べた甘な同棲生活にキュンキュン! おつまみレシピに腹が減る! 夢見る酒呑みに最適の少女マンガ

マンガ

公開日:2020/4/22

『トナリはなにを食う人ぞ ほろよい』(ふじつか雪/白泉社)

 料理マンガのいいところは、絵で工程がわかることである。そして、主人公たちに感情移入するほどに、シチュエーションも想像しやすいからか、ついつい作ってみたくなる。『トナリはなにを食う人ぞ ほろよい』(ふじつか雪/白泉社)は、同棲したてのカップル・すずなと瀬戸を主人公に、生活感があって(つまりはそこそこ簡単で)、日常なんだけど特別感のある料理が紹介されるところも、いい。しかもタイトルに「ほろよい」とあるように、どれも酒のつまみにぴったりなのも最高だ(ちなみに、酒にあうものはたいてい、米にもあう)。

 本作は『トナリはなにを食う人ぞ』(以下、無印:大学生編)の続編。前作は、生活力ゼロの大学生・すずなが隣人の瀬戸に料理を教えてもらううち、好きになってしまい……という物語。今作では、晴れて恋人同士になった2人の卒業後、べた甘な同棲生活が描かれる。

 ……といっても、仕事をサボっていちゃいちゃしているわけにもいかないし、激務が続けば帰りが遅くなることもザラ。そういうとき必要なのは、胃もたれしない程度の軽いおつまみとお酒(蒸し鶏ときゅうりの梅あえとか、ナッツのチーズチップスとか)。あるいは気分転換になるおいしい軽食(サンドイッチとか)。あるいは多忙を抜けたあとのちょっと贅沢な打ち上げごはん(かぶとほたての塩バターレモンソテーとか)。お互いをいたわりつつ、育ってきた文化の差からたまには喧嘩もしつつ、適度な距離感で共同生活を営んでいく2人をつなげる“食”の場面を読んでいるだけで優しいきもちになるし、非常にお腹がすいてくる。

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 4巻では、疲れの溜まっている瀬戸のためにすずながロールキャベツを仕込むシーンがある。共同生活が長くなると、どうしても「○○してあげた」「××してくれない」という不満が溜まってしまいがちだが、相手に喜んでもらいたい、自分も一緒に楽しい場を過ごしたい、という想いを忘れないことが幸せの秘訣なのだなあと、そのエピソードを読んで思う。記念日という認識のなかったすずなが、つきあって2年目にしてはじめて祝おうとするエピソードも、期待しすぎない、見返りを求めすぎない、ということもふくめて、2人が互いを想いあうきもちにしみじみさせられる。

 また、すずなの資格取得を祝い、金沢に温泉旅行するエピソードも最高だ。どのシチュエーションでもお酒が飲みたくなる至高の食い倒れツアー。おかげでお腹がぽこんと出たせいで“夜”を思って動揺するすずなも、念願の混浴に浮かれる瀬戸も、とにかくかわいい。そして、旅先で仕入れた土地の野菜で、帰宅後も一緒にごはんをつくって食べられるという、非日常と日常が地続きになった生活の尊さに、憧れとともにキュンキュンしてしまう。

 実をいうと無印は未読なのだが、最初はすずなに恋愛対象外宣言したらしい瀬戸がどういう経緯でこんなにべた甘になったのかも気になるし、レシピをもっと知りたいし、5巻が出る前にまずは無印を読んで、2人のレパートリーをどんどんモノにしていきたいと思う。

文=立花もも