汚い自分をゆるし、生かしてくれる。吉田羊を救い、支える一冊とは【私の愛読書】

文芸・カルチャー

公開日:2023/1/6

吉田羊さん

 さまざまなジャンルで活躍する著名人たちに、お気に入りの一冊をご紹介いただく連載「私の愛読書」。第4回にご登場いただくのは、昨年の2022年に、デビュー25周年を迎えた俳優の吉田羊さんだ。

 ドラマ、映画、舞台、CMとあらゆる場所で大活躍する吉田さんは、昨年末にグルメエッセイ『ヒツジメシ』(講談社)で文筆家デビューも果たし、そのマルチな才能を知らしめた。次は一体なにをしてくれるのだろう? そんな気持ちで吉田さんの活躍ぶりを見守っているファンも多いはずだ。

 吉田さんにとっての「愛読書」とは? 「もう10年も読み返し続けている」という一冊を紹介してもらった。

(取材・文=イガラシダイ)

advertisement

読むだけで救われる、素敵な本との出会い

ひつじが丘
ひつじが丘』(三浦綾子/講談社文庫)

――吉田さんの「愛読書」について教えてください。

吉田羊さん(以下、吉田):「愛読書」と聞いて思い浮かべるのは、三浦綾子さんの小説『ひつじが丘』(講談社文庫)です。10年以上前、劇団をやっていた頃の相方が非常に読書家で、いつもわたしに本を勧めてくれていて。わたしが好きそうなタイプの本を選んでくれるんですけど、そのなかのひとつが『ひつじが丘』でした。

――この作品のどんなところがお好きですか?

吉田:「人をゆるすことの難しさ」に苦しんでいる主人公が、でも自分もまたゆるされて生きていることに気づく、そんな長く苦しい道のりが一歩ずつ描かれている小説なんです。主人公の呼吸を感じながら読み進めていくと、いつの間にか自分と主人公が一体化していて、苦しみを感じながらも最後の救いに触れられます。そんな読書体験を得られるところが大好きなんです。

 わたしは一生をかけてやさしい人になりたいと思っています。でもそれがとても難しい。他人を批判したり、妬んだり、蔑んだりと汚い自分がいつまでもなくならなくて。そんな自分には生きる価値があるんだろうか……と自己否定しそうにもなるんですが、そういうときに『ひつじが丘』を読むと、どんなに汚い自分でもゆるされ、生かされているんだと気づかされます。同時に、いかに未熟で不完全な自分も、明日は変われるかもしれないという希望も生まれますね。

――自分を見つめ直すときに読みたくなるような一冊なんですね。

吉田:読むだけで救われていくような感覚も覚えます。自分の不完全さを自覚したときや自己嫌悪に陥ったときはもちろんですが、でも決してそれだけではなくて、ふとした瞬間にこの作品に「呼ばれているな」と感じるんです。そういうとき、まるで導かれるように本棚の前に立って、この作品を手に取っています。わたし、本を読むのが遅いんです。でもこれだけは一気に読めてしまう。

吉田羊さん

――吉田さんにとって「読書」とはなんだと思いますか?

吉田:わたしひとりでは辿り着けない思考へと導いてくれるものだと思います。さまざまな作家さんが書かれた文章に触れると、一人ひとりの思考回路をお借りしている感覚になるというか。そのうえで、自分の人生を軌道修正するヒントをもらっているんだと思います。

 それと単純に、作家さんの頭のなかを覗けるのは非常に面白いですよね。わたしでは決して思いつかないような発想に触れられますし、そうすることで新しい扉が開くこともあります。

――素敵な本、作家さんとの出会いによって新しい視点や考え方を得られますよね。

吉田:本当にそう思います。『ひつじが丘』もそれなんです。この作品を勧めてもらった当時、人間関係などで悩んでいたんですよ。でも『ひつじが丘』に出会えたことで、視界がひらけていった。本って、「出会い」なんですよね。

写真=嶋田礼奈(講談社) ヘアメイク=赤松絵利(ESPER)

<第5回に続く>

あわせて読みたい