レジ袋の占める割合は、プラごみ総量のわずか1.7%! ガラパゴス化した日本のプラごみ政策

暮らし

公開日:2020/8/18

海洋プラスチック 永遠のごみの行方
『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』(保坂直紀/KADOKAWA)

 2020年7月からはじまったプラスチック製レジ袋の有料化。しかし、国内で出るプラスチックゴミの総量は年間900万トンで、レジ袋の占める割合は、実はわずか1.7%にすぎない。

 そして、レジ袋の代わりにエコバッグを使い始めた人も、それがプラスチック製なら何の意味もないかもしれない。

 繰り返し使えるプラ製のエコバッグには、レジ袋の何倍ものプラスチックが使われている。仮にプラスチックの量が100倍だとしたら、100回未満の使用で捨ててしまえば、レジ袋をつかうとき以上に多くのゴミを出してしまうのだ……!

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 上記の話は、『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』(保坂直紀/KADOKAWA)に書かれたもの。著者はプラスチックゴミによる海洋汚染、生き物の被害の問題を負い続けるサイエンスライターで、東京大学大学院と大気海洋研究所の特任教授だ。

 著者は先述のプラ製ゴミ袋の有料化について、「プラスチックゴミに対する社会の意識を高める象徴」としての意義を認めつつ、「それで安心してはいけない」「ほかにもやるべきことが、たくさんある」と同書で訴えている。

 この本は、先のレジ袋の有料化をきっかけにプラスチックゴミの問題に興味を持った人にこそ、ぜひ読んでほしい内容なのだ。

 プラスチックゴミが、その丈夫さゆえ自然界でもほぼ分解されず、世界の海を漂っており、海岸も埋め尽くしていること。掃除をせずにプラスチックゴミのない浜辺など、今の世界ではほとんど存在しないこと。1日で世界の海に流入するプラスチックゴミの重量は自家用車1万5000台分にもなること……。

 この本では、そうしたプラスチックゴミの現状と基礎知識が詳しく解説されている。中でも興味深いのが、ガラパゴス化した日本のリサイクルの現状だ。

 同書によると、世界のプラスチックゴミのリサイクル率は約9%。それに対し、「日本のプラスチックゴミのリサイクル率は80%以上」とよく言われるそうだが、この数字にはカラクリがあるという。

 というのも、日本では焼却処理の際に出る熱を発電などに利用した場合、その処理が「リサイクル」に分類される。この処理方法を日本では「サーマルリサイクル」と独自に名付けているが、世界的にはリサイクルとは決して認められないものだそうだ。そして「サーマルリサイクル」の分を差し引くと、日本のリサイクル率は世界でもごく標準的な数字になってしまう……。

 また日本は、プラスチック製レジ袋の有料化で圧倒的に出遅れた。その出遅れのあいだに、フランスではプラスチック製容器の使用の原則禁止が、イギリスではプラスチック製のストロー、マドラー等の販売禁止が決定。台湾でも使い捨てプラスチック容器の禁止が段階的にスタートしている。

 なお日本は、海洋プラスチックゴミの削減目標を先進国で共有する2018年の「海洋プラスチック憲章」に、米国とともに署名しなかった。

 そして日本がホスト国を務めた2019年のG20では、「2050年までに海洋プラスチックゴミによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す」との首脳宣言を掲げたが、実質的に問題解決を30年も先送りした感があったこと、海洋プラスチック憲章と比較して具体的な数値目標に乏しかったことには批判も集まったという。その首脳宣言には、まだ見ぬ技術に期待するかのような「革新的な解決策」といった文言も並んでいたそうだ。

 現状分析の数字にカラクリがあり、具体的な数値目標に乏しいこと。アジアでは台湾等に出遅れており、いつか訪れる革新的な技術に期待して現状を放置していること……。

『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』で知ることになった日本のプラスチックゴミへの態度は、なんだか昨今のコロナ対策にも似たものを感じてしまう。自分のプラスチックゴミへの意識を高めるうえでも、国や自治体の動きを注視するうえでも、本書は今こそ読んでおきたい1冊だ。

文=古澤誠一郎