女子高生と新任教師の“秘密の関係”を描く『NとS』。マンガ家・金田一蓮十郎の真骨頂がここに

マンガ

公開日:2020/7/12

『NとS』(金田一蓮十郎/講談社)

 先日、マンガ家・金田一蓮十郎さんの名作『ライアー×ライアー』(講談社)が実写映画化されるという、非常にうれしいニュースが入ってきた。金田一さんをデビュー作『ジャングルはいつもハレのちグゥ』(スクウェア・エニックス)から追いかけてきた一ファンとしては、涙が出るくらい歓喜する知らせだった。

 この『ライアー×ライアー』は、“嘘”をテーマにしたラブストーリー。あるとき、女子高生のコスプレをして街に繰り出した主人公・湊が、偶然出くわした義理の弟・透に一目惚れされてしまい、姉ではなく、別人の女子高生として透と恋を育んでいくという物語だ。

 金田一さんの作品は、このように“嘘”“勘違い”“秘密”をテーマに、複雑な人間関係を描くものが多い。『ライアー×ライアー』の他にも、息子のために女装をして母親に扮する男性を描く『ニコイチ』(スクウェア・エニックス)、“契約結婚”で夫婦になった男女の日々を描く『ラララ』(スクウェア・エニックス)などもある。いずれもちょっと“ふつう”ではない関係だが、そこで浮き彫りになる人間模様がとても胸を打ち、“ふつう”とはなんだろう、と考えさせられるのだ。

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 そんな金田一さんの作品のなかで、どうしても読んでもらいたいものがある。それが『NとS』(講談社)だ。

 本作も“秘密”をテーマにしたラブストーリーであり、毎話読むごとに悶えてしまいそうになるくらい切ないのである。

 主人公は女子高生の新菜。彼女は喫茶店でアルバイトをしており、佇まい含めて少し大人っぽい少女だ。その喫茶店の常連客である小田さんに、コーヒーの淹れ方がうまいと褒められたことを機に、ふたりは急接近。そして恋人同士になる。

 …と、ここまでは王道の展開。ところが、高校2年生になった新菜の前に現れた新任の教師が、なんと小田だったからさぁ大変。女子高生と教師。これはまさに禁断の恋。さすがにそれは問題あるでしょ、ということで、ふたりは別れを決意する。

 でも、決して嫌いになって別れたわけではない。むしろ、想いはまだ残っているのだ。ただ、立場を考えるとどうしたって付き合うわけにはいかない。新菜も小田も、過去の関係を隠し、あくまでも生徒と教師として接することを約束するのだ。

 本作は、この「決して嫌いになって別れたわけではない」がポイント。気づけば校内でも目で追っているし、一挙手一投足が気になってしまう。だけど、誰にも相談できない。“秘密”によってふたりは近くもあり遠くもあるという、複雑な関係に追いやられてしまう。

 そして第3巻では、当て馬男子(?)的なキャラクターも登場し、複雑さを増した三角関係が展開されていく。金田一さんの描く物語に、読者はドキドキさせられっぱなしだろう。

 ちなみに、生徒と教師の関係を描いているからといって、インモラルな物語ではないことを付しておきたい。むしろ、本作に登場するのは誰もがピュアで、だからこそ応援したくなる魅力を持っているのだ。相手のためを思って身を引く、そしてさらに“嘘”をつく。こんなに切ないラブストーリーがあるだろうか。つらい。

『ライアー×ライアー』実写映画化で金田一さんの作品に触れる人も多いだろう。そんな人たちには、ぜひこの『NとS』も読んでもらいたい。

文=五十嵐 大