する指標を見比べながら10年間で5つの「破壊的テクノロジー」(社会を一変させるような影響力を持つ技術)を紹介する。それが、①AIなど機械学習関連技術領域、②5G、③自律走行(自動運転)、④量子コンピューティング、⑤ブロックチェーンである。

 ブロックチェーン技術は今後、フィンテック(金融業界)だけでなく、食品・食糧に関するイノベーションにも関わると、著者は期待する。

 例えば、2020年代にはブロックチェーンによる食品管理が始まり、IoTデバイスやAIによる予測と最適化などと連動しながら生産量・流通量をコントロールすることで、フードロスをなくし、食品の経路追跡であるトレーサビリティも向上し、環境と健康をこれまで以上に意識した食生活が送れるようになるという※5。

 また、自動走行は農業機器にも普及し、IoT化された「スマート農業」も進化するという。これら食品・食糧に関するノウハウを国内で生かし、さらに途上国などに提供することで、SDGsの目標の第1番目と2番目に置かれた、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」の達成にも貢献することができそうだ。

 一方で、少子高齢化と貧困化に対する懸念が大きい日本では、2035年前後に地価の大暴落が予測されているというデータがある※6。この時期、団塊世代の鬼籍入りによって土地や家屋の相続が相次ぐものの、子供世代が相続税を払えずに多くの不動産が売りに出されるからだ。

 その結果、30年代の日本の不動産事情は、大きな変化にさらされる可能性が高いという。

 さて、これらは本書のほんの一例である。この他にも多岐にわたるテーマでの先端情報に基づく未来予測が展開されている。AIによる“職業淘汰”に関する著者の見立ては、多くの人にとって参考になるだろう。

 タイトルで「世界地図帳」と銘打つだけに、各章には様々なデータが地図やグラフ、年表化され、私たちの理解をサポートしてくれる。そして本文の後には、各章ごとに専門家との対談コーナーが用意されている。この対談があることで、視点を変えながらより立体的に各章のトピックスが学べるようになっているのだ。

 ちなみに、貧困と格差をテーマにした第2章、SDGsとヨーロッパの時代の第4章では、対談相手として池上彰氏が登場する。すべての対談が色濃い内容だが、人気論客二人の顔合わせというのも、本書の読みどころのひとつだろう。

 ぜひ、“持続可能性”ということを意識しながら、本書を通じて落合氏の思い描く2030年以降の世界を一緒に探求してみてはいかがだろうか。

文=町田光

※1 IPCC, Global Warming of 1.5 ºC  Special Report  Summary for Policymakers, 2018[https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/2/2019/05/SR15_SPM_version_report_LR.pdf](最終検索日:2019年10月14日)
※2 Intergovernmental Panel on Climate Change, Climate Change 2014 Synthesis Report, 2015﹇https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/05/SYR_AR5_FINAL_full_wcover.pdf﹈(最終検索日:2019年10月1日)
※3 ブランコ・ミラノヴィッチ著 立木勝訳『大不平等―エレファントカーブが予測する未来』(みすず書房、2017)
※4 リクルート・マネジメント・ソリューションズ「2030年、実に人口の1/3近くが65歳以上の高齢者になる」[https://www.recruit-ms.co.jp/research/2030/report/trend1.html](最終検索日:2019年8月17日)
※5 5in5(IBM リサーチ)2019[http://www.research.ibm.com/5-in-5/?source=social](最終検索日:2019年9月24日)
※6 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」[http://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2013/gaiyo_20130115.pdf](最終検索日:2019年8月16日)