東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第41回(野尻)「お笑いの才能は『何を言うか』じゃなくて、『何かを言えるか』です。~お笑いの世界を志す人たちへ~」
更新日:2026/7/2

サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第41回は野尻回。
第41回(野尻) 「お笑いの才能は『何を言うか』じゃなくて、『何かを言えるか』です。~お笑いの世界を志す人たちへ~」
こんにちは。無尽蔵の野尻です。私の担当した前々回のコラムに関して未だかつてないほどの反響が巻き起こり、もう俺は普通の芸人には戻れないのかもしれないと怯えながら数日間を過ごしました。お笑い好きの何十人かが読んでくれたらいいやと、さしたる覚悟もなくお笑い界に悪態をついたら、驚くべきことに私のことを知らない人にまで読まれました。そんなの当たり前のことなのですが、知らない人に読まれる覚悟すらありませんでした。何かをインターネットに公開することは、それを誰でも閲覧できる状態にすることだと中学生ぶりに学び直しました。
そもそも目立ちたいから芸人になったのだから、注目されることに怯えているのも変だなと私は思いました。というのも、芸人にとって最も大事なのは押し付けがましさなのだと近ごろ気付いたのです。
面白いことを考えられる人間は世の中にごまんといますが、気後れせず堂々と舞台上でお喋りができる人間は少ないです。結局、「お笑いの才能」というのは舞台上で自分のターンが回ってきたときに堂々と「自分が思っていることを言う」力なのではないでしょうか。この当たり前のことが結構難しいのです。今回は、お笑いの才能とは何なのかを考えます。この文章がお笑いの世界を志す少年少女たちの助けになれば幸いです。
お笑いというのは、一つの山を芸人みんなで登る競争なのではなく、ある山の頂上に自分が元から立っていることを知らしめる競争なのだと、かの松本人志さんは言っていました。「競うな、持ち味をイカせッッ」と、かの範馬勇次郎は言っていました。これは、賞レースが支配する現代のお笑い界では見えづらくなっている真実だと思います。
個人のいわゆる「笑いのセンス」の本質的な部分は18歳ごろから大して変容せず、プロになってからはその出力方法を工夫する旅をどれだけ根気よく続けられるかが大事だと私は思います。
自分の才能の有無を心配しているうちはまだ青二才です。お笑い芸人の志望者が往々にして持っている「つまらないと思われたらどうしよう、とにかく認められたい」というナイーブなスケベ心から脱却し、とにかく神様から与えられた自分のセリフがどれだけいびつなものであっても、気後れせず世の中に押し付けられるかが重要なのです。くだらぬ自衛心と恥を捨て、自分の人間性に向き合い、愛する。この宇宙に二度と生まれないあなたというお笑い志望者が、何を語るのか是非見せてほしいです。
いいかい、みんな。テレビで『IPPONグランプリ』を見て「こんなに面白い回答、私には全然思いつかない」と悩む必要は全くないよ。むしろ発想が被ることのほうが危険まであるよ。
芸人をやっていると、とにかく自分にはできないことだらけだなとよく思います(私だけじゃなく、他の芸人もきっと思っていると信じます)。でも、私が憧れた笑い飯さんやラバーガールさんやバカリズムさんだって、きっとできないことだらけなんです。勇気を持ってそのいびつさを世の中に吐き出したからこそ、多くの人の心を掴んだのだと思います。
私事で恐縮ですが、先日行われた「第47回ABCお笑いグランプリ2026」の準決勝で私は敗退しました。その帰り道、「コラムで偉そうなことを書いといて、ネタで負けるなんて、俺ってやっぱり芸人じゃなくてただの頭でっかちなお笑いオタクだったんじゃないか?」という疑念が頭をもたげました。臆病で自意識過剰なお笑いオタクの私は、過剰に「自分はお笑い界的にアリかナシか」ということを考えてしまう悪癖が今でもあります。
いやいや、野尻くんね、まず君はコラムで偉そうなこと書けてるじゃん。他の芸人、そんなことできないよ。もっと開き直りなさいよ。当たり前だけど、君は笑い飯さんのようにはならないよ。その辺に折り合いをつけて、引き続き偉そうなコラムを書いていれば、どんどん芸人として陶冶(とうや)されていくよ。
冷静になったとき、自分の中のリトル野尻がこのような助言をくれました。自分の矮小(わいしょう)さを認め、自分のいびつさを愛する。この謙虚と尊大のバランスの上にお笑い芸人の活動は立脚していると私は思います。

■無尽蔵
サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。
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