スライムやワーウルフと会話する方法とは!? バトルもない異彩を放つ異世界コミック

マンガ

更新日:2020/7/22

『ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~(角川コミックス・エース)』(瀬野反人/KADOKAWA)

 ワーウルフ、スライム、リザードマン、クラーケンにハーピー。そして、魔界。この単語の羅列で血が沸きウズウズする人は、好戦的な性格なのかもしれない。しかしあなたは、家を出て出会った見知らぬ人に、突然斬りかかったりしない。言葉が通じない異なる人種の人に、敵意を見せたりしない。モンスターは敵とは限らない。こちらの態度次第で、コミュニケーションが図れるかもしれないのだ。

 異世界モノが長く支持を集めている。そんな中で、ひときわ異彩を放っているコミックが、『ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~(角川コミックス・エース)』(瀬野反人/KADOKAWA)だ。

 本書は、魔界に旅立った主人公が数々のモンスターと出会う。しかし、バトルは発生しない。血も出ない。感情のほとばしりもない。あるのは、地道な観察と思考、研究、そして友好的な交流だ。本書の主人公は、魔界の言語とコミュニケーション研究を専門とする学者であり探検家…の弟子。怪我をした師匠に代わり、ひとり、モンスターが暮らす魔界に旅立ち、現地研究を進めることとなる。

 人間界と魔界はかつて敵対関係にあったようだが、現在はそうではない。しかし、言語も違えば風習や文化も全く違う。学問の徒である半人前の主人公は、初めて訪れる魔界を、不安を抱きながらひとり行く。

 世界のグローバル化で、日本でもグローバルな人材育成が急務とされている。英語教育や異文化の学びが教育現場で注力されているが、本書を読むと、それ以上に大切なことに気づかされる。それは、相手を知ろうとする姿勢だ。相手はモンスターだ。人間とは種族すら違う。意思疎通は不可能に思える。しかし、それはモンスター側も同じなのだ。主人公は、研究者として不安と恐怖を抑えながら、真摯に相手を知ろうとする。丁寧にコミュニケーションを図る。相手を理解しようと深く考察する。時には、師匠の手記をめくって、コミュニケーションのヒントを得る。このように真摯な態度であれば、そうそうバトルに突入することはないのかもしれない。

 ちなみに、現地ガイドを務める、ワーウルフと人間の子であるススキがかわいい。

 さて、誰もが知るモンスターといえば、スライムである。本書に出てくるリザードマン、クラーケン、ハーピー、ドラゴンなどのモンスターは、生き物としてイメージしやすい。しかし、スライムは生き物なのか。どこで思考しているのか。「そんなの、ファンタジーなんだからテキトーだよ」と言ってしまっては身も蓋もない。「異種族言語学入門」としても支持されている本書。スライムとの言語交流も説得力をもって描かれている。

 派手なアクションや、スピーディーな展開とは無縁の本書だが、読んでいる最中にナゾの癒やしが味わえる。出てくるモンスターは、それほど表情が豊かではない。しかし、種族独自の多彩なシグナルが判明していくにつれ、情が湧いてくる。RPGでは経験値稼ぎの対象でしかなかったワーウルフやリザードマンが、愛すべき存在に変わっていくのだ。

 モンスターに対する価値観が激変する本書は、唯一無二の魅力的な異世界ものコミックだが、手を伸ばす際は注意してほしい。モンスターたちの日常生活が脳裏をよぎり、これまでのように純粋にRPGを楽しめなくなるかもしれないから。

文=ルートつつみ