【ネタバレあり】『鬼滅の刃 20』鬼殺隊と“十二鬼月”最強の男が激突! 劣勢の中、最後の力をかけて立ち上がったのは…

マンガ

更新日:2020/5/14

『鬼滅の刃 20』(吾峠呼世晴/集英社)

 鬼舞辻無惨を討伐するため、無限城で最終決戦に臨む鬼殺隊。ときに怒りや犠牲に涙を流しながらも、“十二鬼月”最強クラスの“上弦の参”と“上弦の弐”を撃破。1000年にわたる果てない戦いに少しずつ光明が差してきた。

 けれども油断はできない。最終目的である鬼舞辻無惨が待ち構える上、呼吸術を使う剣士“上弦の壱”黒死牟の強さに目眩がしそうだ。

『鬼滅の刃 20』(吾峠呼世晴/集英社)は、黒死牟との死闘から幕が開く。立ち向かうは、“岩柱”悲鳴嶼行冥、“風柱”不死川実弥、その弟で鬼を喰らって力を得る不死川玄弥、“霞柱”時透無一郎の4名。

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 おそらくこの4名がそろえば“下弦の鬼”など跡形もなく消し飛ぶだろう。それだけ鬼殺隊でも屈指の実力者たちなのだが、“十二鬼月”最強の黒死牟の前には防戦一方。というより片腕を失った時透は刀で磔にされ、弟の玄弥は胴を真っ二つに割られて、兄の実弥も助けが来なければ危なかった。

 この全滅寸前の状況を変えたのが、鬼殺隊最強の男、悲鳴嶼行冥である。討ち取られる寸前の実弥を救い、黒死牟を相手に善戦。黒死牟の刀を折るばかりか、残る3人が再び立ち上がるまでの時間を稼いだ。さらには両腕に炭治郎と同じ“痣”を発現させ、たとえその代償で今晩中に命を落とそうとも、ここで決着をつける覚悟を見せた。この最強同士の激突は手に汗を握る。

 しかし、それでも遠く及ばないのが“上弦の壱”である。黒死牟と悲鳴嶼の死闘に、止血を施し“痣”を発現させた実弥が参戦。柱2人で立ち向かうが、刀を変形させて新しい呼吸術を繰り出す黒死牟に為す術なく傷を負う。それどころか実弥は指を2本切り落とされてしまった。

頸を狙えねぇ、近づけねぇ!!
速すぎてやべぇ!!
攻撃を避けることだけに渾身の力を使ってる!!

 鬼の力と呼吸術がかけ合わさった桁違いの戦闘力に、またも絶望が胸を渦巻く。どうすれば“十二鬼月”最強の鬼に勝てるのか。もう鬼殺隊に彼ら以上の猛者はいない。やはり人間では鬼の討伐は不可能なのか。

 この窮地を一変させたのが、霞柱の時透と、玄弥だった。黒死牟に実力及ばず、退場したはずの2人。彼らは絶望しながらも、死を覚悟して立ち上がった。たとえ黒死牟を追いつめることはできなくても、援護はできる。

 胸が熱くなるシーンがある。炭治郎の言葉を思い出して奮起する玄弥だ。

 玄弥はその特殊な能力により、黒死牟の髪を食べて身体を再生させた。また戦いの場に立てる。しかしまたも一瞬で胴を割られてしまい、足手まといになるかもしれない。玄弥は迷っていた。そのとき、いつか炭治郎に言われた言葉が頭をよぎる。

一番弱い人が一番可能性を持っているんだよ、玄弥

敵は強い人をより警戒していて壁が分厚いけど
弱いと思われている人間であれば警戒の壁が薄いんだよ
だからその弱い人が予想外の動きで壁を打ち破れたら
一気に風向きが変わる
勝利への活路が開く

 この言葉に奮起した玄弥は、黒死牟の折れた刀を口にする。兄や仲間たちを絶対に死なせまいと、起死回生の一撃を浴びせるために。

 一方、片腕を失い失血死寸前の時透は、窮地の実弥を救い、さらに身を呈して黒死牟の体に刀を突き刺した。彼もまた、勝利への活路を開く“弱い人”としての役割を果たす。

 この死と隣り合わせの場面に、私は不思議と希望を覚える。「誰だって活躍できる場面はある」。勇気づけられる思いが胸の内で膨らんでいくからだ。

 今の世の中はフィクションの世界と同じように「実力主義」になりつつある。自分に向いているのか分からない仕事で結果を求められ、思うように腕を振るえなければ、段々と居場所がなくなっていく。どうにも世知辛い。

 だからこそ炭治郎の言葉を目にしたとき、すーっと体の中に入って、全身に溶けるような感覚が走った。「一番弱い人が一番可能性を持っているんだよ」。うん、いい言葉だ。このマンガを読んで、また明日も頑張れそうである。

 さて、心にモヤモヤしたものを抱えるのは弱者ばかりではない。才を持つ強者も“持てる者”としての葛藤がある。黒死牟のことだ。人間だった頃、彼は剣士として生きていた。配下の者がいる程度に、彼は強者だった。ならばなぜ鬼になったのか。強者には強者なりの苦しい景色が見えるようだ。それが20巻の後半で明かされる。

 無限城での最終決戦も佳境だ。どれだけ絶望に打ちひしがれても、勝利への活路を見失わずにここまできた。鬼舞辻無惨の背中まで、あともう少し。もう少しで1000年にわたる果てない戦いに決着がつく。そのはずだ。

文=いのうえゆきひろ