「次いつ使う?」に答えられないものは捨てる。ヘアメイクアーティスト・松田未来の生き方エッセイ【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/6/10

私が私を生きる「余白」の美学
私が私を生きる「余白」の美学(松田未来 / 双葉社)

 忙しい日々の中で多くのタスクに追われていると、自分の内側と向き合う時間を持つことが難しい。だが、効率重視な社会で生きているからこそ、時には心の本音を聞き、人生に余白を生み出すことが大切なのかもしれない。

私が私を生きる「余白」の美学』(双葉社)は、そう感じることができる温かいエッセイ本だ。著者は、ヘアメイクアーティストの松田未来さん。未来さんは初エッセイ『私が私らしく生きる美学』(双葉社)で、自分の“好き”に素直になることの大切さを説いていた。

 本作では、タイパ重視の社会で自分にとって大切なことを見失わずに生きるためのコツを教えてくれる。

■「理想の着地点を思い描く」と挑戦が怖くなくなる

 一度きりの人生なのだから、豊かな時間で溢れさせたい。そんな想いを持ちながら、年を重ねることを楽しんでいる未来さん。カラっとしたその生き方には、自分を好きになるヒントが詰め込まれている。

 未来さんにはユニークなマイルールがある。何かを始める時、心の中で理想の着地点をあらかじめ思い描くのだ。

 たとえば、友人との旅行時には「あなたと来られて本当によかった」と互いが思えるようにしたいという理想を思い描いて出発。こうした準備をしておくと、道中の言葉や仕草が自然に変わり、旅の思い出が優しくなるという。

 また、未来さんは理想の着地点をあらかじめ心の中に描いておくと、やってみたいと思ったことに取り組むのが怖くなくなるとも語っている。

そうやって自分で選んで生きていきたい。たとえ思い描いた通りのかたちにならなくても、後悔はない。「これはこれで、必要な時間だった」と思えるから。(引用P17)

 自分の心を守りながら、周りの人と全力で向き合うからこそ、未来さんの人生にはワクワクが多いのかもしれない。

 なお、未来さんはモチベーションを“気ままな風”と捉え、自分を追い込みすぎないようにもしている。ダイエットや運動など、続けたいと思っていたことが達成できないと自分を責めてしまいがちだが、未来さんの考えを知ると、「モチベーションが上がらない…」というプレッシャーともうまく付き合っていくことができそうだ。

やってみたい。続けてみたい。達成したい――。そんな気持ちが自分の中に芽生えた時点ですごいことだと思う。さらに、そこから一歩踏み出せたなら、それだけでもう100点!(引用P18)

 読者に、そんな優しい言葉もかける未来さん。彼女の生き方は、新しい世界へ飛び込みたいと思っている人の背中を押す。

■軽やかに生きられる“手放しのルール”とは?

「自分を大切に」とはよく聞くフレーズだが、実践するのはなかなか難しい。そんな人におすすめしたいのは、掃除の捉え方を見直すことだ。部屋の掃除は憂鬱になることも多いが、未来さんにとっては自分を大切にする行為のひとつ。自分で自分をもてなす感覚で部屋を整えているという。

 また、未来さんには意識している手放しのマイルールがある。それは、「次いつ使う?」と自問自答すること。具体的な予定が浮かばない時は、思い切って手放すようにしているのだとか。

 洋服は「いつか着るだろう」と思って溜め込みがちだが、未来さんはユニークなマイルールを実践。どうしても手放したくない洋服は、その場で“着る日”をスケジュールに盛り込む。

 食料品のように消費期限がない洋服や雑貨を自分なりのルールで取捨選択し、身軽に生きている未来さん。その生き方を参考にしながら、自分自身が軽やかに暮らしていけるマイルールを見つけていきたい。

■「自信はどう育てる?」自分との信頼関係の築き方

 今は、SNSなどで誰かと自分を比較するのが容易な世の中だ。誰かの長所を見つけた途端、目が向くのは自分のコンプレックス。コツコツ育てていた自信が、一瞬でへし折られることもある。

 そんな時代の中で、自信をしっかり育てていくのはどうしたらいいのだろう。その難題にも、未来さんは優しいヒントをくれる。

 未来さんが日ごろから意識しているのは、自分の心に嘘をつかないこと。自分の感性に小さな違和感を覚えたら丁寧に向き合い、自分との信頼関係を育ててきたという。自分に誠実に生きてきた――。その実感があるからこそ、未来さんは自信を持ち続けることができているのだ。

いつも味方でいてくれる”私“という友人の存在を、自分の中に感じられる。そんな存在がそばにいることで、安心して穏やかに生きられる(引用P33)

 また、心が揺れた日やうまくいかない時には、セルフケアも欠かさない。大切な人が悩んでいた時に心の底から伝えたいと思う言葉を自分にかけるという。

 私たちは他人になら優しくできるのに、自分のこととなると厳しい視点で粗探しをしてしまうことも多い。だが、自分という人間は本当にそこまで卑下されるべき存在なのだろうか。未来さんのエッセイを読んでいると、そんな疑問が心に浮かび、自分を見つめる視点が少し変わることだろう。

 未来さんは他にも、天職の見つけ方や失敗の捉え方が変わる考え方なども語っている。本作には、初のショート小説『あさねの台所』も収録されているので、そちらも要チェック。温かく、芯のある言葉たちに触れながら人生の余白の作り方を考えてほしい。

文=古川諭香

あわせて読みたい

私が私を生きる「余白」の美学