現役広報マンが作成! 日本の歴史的事件をプレスリリースで端的に解説『もし幕末に広報がいたら「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』

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更新日:2022/3/27

もし幕末に広報がいたら「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』
『もし幕末に広報がいたら「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』(鈴木正義/日経BP)

 プレスリリースとは、企業が新商品や新サービスなどを告知するための文書だ。インターネット上では、日ごとに無数のプレスリリースが配信されている。多くはデータで配信されるのが一般的だが、もし戦国時代や幕末にプレスリリースがあったら……。

 そんなユニークな妄想を真剣に検証した一冊が『もし幕末に広報がいたら「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』(鈴木正義/日経BP)だ。著者の鈴木正義氏は、アップルで広報専門のキャリアをスタートし、現在はレノボ・ジャパン、NECパーソナルコンピュータで広報部長を務めるその道のプロ。そんな鈴木氏が書いた、歴史上のできごとにまつわる架空のプレスリリースの内容を見てみよう。


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端的に分かりやすく。「大政奉還」のプレスリリースがあったら?

 書籍タイトルにある「大政奉還」は、1867年に起きた歴史上のできごとだ。1866年に薩摩藩の西郷隆盛と長州藩の桂小五郎が手を組み成立した「薩長同盟」により、江戸幕府を倒そうとする「倒幕運動」が加速。1867年、将軍・徳川慶喜が政権を朝廷に返すことを決断し「大政奉還」が実現した。

 以降、日本は天皇を中心に政治が行われる時代へと進み「明治維新」を経て近代国家としての基礎を作り上げていった。この国にとっての歴史の大転換となったできごとを、本書はどう伝えているのか。タイトル「幕府、大政奉還を奏上」と書かれた架空のプレスリリースは、以下の文章からはじまる。

江戸幕府(所在地:江戸、代表者:征夷大将軍徳川慶喜、以下幕府)は本日、朝廷に対し大政奉還の奏上をしたことを発表します。

 誰が何をしたのか、事実を端的に分かりやすく――。ぱっと見でグッと興味をかきたてられる文章に続くのは、幕府が「大政奉還」を奏上した理由だ。

近年、米国、ロシアなど諸外国からさらなる日本市場の開放の声が高まっています。安政5年に締結した5カ国との通商条約をめぐっては、「桜田門外の変」をはじめとする混乱を招くこととなりました。幕府はこの混乱を招いた責任を痛感し、また現有の幕藩体制では今後の国内外の政治運営が困難であると考え、今回、より高い指導力をお持ちの朝廷に政治権限をお返しすべきとの結論に至りました。

 文中の「安政5年に締結した5カ国との通商条約」とは、江戸幕府が1858年にアメリカ、イギリス、フランス、オランダ、ロシアとの間で締結した修好通商条約。同じく「桜田門外の変」とは、1860年に江戸城の桜田門付近で起きた、幕府の大老・井伊直弼の暗殺事件を指す。

 歴史の大転換に至った流れ、それに伴う幕府の責任を端的に分かりやすく伝えた「大政奉還」のプレスリリース。しかし、内容はこれだけにとどまらない。

「大政奉還」のあと、朝廷は何を目指すのか

 庶民が気になるのは、幕府が「大政奉還」を決断したあとの流れだ。本書で描かれた架空のプレスリリースでは、その後の展望も明かしている。

大政奉還により今後の国内政治は朝廷が中心となり、様々な制度改革を行うことになります。また、海外との交渉も朝廷が窓口になることで、より円滑な交渉が期待できます。こうした背景から本日、大政奉還を奏上いたしました。

今後も幕府は公武合体の新スキームの下、これまで200年以上にわたる幕府運営のナレッジを生かし、朝廷を支援してまいります。

 このようなプレスリリースを参考に、メディアが記事化するのも慣例になっている。ぬかりないのは上記の本文に加えて、もちろん架空であるが「二条城での大政奉還のイラスト」として、記事に役立つイラストのダウンロード先リンクを記載し、老中や幕府広報部それぞれの問い合わせ先として「edobakufu.go.jp」という政府機関向けドメインのメールアドレスを記載しているところがユニークだ。

 さて、広報担当者向けの本書であるが、全編を通して日本の歴史をおさらいできるのも魅力。今回取り上げた「大政奉還」だけではなく、「元寇」や「本能寺の変」、「生類憐みの令」など、誰もが授業で一度は聞いたことのあるできごとに関する架空のプレスリリースが多数収録されている。過去の人びとの気持ちを想像しながら読むのも、本書の楽しみ方のひとつだ。

文=カネコシュウヘイ

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