【岡村靖幸×俵万智】「楽曲のサビを短歌にしようとすると直接的になりすぎる」約3年半の短歌レッスンを振り返る【『短歌ご一緒しませんか』刊行記念対談】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2026/7/9

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026月8月号からの転載です。

 岡村靖幸さんのファンサイト「岡村靖幸DATE」にて、俵万智さんを講師に迎え、約3年半にわたり連載されてきた短歌レッスンがついに書籍化! 短歌初心者の岡村さんが、俵さんから学んだ短歌の神髄とは何なのか? 印象に残っているファンの短歌は? 刊行を記念して対談を行いました。

――そもそも、どういうきっかけでこの企画が実現したのでしょう。

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岡村靖幸さん(以下、岡村):僕のファンクラブで新しく企画を立ちあげようと話していたとき、雑誌『ユリイカ』の編集者だった足立さんが、ファンと短歌のやりとりができたらおもしろいんじゃないかと提案してくれた。でも、僕は短歌に関してはまったくの素人だから、先生役が必要だと思って、以前、対談したこともある俵万智大先生に依頼したわけです。僕の短歌を採点して、どうすればよくなるかを教えてもらえたら、それだけで短歌入門として読みごたえのあるものになるだろうし、いずれ本としてまとめられるんじゃないかと。

俵万智さん(以下、俵):目論見どおり、おもしろい本になりましたね。岡村さんはとにかく知りたがりで、学びたがり。指導したことは必ず次に生かして、毎回、驚くほどたくさんの短歌を提出してくださいましたし、たとえば恋がテーマのときには『チョコレート革命』を読みこむなど、私の著作をみずから手にとり、自主勉強を重ねていた。

岡村:それでも、僕の短歌はどうしても散文になりがちでしたね。よく指摘されたのは「言い過ぎ」ということ。「激しく怒った」「強く苦しんだ」のような直接的な表現ではなく、その心情を読者に想像させるような風景やしぐさを描写したほうが、より印象の強い歌になるのだと……添削してもらうたびに納得するんだけれど、実践するのが難しい。たぶん、初心者が全員、引っかかるところだと思うので、それを逐一、こぼさず指摘していただけたのは、読者にとっても、かなり勉強になると思います。

俵:ただ、同じ指摘をしているようで、その前よりは確実によくなっていたんですよ。右肩上がりには上達しないけど、螺旋階段のように上っていった印象です。それに、もともと歌詞を書かれる方だから、言葉選びのセンスがずば抜けていた。たとえば〈子育ては働く事より大変そう 天使と暮らしていくのでしょから〉。子育て=天使と暮らすという発想が素敵。

岡村:その言い換えはよかったけど、「大変」は言い過ぎなんですよね。「大変そう」を削って「三歳の天使と暮らす仕事」はどうかと言われると、なるほどと思うんだけど……の繰り返し。

俵:たぶん、楽曲でいうとサビの部分を短歌にしようとすると、直接的になりすぎるんですよ。三十一音しかないなかで、大事なことをそのまま言われちゃうと「あ、そうですか、よかったですね」みたいになっちゃう。それよりも、サビにたどりつくまでの情景とか、助走の部分のほうが短歌にしやすいし、サビの部分は読む人の心のなかでおのずと開いてくれるんじゃないか、と思います。

岡村:ああ、そうか。僕はこう思ってる、なぜならこういう理由で、これがあるから……と押しつけるのではなく、読んだ人が「こうなのかもしれない」と思いを巡らすことができるようなかたちに整えるのが短歌の完成形ということですね。

俵:そう。楽曲だって、いきなりサビだけ全力で歌われたら、引いちゃうかもしれないでしょう。

岡村:それが短歌の奥ゆかしい芸術性なんですよね。引き算の美学。

俵:そのためには、まず、読んでくれる人を信じないといけないんですよ。この言葉を受けとってくれる人がいると信じなければ、やっていけない。今って、なかなか誰かを信じて発信するのが難しい世の中でしょう。SNSで身内だけに向けたつもりの言葉も、ねじまがって広がってしまうから、みんな警戒心を抱きながら、間違いのない発言を心がけてしまう。そんななか、他者への信頼を前提として、百年、千年先にも届くような言葉を紡ごうと思える短歌に触れることで、大事なことを忘れずにいられる気がするんです。

岡村:人間の感情というものは、百年、千年経っても変わらないんだということに気づかされるのが、短歌なんですよね。僕は最初、先生を笑わせたいと思って、なるべくユーモアのある短歌をつくっていたんですよ。〈タクシーの後部座席のコマーシャル 金持ち向けの変なのばかり〉とか〈死ぬことは怖くないよと笑ってた君を絶叫させるゴキブリ〉とか。でも、先生の著書を読み返すうち、誰かを想って詠うことこそ短歌の醍醐味なのかもしれないと気づき始めた。何百年前を生きた人たちも、僕たちと同じように誰かに恋焦がれ、こんな小さなことでまごついていたんだと、その想いに触れるたび心が揺れる。そういうものにも、もっと挑戦してみたらよかったなと思います。

