「梨泰院クラス」「愛の不時着」を見ていたら猛烈にお腹がすきませんか? 韓国ドラマはとにかく「マシケッタ」!

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更新日:2020/10/7

梨泰院クラス
Netflixオリジナルシリーズ『梨泰院クラス』独占配信中

 大ブームとなっている韓国ドラマ「愛の不時着」を観て猛烈にフライドチキンが食べたくなり、〈ウーバーイーツ〉でデリバリー。「梨泰院クラス」を観て猛烈にチゲが食べたくなり、こちらも〈ウーバーイーツ〉。そんな感じでここ数カ月、すっかり韓国じみている筆者の食生活である。とにかくマシケッタ(おいしそう)なのだ、ドラマに出てくる食べ物が。北朝鮮の豊かではない村の縁側で食べる茹でたトウモロコシやコンビニのイートインスペースで食べるカップラーメンまでおいしそうに見えてくる。

「愛の不時着」の主人公ユン・セリは、韓国のセレブだ。財閥家の出身で、自身でファッションブランドの事業を立ち上げ大成功している。セレブなので、当然私生活は豪華絢爛。部屋が5つあるという豪邸マンションに住み、高級レストランで食事をする。でも食に興味があるわけではなく、相手が気に入らなかったり味が好みでなかったりすれば、3口以上は決して食べない。そのため「小食姫」なんていうあだ名までついている。「愛の不時着」とは、そんな小食姫セリが、同僚や仲間と〈サブウェイ〉のサンドイッチを食べて笑顔を見せるまでの物語だ…というのは嘘だが、ある面では真実でもある。

愛の不時着
Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中

 一方、「愛の不時着」と並ぶ大ヒットとなった「梨泰院クラス」。飲食業界が舞台であるから当然といえば当然だが、こちらもまた「食べる」ドラマだ。主人公であるパク・セロイが開業する飲食店「タンバム」の看板メニューは彼の亡くなった父親のレシピをもとにした豆腐チゲとコチュジャンの豚肉炒め(これ、「豚肉のコチュジャン炒め」じゃないのかといつも思うのだが、字幕では常に「コチュジャンの豚肉炒め」となっている)。劇中には『料理の鉄人』的な料理バトル番組も登場する(その料理バトルを通して描かれる「タンバム」のコック、マ・ヒョニの物語はドラマのハイライトのひとつでもある)。

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 グルメドラマでも料理ドラマでもないので、悪いキャラがうまい料理を食べて改心するとか、料理の味で記憶が戻るとか、そういう『美味しんぼ』的な展開はもちろんない。ただ、登場人物がおいしそうな料理をおいしそうに食べるだけである。が、「梨泰院」のクライマックスはセロイが敵対する財閥会長にチゲを振る舞うシーンだし、「不時着」の団らんシーンは、殺伐としたセリの実家(財閥)の食事シーンと対比的に描かれ、セリと彼女を取り巻く人々との関係性を描き出す。「食べる」ことが、背骨のように貫かれているドラマのテーマを浮かび上がらせるのだ。そのテーマとはずばり「家族」である。

 まさに現代格差社会における「家族」という問題を提起し、今年アカデミー作品賞を受賞したポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』でも「チャパグリ」というB級グルメ(インスタントジャージャー麺「チャパゲティ」とインスタントラーメン「ノグリ」を組み合わせたもの。見た目はあれだがうまそう)が印象的に登場したが、「不時着」に次いでNetflixでヒットしている「サイコだけど大丈夫」でも、ちょっと前の作品ではあるがこちらも名作の「椿の花咲く頃」でもそう。「食べる」ことと「家族」というのは現代韓国ドラマにおいてとても普遍的なテーマのようなのだ。

「梨泰院」はパク・セロイによる人生を懸けた復讐の物語だが、その復讐譚は、飲食店ビジネスで敵(巨大チェーンをもつ大企業)に勝つという「半沢直樹」的な男臭いサラリーマンスポ根であると同時に、セロイ自身が1度は失った、そして冷酷非道な財閥の世界ではありえない、人間的で情緒的な「家族」の関係性を取り戻すまでの軌跡でもある(マイノリティばかりが集まった「タンバム」の顔ぶれは、セロイにとっての疑似家族だ)。

「不時着」はどうかといえば、まさに財閥の出身であるセリと家族との関係は悪く、とりわけ母親とは血がつながっていないということもあって険悪である。だがそのセリが北朝鮮にパラグライダーで不時着し、いろいろあるうちに北朝鮮の軍人リ・ジョンヒョクと恋に落ち、そのせいで命まで狙われてしまうなかで「家族」的ともいえる人間同士の関係性に気づいていく。そして最後にはすれ違っていた母親と和解するのだ。

 いずれの作品でも軍の幹部や財閥といった旧弊的な「名家」が主人公と対立するものとして描かれ、ストーリーを阻む壁として登場する。主人公たちはその壁を乗り越え、意志や愛を貫こうともがく。それがドラマとなるのだし、これらの作品が設定やシチュエーションはそれぞれながらも普遍的な人気を得るに至っている魅力の根源だ。「家族や仲間ととる食事は楽しいしおいしい」。そんな、当たり前といえば当たり前だが現代にあってはもしかしたらレアかもしれない価値を取り戻すまでの物語。だから「愛の不時着」も「梨泰院クラス」もマシケッタ、なのである。

 ちなみに、個人的にいちばんぐっと来て、でもまだ体験できていないのが「タラビー(タルメク)」。「不時着」でセリが隠れ住む村の奥さん連中がセリを元気づけるために押しかけてくるシーンで、彼女たちが激推しする「干し鱈とビール」のカップリングだ。韓国での大定番「チメク」(チキンとビール)にかけたギャグなのだが(ちなみに「チメク」流行のきっかけとなったドラマ『星から来たあなた』の脚本を書いたのが「愛の不時着」のパク・ジウン)、確かにうまそうなのである。干し鱈手に入れたら、即実践してみます。

文=小川智宏

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