金田一少年、パパになる。息子とともに事件に挑むシリーズ最新作『金田一パパの事件簿』【書評】
PR 公開日:2025/6/13

最初のシリーズがスタートしてから30年超となる「金田一」シリーズ待望の新作は、その名も『金田一パパの事件簿』(さとうふみや:漫画、天樹征丸:原作/講談社) 。
あの天才高校生がついにパパになった――このことは、すでにご存じの人も多かったはず。なにしろ美雪(みゆき)の妊娠判明や2人が入籍していたことが前作『金田一37歳の事件簿』の最終話で明かされるや、多くのニュースサイトで報じられたのだから。
小さな名探偵。はじめと美雪の息子がデビュー
『37歳』時点では、主人公・金田一一(きんだいち・はじめ)はPR会社のサラリーマン。出張先で怪事件に巻きこまれてはみごとに解決、祖父・金田一耕助(きんだいち・こうすけ)譲りの才能はまったく衰えていない。だけどやっぱり読者としては「金田一少年って大人になったら探偵になるもの」と思っていましたからね。結婚を機に会社を辞め、探偵事務所を開く展開に血が騒いでしょうがない。
はじめがこの選択をしたのは、航空会社のチーフパーサーである美雪を大黒柱とし、自分が主夫的ポジションにつくという意図でもあったりする。本作でデビューした2人の愛息子・九十九(つくも)が小学1年生になっているのに、はじめが探偵事務所を起こして「5年目」なのは、彼が2年ほどはみっちり育児をやっていたからなのだろう。

ところが、探偵事務所は閑古鳥状態。事務所の家賃を払うのもギリギリであせりまくるはじめのもとに妙な依頼が舞いこむ。
内容は「指定の日時にある場所に行って“あるもの”を捜してほしい」という怪しげなもの。はじめは「前金で100万円支払う」というおいしい言葉に引き受けてしまうのだが……。
学校が休みの九十九を家に置いていくわけにいかず、子連れで出動。地図に従って進んでいくと、着いたのは山奥の廃旅館である。そして、そこにははじめと同じように招集された4人の探偵がいたのである。

クライアントからのメールによれば、5つの部屋でそれぞれに指定されたものを捜し、見つけることができたひとりが成功報酬100万円を得るという。
なぜこの5人が呼び出され、バラバラに捜し物をさせられるのか。
いぶかしみつつホコリだらけの部屋を漁る5人に視線を注ぐクライアントは、何をもくろんでいるのか。

緊迫感はいやでも高まるが、小1の九十九にとってはおどろおどろしい廃旅館はさながら遊園地のお化け屋敷。せまい押入れに頭をつっこむ宝探しなんて得意中の得意である。

さすがは探偵の息子だけあって、九十九も日ごろからナゾを解くのはお手のもの。ちょっとした変化や手がかりを見逃さない、なかなかの観察力の持ち主だ。しかも、記憶力がズバぬけているから探偵助手として言うことなし!
いよいよ「プロ」の探偵となったはじめの推理はもちろん、パパの手伝いを無邪気に楽しむ九十九がどんな活躍を見せてくれるのかも見どころである。

ちなみに、はじめが九十九のお弁当を作ったり、服を汚すのを気にしたり……折に触れてパパらしい横顔が描きこまれるのも微笑ましい。当シリーズは初期より本格ミステリのたたずまいにコミカルなシーンがはさまれるのが持ち味。こうした奥行きも「金田一」シリーズが長く愛されるエンターテインメントたり得る理由なのだと思う。
文=粟生こずえ