他人を理解することはできるのか? 『青く滲んだ月の行方』『茜さす日に嘘を隠して』を読んだ20代男女の本音トーク【配信レポート】

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/12

本音ゼミ

 若者たちのリアルな心情を描いた小説『青く滲んだ月の行方』(青羽悠/講談社)、『茜さす日に嘘を隠して』(真下みこと/講談社)の発売を記念して、2作品を読んだ7人の20代男女による配信企画「本音ゼミ」がスタート。お笑いコンビ「ラランド」のニシダ、タレントのまつきりながMCを務め、ゆう(総合職OL、YouTuber)、イワシ(YouTube「ゆとりモンスターズ」メンバー)、加藤敏美(女性向け美容関係ベンチャー企業の共同創業者)、絡新婦ぽぴ(大学生、アイドル)、はな(デザイナー)とともに、答えの出ない悩みについて全5回にわたってトークを繰り広げた。その模様をレポートしよう。

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本音と建て前をどう使うべき?

 第4回の「本音ゼミ」では、「他人を理解することはできるのか?」という人間関係の根幹にかかわるテーマについてトークを展開。『青く滲んだ月の行方』『茜さす日に嘘を隠して』では、誰かに理解してほしいという葛藤を抱える若者たちの姿が描かれていたが、「本音ゼミ」メンバーは、どのような見解を抱いているのだろうか。

 まずは、より身近なテーマとして「本音と建て前をどう使うべき?」について話し合うことに。絡新婦ぽぴさんが「本音と建て前は対になっているようで、そうでもないと思います。友達に個人的なことを言われたら『本音を言ってくれた』と思うけれど、それが本音かどうか実際のところはわからない。建て前がないと社会は成り立たないから、本音が入る隙間がない。そういう世界では、他人を理解できることはないと思います」と口火を切ると、議論は一気に白熱。

 女性陣は本音と建て前の使い分けに悩む人が多いようで、「女性は、建て前が多い気がする」(まつきさん)、「女性は、全体の調和を取ろうとします。ひとりが前に出ると、女子って揉めるじゃないですか。特に集団になると、建前でふんわりその場を収めることが多いように感じます」(ゆうさん)と声を上げると、女性陣の間に賛同の声が広がった。

 はなさんも、本音を言えずに悩んだことがあるそう。「人に嫌われたくなくて、みんなが好きそうな女の子を演じて、取り繕ってきました。でも、そうするとみんな離れていくんです」と自らの経験を話すと、ゆうさんからは「わかる!」と共感の声が。「誰にも嫌われたくないという気持ちが強すぎると、嫌われない代わりに誰からも『すごく好き!』と思われなくなってしまいます。誰からも中途半端な位置になっちゃうんですよね」と語った。

 こうした意見に真っ向から対立するのが、イワシさん。「建て前がないほうが好かれると思うから、本音が一番。以前は建て前人間でしたが、コンサルに転職したら『結論から言え』と言われたんです。仕事のペースを早くするなら、建て前は要らない。建て前が要らない社会になればいいなと思っています」と話すと、まつきさんは「建て前がなかったらむちゃくちゃな世界になりますよ!」と反論。他のメンバーもまつきさんに同意し、本音ばかりではなく建て前も重要だという意見が多数派を占めた。

 そんな中、SNSで発信者として活動するゆうさんは、本音と建て前の使い分けについて次のようなアイデアを述べた。「私の場合、SNS上の自分、友達といる時の自分、家族といる時の自分を分けています。どれもすべてが本音じゃないし、すべてが建て前でもない。でも、全部自分なんです。小学生から大学1年生までアイドルとして活動していたんですが、アイドルの自分と普段の自分は違います。どっちが本当の自分か悩んだこともあるけれど、ひとつに決めなくてもいいんだなと思って。いろんな自分を使い分けたほうが、私にとっては生きやすい。それに、どれかひとつの自分が否定されても、他の自分がいるので自分を守れるんですよね」。これには、絡新婦さんも賛同。「絡新婦ぽぴって本名じゃないので、何を言っても責任を取らなくていい。絡新婦ぽぴが何か言われても、本当の自分は守れるんです。キャラクターをかぶることで、許されることもいろいろあると思います」と述べた。

