「家族は鎖」家族から虐待され続けた36歳男性。動けない母に罵倒され、縛られ続ける姿に…【書評】
公開日:2026/9/30

誰かから逃げたい人の引っ越しを手伝う“夜逃げ屋”。そんな夜逃げ屋で実際に働き、リアルな体験をマンガにしたのが『夜逃げ屋日記』(宮野シンイチ/KADOKAWA)だ。本作には家族にまつわるエピソードも多数登場。“家族とは何か”を改めて考えさせられる。
長年家族から虐げられてきた36歳の男性。父が死んだこと、母が寝たきりになったことからついに夜逃げを決意する。兄が家を空ける2時間の間に引っ越しを完了させるつもりが、兄から「予定が変わり30分で帰宅する」と弟へ電話が入る。
30分以内に引っ越し作業を終えるため、急いで現場に向かう宮野さんたち。廃品回収業者というていで荷物をトラックに運び込むため、母親に「廃品回収の人がきてて…」と伝えに行く依頼者。扉の向こうから聞こえてきた会話は「そんな話きいてねぇぞ」「舐めてんのか、このゴミ虫」と最初から罵倒のオンパレード。しかもガシャン、バチンといった、叩いたり、ものにあたっているような音もひっきりなしに続く。
虐待されていたとは聞いていたものの、実際の会話を聞いてショックを受ける宮野さん。作業が終わり、依頼者が母親に「ちょっと出かけるから」と晩御飯について話そうとすると、母親からは「死ね」「死ね」と、その言葉だけが繰り返される。それが、依頼者と母親の最後の会話になってしまうのだった。
宮野さんは作中、「家族は鎖」と表現し、逃げられる状態になっても自分で鎖を切れることに気づかないのだと依頼者を見て感じる。
確かに家族は鎖かもしれない。良好な関係であっても、家族のために何かを我慢した経験は、小さいものなら誰にでもあるだろうし、相手の自由を制限するような発言をしてしまうことも時々はある。だからこそ、子どもの場合はどんな親でも時期が来たら鎖を切っていいのだ。良い親だとしても、鎖を切りたくなる、切る必要に迫られる時は来るし、それが自立である。鎖を切るのを邪魔してくる親との鎖だって、切る権利が子どもにある。
世の中にはいろいろな家族の形がある、だから自分の常識・正論をあてはめてはいけない。頭ではわかっているつもりのことを、現実として突き付けられる作品だ。
文=原智香