俵:短歌って、俳句と違って心をのせるスペースのあるジャンルだから、最初は照れちゃうんですよね。だから、恋よりも笑いを忍ばせようとした岡村さんの気持ちはよくわかる。でも、恋の歌こそ短歌の王道と気づいたからには、今後ぜひ、新しくつくってみてください。この本で終わりにはせずに。

――岡村さんが一人で作歌するのではなく、俵さんに向けて「笑ってもらいたい」という気持ちでつくっていたのは、すごく重要なことだったのではないでしょうか。

岡村:そうだと思います。テクニックがないぶん、「こんな瞬間をこんな角度でとらえましたよ」「こんなおもしろいものを拾えましたよ」と提示することで、くすっと笑ってもらえるよう腐心できた。短歌に限らず、誰かに向けて創作するということは、大事な初心であると思いますね。

俵:短歌って、日記に似ていると言われがちだけど、私の実感としては、手紙に似ているんですよ。自分の人生なんて平凡でキラキラしたところなんて何もない、短歌にするに値しないって尻込みする人も多いんだけど、どんなにありふれた感情も、日々の瞬間も、自分にとってはかけがえのない特別なものなんだとかたちにできるのが短歌。その想いを伝えたい誰かがいるということもまた、大事なことなんじゃないでしょうか。

岡村:誰かを好きになる気持ちは平凡でも、伝え方は十人十色。そこに個性が生まれるし、この感受性をきみがわかってくれたらいいなと願いながら歌をつくり、思いもよらぬ誰かが受けとってくれたことに喜びを感じる。そこに、時を超えた美しさがあるんだと改めて思います。

――ファンの皆さまが岡村さんと俵さんに受け止めてもらうために投稿した短歌も、素晴らしかったですね。初回の応募総数は1869通だったとか。

俵:本に掲載されているのは、選りすぐりの作品ばかりなので、かなり完成度が高いです。

岡村:僕よりよっぽど手練れていた。プロがまざっていたんじゃないかと疑うくらい。

俵:先日、うちに届いた歌集に手紙が挟まっていて「岡村さんの大ファンで、ずっとファンクラブの連載も追いかけていました」と書かれていたから、その人の作品も、もしかしたら掲載されているかも。

岡村:どうりで!

俵:私がとくに印象に残っているのは〈スマホから顔をあげれば積乱雲 通知ないまま夏は近づく〉。ありありと情景が浮かびますし、現代性を切りとった歌でもある。〈アリバイに温泉まんじゅう買っていた 笑って食べる悪魔の団欒〉もおもしろかったな。どんな状況なんだろう、とストーリーを思い描く余地があって。

岡村:僕と先生とでは、イメージする情景がちょっと違ったんですよね。

俵:そう!〈正月に来た時よりも端あげてニヤリと笑う天井のシミ〉を、私はハッピーな歌だと思ったけど、岡村さんは怖さを感じとったみたいに、凝縮された言葉からそれぞれのイメージを自由に導き出せるのが短歌のおもしろさなんですよね。だからこの本では、ふだん岡村さんがステージやインタビュー、楽曲を通じて見せるのとはまた違う人間味に触れられると思う。〈音楽は時代を超えて楽しめるさわれないのに飾れないのに〉という音楽観が素敵だと思ったけど、一方で、そんなにも虫が嫌いなのか、というのが意外でした(笑)。

岡村:先生が出してくださるお題がいつも、日常に溶け込んだものばかりだったから、自然と僕自身の奥底にあるものが引き出されたような気がしますね。それは確かに、インタビューで問われても出てこない類のものだと思う。日常のささいな瞬間も、テクニック次第でこんなにも美しく、かっこよく描写されるのか、ということが学べる一冊になっているし、誰かに何かを「伝える」ために必要な心も詰め込まれていると思う。ぜひ、子どもから大人まで読んでいただき、この芸術性に触れていただきたいですね。

お二人それぞれの印象深い短歌

〈すこしずつずれ始めてる思いやり方 傘を重ねて互いに濡れる〉

「感情と比喩が見事に一致している、岡村さんにとって一つの到達点だと思える作品です」(俵さん)

〈アミタイツすっかり見なくなったけど都会のどこかでくしゃくしゃしてる〉
〈沢山の約束かかげ立ち上がる選挙出てる人らは偉い〉

「俵さんに向けてユーモアを忍ばせた短歌です」(岡村さん)

取材・文=立花もも、写真(俵さん)=干川 修

おかむら・やすゆき●1986年、シングル『Out of Blue』でデビュー。音楽家。音楽を軸に、映像、ライヴ、プロデュース、作品提供など幅広い分野で表現を続ける。最近では中島健人とのコラボ曲『瞬発的に恋しよう』がTVアニメ『ガンバレ!中村くん!!』OPとして話題に。斉藤和義とのユニット「岡村和義」としても活動中。

たわら・まち●1962年、大阪府生まれ。歌人。学生時代、佐佐木幸綱氏の影響を受け、短歌を始める。歌集に『サラダ記念日』『アボカドの種』、エッセイ『生きる言葉』など、著作多数。23年、秋の紫綬褒章を受章。

短歌ご一緒しませんか
岡村靖幸、俵万智
筑摩書房 2200円(税込)
7月9日発売予定

ダ・ヴィンチ 2026年8月号

短歌ご一緒しませんか (単行本)