毎週水曜は映画を観て告白する日? 男子中学生と女子高校生の3歳差不均衡ラブコメ『隣のお姉さんが好き』

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公開日:2022/6/12

隣のお姉さんが好き
隣のお姉さんが好き』(藤近小梅/秋田書店)

「好きです」。第1話からいきなり告白する主人公・佑(たすく)と、3歳年上の高校生・心愛(しあ)との“不均衡”ラブコメディ『隣のお姉さんが好き』(藤近小梅/秋田書店)の1巻が発売された。

 冒頭のように、彼女と会うたびに告白する佑。だが心愛は「この映画のこと?」「わたしはやめとけ」と彼の言葉を何だかんだと受け流してしまう。

 ポイントとなるのは3歳の年の差。これは十代ではとてつもなく大きい。思い起こせば年下から見た3歳上は大人だし、理由もなく憧れる対象だった。逆に年上から見た3歳下は、かなり幼い。

 特に子どもっぽく見える佑が年上女子に立ち向かうのは無理ゲーでは?と感じた。だが自意識がそこまで高くない中学生男子だから、最短距離でまっすぐに気持ちをぶつけることができるのだ。かつて男の子だった皆さんは「おおっ……」となるだろう。

 そんな年下男子と年上女子とふたりの微妙な関係は「映画」を媒介に成立している。

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映画とお姉さんのことがわからない少年、告白する

 映画が大好きな心愛は、佑を「たーくん」と呼ぶお姉さんだ。彼女に絶賛片想い中の佑は、オススメ映画を教えてもらうことを口実に、毎週水曜日に心愛とふたりで会う約束を取り付けていた。

 心愛は優しく、映画をナビゲートしてくれる。しかし佑は彼女に夢中で上の空。そもそも彼は、彼女を好きになるまで映画をほとんど見たことがなかった。そのためどんな作品も難しいのだ。

 もちろん女心も理解できない。だからこそ「心愛さん好きです」と時と場合を考えず告白できるのだが。勢いで突っ走ったその先には、子ども扱いされる状況と、彼女を深く知るたびにつのる想いが待ち受けている。

 毎週、映画を観るたびに佑は告白し、流される。男子だとここは読んでいて変な汗が出るかもしれない(私は出た)。けれど彼の良さはそこから考えるところだ。笑顔のかわいい隣のお姉さんを、映画が好きなかっこいい女性として見るようになったから好きになった。難しい映画と同様に、どう理解し行動すればいいのだろうか。

 心愛は笑顔を佑に見られると表情を隠そうとする。また「かっこいい」と佑から言われると「私の一面だけ見ている」と言う。難解である。

 そもそも、わかっていないと好きになってはいけないのだろうか。

 ふたりをつなぐ映画は、多面的な見方をしていいし、観客それぞれが抱いた感情が重要で、難しい作品を子どもが見てもいい。映画を観て、わからないところがあったという佑に心愛は笑顔で言っている。

いいんだよ
わかんないとこは
無理にわかろうとしなくても

 それでも佑はわかりたい。映画についてはそう言うお姉さんを。「私をわかっていない」と言う心愛を。含みなどない、少年が彼女を見る目はまっすぐである。

 毎話、写真のように切り取った心愛の姿が1ページまるまる使って描かれているので注目してほしい。これは佑が知り得た彼女の姿なのだ。

かっこいい? ミステリアス? 隣のお姉さんはどんなひと?

「わかっていない」と言う心愛は、結局どんなお姉さんなのか。お父さんがアメリカ人でスタイルもよく(佑よりだいぶ背が高い)、普段はニコニコしていて時折クールな表情を見せる。繰り返しになるが、佑からすればかっこいいミステリアスな女性である。

 そもそも作品のタイトルも「隣のお姉さん」という大人っぽさを想起させるものだ。ただ毎週水曜に会うたびに(読むたびに)、心愛の別の面が見えてくる。整理整頓は苦手。まあまあドジ。けっこうムキになる。意地悪はしきれない。素直でもチョロい女とは思われたくない……1巻で明らかになるのはこんなところだ。

 本書(1巻)の表紙カバーはお姉さん感満点の心愛。しかし表紙をめくるとだらしなくリュックを開けっ放しで気付いていない彼女がそこにいる。中学生の佑はこのギャップのかわいさを理解できない。でも“ぼろ”を出す彼女を見て気付くのだ。相手をわかる、知るとはどういうことなのか。

 けしてクールなお姉さんじゃない女子高校生と、素直すぎる男子中学生のラブコメ。佑は背も頭の中もこれから伸ばしていけるか?

文=古林恭

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