…なんで私に? 仲が良かったわけではない高校の同級生から届いたお葬式の招待状。人生の悩みを撫でてくれるような作品に不意打ちで泣いてしまった『べつに友達じゃないけど』鼎談
更新日:2025/3/26

「あなたを私のお葬式に招待いたします」同級生の葬儀で再会した私たちは…
キャッチコピーが衝撃的な『べつに友達じゃないけど』(やまもとりえ/KADOKAWA)は、イラストレーターで漫画家のやまもとりえさんの著書。40歳を過ぎたある日、突如送られてきた高校の同級生からのお葬式の招待状。名前に覚えはあるけれど、特に仲が良かったわけでもない。「どうして自分が招待されたのかしら?」そんな想いを抱きながら参加したお葬式で、同じように招待されて集まったかつての同級生3人と再会する――。
書籍の発売を記念し、著者・やまもとりえさんと、漫画編集部で働くアーティスト・近視のサエ子さん、漫画好きなベーシスト・川内啓史さんの同世代3人で本作について語らってもらった。
※この記事はJ-WAVE Podcast「推しに願いを -Wish Upon A Star-」で2025年2月18日に公開された「#45 やまもとりえ先生ゲスト新作『べつに友達じゃないけど』について語らう!」の一部を書き起こし、加筆編集・事後取材を加えたものです。

再会の場をお葬式にしたわけは?
近視のサエ子さん(以下、サエ子):同級生が再会する場として、お葬式を選んだ理由がまず気になりますよね。もちろん最後まで読んだら、これはお葬式であることに意味があるというのがわかるんですけど。そもそも同級生が久しぶりに会うきっかけってお葬式に限らないじゃないですか。成人式もあるし。
やまもとりえさん(以下、やまもと):お葬式ってみんなが集まるものだと思うんです。結婚式はするかもわからないし、成人式も出るかもわからないけど、お葬式は絶対とは言わないけど、まあ大体の人がやるだろうなと思って。そこに招待したい人がいたとして、関係によっては普通のハガキだけじゃきっと来ない。結婚式みたいな派手な招待状を送ったら、みんな来てくれるんじゃないかって。
サエ子:確かに、結婚式の招待状みたいなお葬式の招待状が来たら…それは行きますよね…なんとなく気になっちゃう…。
やまもと:ちょっと怖いけど(笑)。
川内啓史さん(以下、川内):お葬式って家族や近しい人からの招待で来ると思うんですけど、この作品だと亡くなったご本人からのアクションで届いているんですよね。
やまもと:そうなんです。「(自分のことを)覚えていてくれたら嬉しいな」という希望も込めているような感じです。
他人から言われた言葉をずっと大切に持っている。
川内:この作品の見どころは「青春」とうかがっていますが、メインとなるストーリーは登場人物たちが40代ですよね。
やまもと:『うちらはマブダチ』(KADOKAWA)という友情もののコミックエッセイを出したときに、いろんな人から「そんな青春を感じたことがない」とか「そんなに友達がいなかったな」とか言われたことが印象的でした。
それで『べつに友達じゃないけど』を企画してくださった編集の清さんの言葉になるんですが、「自分では知り合い程度の関係性だと思っていた人が、私の言った言葉を、お守りのように大事にしているんだよ、と言ってくれたことがあって。でも私は言ったことも忘れていたんです」って。私も他人から言われた言葉を40歳になるまでずっと大事に持っていたりする…自分は高校時代にあまり楽しい思い出がなかったけど、今思えばあれも青春だったよなって。そんなことを40歳になって気がつくというか。うん、…苦かったけど、苦さそのものが青春だったし、あれも友情の形だったなっていうことを今になって気づく。
この登場人物たちも40歳を過ぎて、集まって喋ってみたら「ああ、あれも青春だったね」って。そんなことを読んでいる人にも感じてもらえたら嬉しいなと思って書きました。
サエ子:冒頭で、登場人物たちそれぞれの現在の様子が描かれているじゃないですか。そこがまたリアル。物語の後半で青春時代に戻っていくような描写がありますけど、その前にアラフォーの登場人物たちが抱えている問題や日常をリアルに描いている。これが物語の最後に効いてくるなと。

やまもと:ありがたいですねえ。なるべく人の背景を想像しながら漫画を描くようにしているんです。人間にはA面があったらB面がある。誰かが絶対的な悪者になるみたいなのは書きたくなくて。
例えば、私はクラスの中でヒエラルキートップのオシャレな大場さんみたいな人が昔は苦手だったんです。でもそういう人にも背景があるって想像したら優しくなれる。だからこの4人がそれぞれ立場が違うっていうことを大切にして書きました。
サエ子:「この子たちは現在に続くまでの人生を、時間を重ねて生きてきたんだな」って。だから日常に戻った描写にハラハラハラ〜(泣くジェスチャー)って。最後のページではもうめちゃくちゃに泣いてしまった。
やまもと:ありがとうございます! 嬉しい。
サエ子:あの、私、高校にほとんど行ってないんですよ。ばっくれてたんですよ。
川内:「ばっくれ」って久しぶりに聞いた(笑)。
サエ子:サボってた(笑)。中学校は友達がいっぱいいて、目立つ方だったんですごく楽しくて。この作品でいう大場さんみたいな感じ。でも高校は本当につまんないというか、友達がいなくて。でもね、おっしゃるように、私は友達だと当時は思っていなかったけど、久しぶりに会ったときに「あのとき、サエちゃんに言われたことがね」って言われたことがあって。
やまもと:そう、あるんですよ。特に言葉を仕事にしていらっしゃる人の言葉ってパワーがあるから…
サエ子:その当時あったかはわからないですけど(笑)。
やまもと:パワーがあるからこの仕事をしているので、きっと誰かの中で生きているんだと思います。