安倍晴明の末裔にして破産寸前のキャリアウーマン。陰陽師を継ぐことになった晴子がお悩み解決。京都好きにも刺さる『京都一条戻橋 晴子のブックカフェ』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/4/11

京都一条戻橋 晴子のブックカフェ(PHP文芸文庫)
京都一条戻橋 晴子のブックカフェ(PHP文芸文庫)(志賀内泰弘 / PHP研究所)

京都一条戻橋 晴子のブックカフェ(PHP文芸文庫)』(志賀内泰弘/PHP研究所)は、陰陽師見習いとなった主人公が、人々の悩みを解決していくプロセスを描いた心温まる物語である。

 安倍晴明の末裔である主人公・晴子は、銀行員としてキャリアを築いていたが、ホスト通いの借金がふくらみ、破産寸前に。しかたなく家業の陰陽師を継ぐだけでなく、借金を肩代わりしてもらう代わりに、幼馴染のぼんぼん・賢太郎がオープンしたブックカフェの店主を任されることになってしまう。人生が一転した晴子は、周囲の人々の相談を受けるようになるが……。

人と向き合うことで学ぶ主人公の成長物語

 本作の魅力は、登場人物の人間性にある。晴子は幼い頃から努力を認められず、「褒められたい」という欲求をこじらせ、それが後の浪費につながる。褒められるためにホストに通ってしまうのだ。冒頭から主人公自身が人間らしい理由で大失敗する姿に、一気に惹き込まれた。

 その後、陰陽師を継ぐことになった晴子に相談してくる人たちも、さまざまな理由を抱えている。忙しさのあまりぶつかりあってしまう夫婦や、病気で速く走れないことから「運動会の日に雨を降らせてほしい」と願う少年。いずれも必要なのは魔法ではなく、考え方や環境の変化だ。そこに陰陽師である晴子がどんなアプローチをするのかが、本作の見どころである。

 あらすじから想像するのは、陰陽師の特殊な力を持つ選ばれし者が、鮮やかに人々を救う物語だ。しかし実際は、相談者と向き合い、考え抜くことで解決の糸口は見えてくる。一般的な陰陽師のイメージを覆す展開がおもしろい。

 人の心の奥底にある想いに触れるたび、晴子自身の学びが増えていくのもいい。それをそばで支える教育係の為爺は、晴子に足りない素養を的確に捉え、自然な流れで成長の場を提供してくれる。老齢の為爺が発する丁寧な物言いと、晴子のキレのいいツッコミが織りなす会話劇は思わずくすりと笑ってしまう。

誰もが持つ「心」や「言葉」が奇跡を起こす

 陰陽師にとって最も大切なのは「思いやり」だという一節が出てくる。特殊な力に頼りたいと思うほど苦しい状況の人に、どれだけ寄り添って祈れるかが重要なのだ。晴子はもともと家業である占いを、「胡散臭い」とネガティブに受け止めている。しかし、人の言葉に耳を傾け、彼らのために祈ることは、心を救うきっかけになる。陰陽師としての人生を歩み始めることで、晴子は自分に欠けていた大切なものが何なのかに気づいていく。

 また、言霊(ことだま)についての解釈も印象的だった。人はかけられた言葉によって、傷つくこともあれば、励まされることもある。言葉が持つ力は、人の行動や気持ちを動かすことができるということだ。それは「言葉に出したことが現実になる」とも言い換えられる。ならば自分自身もいい方向に変われる、あるいは誰かを変える一助になれるかもしれない、という希望がわいてくる。

 出口の見えない苦しさを抱えている人に、本書を読んでほしい。それがどんな内容であれ、作中の誰かに自分を重ねつつ、光が差す方を晴子と共に探れるだろう。また、京都の風景や食の描写も素晴らしく、全体を包み込む京都弁の柔らかさも魅力的だったので、「京都が好き」という方にもおすすめしたい1冊だ。

文=宿木雪樹

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