突然の死別、想像できますか?「旦那が突然死にました」で知る悲しみと日々の大切さ

出産・子育て

公開日:2020/9/2

旦那が突然死にました
『旦那が突然死にました。』(せせらぎ/エムディエヌコーポレーション)

 愛する夫が突然亡くなる…そんな状況に直面したせせらぎさんの3年を記録したコミックエッセイが『旦那が突然死にました。』(エムディエヌコーポレーション)である。

 ありえない、あってほしくないことだが現実に、起こる。せせらぎさんと2人の子どもは、夫・まーくんと “死別”した。彼女はその経過、起きた出来事、心情を、友人にすすめられてブログに書くようになった。それが2つのブログの賞を獲得し、今回“奇跡”の書籍化を果たしたのだ。

 コミックエッセイを中心に、くすりと笑える4コマ漫画、思考や感情を整理したコラム、そして写真などをたっぷり盛り込んだ本作。読後、これが死別のリアルなのだと、心底思えた。“涙と感動”というありふれた言葉では言い尽くせない内容を、僭越(せんえつ)ながらレビューさせてもらう。

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 なお多くの人は涙がこみあげてくるだろうし、感動するだろう。だがその先、「大切な人との普通の時間を絶対に大切にしよう」とも思うはずだ。ちょっと悲しすぎたらゆっくり読んでもいい、ただ最後の1ページまで、しっかり読んでほしい一冊だ。

ある日、夫が死にました。

 なんの予兆もない青天の霹靂。3歳と1歳の子どもと幸せに生きていたせせらぎさん一家。結婚4年目。まもなく5回目の結婚記念日を控えたある日、せせらぎさんは子どもたちを連れて親戚の家に泊りがけで行っていた。ちょっとした仲違いもあった後で。

 その間にまーくんは、ひとりで死んでしまった。

 携帯電話が鳴った。せせらぎさんがでると、夫の会社の人。会社に来ない、連絡が取れないので自宅へ様子を見に行ったら“すでに脈がない”のだという。震える手でハンドルを握り車を走らせたせせらぎさんは、ただただ信じられなかった。だが車内で救急の人からの残酷な言葉をきく「この場で死亡を確認させていただきます」。

隣にある『それ』はもうただの人形でまーくんの形をした
まーくんではないもの
もう
まーくんは
この世界の
どこにもいない

 こうして彼女の死別後の生活が始まった。本書は以下の6章で構成されている。

第1章 はじまり
第2章 1年目
第3章 2年目
第4章 3年目
第5章 これから
第6章 きみへ

 第1章から第4章は、想像を絶する、辛く大変な日々が描かれている。死を受け入れる間もなく、家族の死後手続き、故人の資産相続などを行い、もちろん葬儀も喪主として式を執り行った。夫婦を知る友人や仲のよかった家族に何を言われても。気持ちを逆なでされるように感じたという。コントロールがきかない。きくはずもないのだ。何をみても、何を考えても、泣き続ける日々。涙は尽きなかった。

 当たり前だが子どもたちを育てなければならない。悲しみながらも前を向こうとする。周囲に慰められながら保育園の運動会に参加。泣きながら子どもと走り回った。また、にぎやかなクリスマスパーティをまーくんの友人たちに開いてもらった(クリスマスは彼の誕生日でもあった)。毎年撮っていた家族写真も3人で撮りに行った。

 やがて夫が勤めていた(彼女が彼と出会った)会社で働かせてもらうようになる。すぐに切り替えられなくても、生きなければならない。ただ心身ともに頑張りすぎていていたために、死別から2年目には「子どもたちを連れて夫の後を追おう」と考えたこともあったという…。

 愛する家族と死別するフィクションのストーリーは星の数ほどある。しかし現実の死別はここまで濃密な悲しみが、長い時間、続くのだと読んでいて本当に辛くなった。3年目、悲しさは薄らいだが、寂しさは増す一方なのだそうである。

 だが今は“幸せ”なのだというせせらぎさん。多くの人に助けられ、やりがいのある仕事もこなし、子どもは成長し、死別から3年目に、書籍化の話が来た。

 ここで「ドラマなんかだと死んで5分くらいで“前向きに生きている”となる。でも端折られたその間の葛藤と苦しさ、そして喜びを書きたい」と思ったそうだ。

 辛さに耐えながら、涙を流しながら書き上げた本書は、せせらぎさん自身の前向きなスタートになったのだな、と感じた。

死別から幸せになる決意表明

 本作は死別を経験した人なら間違いなく共感できる。ただ、大切な人がいる全ての人(ようするにほぼ誰にでも)に読んでもらいたい作品だ。繰り返すが、大切な相手とのいつもの時間を、本当に大事にしようと思えるようになるからだ。

 せせらぎさんは、“第5章 これから”でこう書いている。

まーくんが死んでから
私の人生は
輝きだしました
目に映る
すべてのものに感動し
飛び立つ鳥にすら
涙がでます
出会う人も見るものも聞く言葉も
すべて意味あるものと捉えるようになりました

 夫の死から3年、運命的で奇跡的なことが続き(本作で読んでほしい)、本作ができあがった。もちろん彼女は奇跡的な人生よりも、夫と子どもたちと歩めるありふれた人生をのぞんでいたはずだけれど。

 “第6章 きみへ”で3年前の自分への慰めの言葉と天国の夫への感謝を書き、明るい写真で本作は終わる。

 “号泣必至”なんてありふれた言葉は使いたくない。でも家族のいる方は泣かずにはおれないだろう。ただひとしきり泣いたら、ぜひ笑おう。笑えることが幸せな1日1日を大切に過ごそう。せせらぎさんの“幸せになる決意表明” を読めばきっと、「そうしなければ」と思えるはずだ。

文=古林恭