小児科医とちいさな命をつなぐ優しい物語『プラタナスの実』/マンガPOP横丁㊽

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公開日:2021/2/26

『プラタナスの実』(東元俊哉/小学館)
『プラタナスの実』(東元俊哉/小学館)

 子どものころに病気や予防接種でお世話になる小児科。受診ができる年齢は0歳から15歳までだそうだ。ちなみに小児科の思い出だが、私はりまは街の病院で診察を受けて薬をもらっていたが、その薬はオレンジ色の甘めの粉薬や液体だった。これは子どもにしか処方されない薬なのだろうか。いまだに謎だ。そのオレンジ薬は、子どもダマシも甚だしいレベルのゲキマズっぷりだった記憶がある。これを飲むために覚えたのが、オブラート。すぐ水に溶けるので早く飲まなければいけないのだが、マズいのを体験するよりも圧倒的に飲みやすかった。オブラート最高。

 話がそれてしまった。15歳以下の子どもが病気した場合、大人が行く内科ではなく、小児科へ行く方がやはり良いのだそうだ。それは、子ども特有の病気があるのはもちろん、診るお医者さんがいわゆる“子ども医療のプロ”ということもあり、子どもの表情や動きを読み取って症状が分かることもあるからだとか。そんな子どもに潜む病を見極めて命をつなぐ小児科医と、その医療現場で繰り広げられる家族や親子愛の物語、東元俊哉先生の『プラタナスの実』(小学館)は、小児医療のリアルな姿を描いている。

 物語はとある病院の小児科が舞台。ここ最近、ネットの不確かな情報を真に受けて不安になって薬を求めたり、特に緊急性のない軽い症状でも救急外来へ夜間や休日に来院したりする親は少なくない。しかしその中には本当に大病の子どもがいるため、決してどれも簡単に判断できないという、さながらロシアンルーレット状態の小児科。さらに少子化で病院内での肩身は狭く、小児科医を志す研修医も少なくなっているという。「子どもが好き」というだけでは難しい現実があり、“心のコスパが悪い”と言われてしまうことも。そんな中、親の感情に左右されず、優しい笑顔で常に子どもと同じ目線に立って診療する医者がいた。

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 動画配信という今どきの趣味を持つ鈴懸真心(すずかけまこ)は、理化学研究所からヘルプアルバイトとしてやってきた若き男性小児科医。ある日、いつも通り動画配信用の映像を街の中で撮っていると、突然路上で具合が悪くなった子どもとその母親に遭遇する。母親曰く、昨日胃腸炎と診断されたそうだが、詳しくその症状を聞いてみると真心の頭の中で予測できるデータが飛び交い、ある答えにたどり着く。実は発症の裏で、子どもの親への想いが働いていたのだった。

 冷静に子どもの正しい状況を導きだし小さな命をつないでいく真心。クリスマスシーズンに、真心宛てに1通の手紙が届く。送り主は、真心の父・鈴懸吾郎。実は真心は父・吾郎と絶縁状態だった。そんな父から北海道の病院に来ないかという内容の便りだった。果たしてその理由とは。これは、小児科医療の今の現場を描きながら、子どもたちとその家族に優しく寄り添う小児科医の物語――。

 無邪気で心が読めない気まぐれモンスターな子どもたちは、どんなに不調であっても親に言わず隠すのはよくある。はりまの子ども時代も空気を読んで隠してました……。その節は母よ、スマン。たとえそんなことがあっても、真心は決して子どもを責めず、むしろ子どもの本心や親の努力に気付き労うという、素晴らしい対応を見せてくれる。ちょっと変わった部分を持ってはいるが、その人柄はとても誠実で子どもに対する愛情は非常に厚い。

 家族の愛を感じられる、とても心が温まる優しい作品。病院の中で肩身が狭いと言われていても、小さな命を守る小児科医療の大切さを、この物語を機に考えてみてはいかがだろうか。

マンガPOP横丁

文・手書きPOP=はりまりょう

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