他人からの評価をどこまで気にするべきか

本音ゼミ

 続いて、「他人からの評価をどこまで気にするべきか」という話題に移行。絡新婦さんは、他人から何か言われた時には、その評価を言語化するよう心掛けていると話す。「高校生の頃に、ミスiDオーディションを受け、Twitterに書いた文章にいろいろ意見を言われることもありました。でもそれは、相手が自分の枠組みの中で、私について下した評価。『この人は私をどういう考えで評価しているんだろう』と言語化して、『これは受け入れるべき』『これは受け入れるべきじゃない』と判断するようにしています」

 他のメンバーは、「他人からの評価を気にする派」「気にしない派」に大きく分かれる結果に。イワシさん、ゆうさんは「気にしない派」。「他人の評価よりも、結果を見ています。例えばYouTubeの再生回数が伸びたら、それは結果じゃないですか。他人よりも自分の意見が一番大事だし、そこに従ったほうが幸せだと思います」(イワシさん)、「アイドルをやっていたので、小さい頃から他人に評価される環境にいました。でも、他人から評価・承認されても、自分自身は満たされません。自分が楽しいことをやるのみです」(ゆうさん)と述べた。

 一方、はなさんは「気にする派」。とはいえ、気にして落ち込むのではなく、なぜその言葉に引っかかったのか考えるようにしていると話す。「小説の中にも、他人に寄り添うことで『自分ってこうだったんだ』と気づく描写があります。他者は、自分の鏡のようなもの。相手から評価されているようで、自分が評価している。相手に寄り添っているようで、自分が寄り添われている。他人が私に言う言葉はその人自身が気にしていることだし、私が他人に言う言葉は自分自身が気にしていること。そうやって自分を見つめ直すきっかけにしています」。加藤さんも、他人からの評価は無視できないと語る。「今の時代、自分らしく生きることが最高だという風潮があります。ただ、私がうれしいのは人から褒められたり、一緒にいて楽しいと言われたりした時。自分の幸福度を左右するのは、他人からの評価なんです。他人からの『こうあってほしい』と、自分自身の『こうありたい』のバランスを取るようにしています」と語った。

 タレントのふたりも、他人からの評価を気にするという。ただし、悪い評価に落ち込むのではなく、評価をプラスに転換し、原動力としているようだ。ニシダさんは、「仕事に関しては評価を気にするし、エゴサーチもめっちゃします。匿名の評価で、救われたことも何度もありました。評価って、良いものもあれば悪いものもある。評価されないと自分が何なのかわからなくなってしまう」とコメント。まつきさんは「写真をSNSにアップした時、『まつき、太った?』って言われたことがあるんです。私にとって『太った?』は、一番言われたくない言葉。そこで全裸で鏡の前に立ってみたら、全然イケてた(笑)。そのことをすべてSNSに書いたら、そのツイートがめっちゃ評価されて。その時に救われました」と、笑いを交えて体験談を語った。

 最後に、今回の討論を通して、絡新婦さんにひと言書いてもらった。その言葉は「謙虚であれ」。「謙虚の主語は、己の理解力。的外れな評価をする人って、『自分は相手のことを全部理解している』と、自分の理解力を過大評価しているんじゃないかと思います。でも、他人から見えるのは、その人の一面だけ。理解しようと努めるのは大事だけど、もうちょっと謙虚に『理解したいな』くらいのにじり寄り方をしたほうがいい。人に優しくあるために己の理解力に謙虚でありたいし、みんなにもそうあってほしいなと思います」。

文=野本由起

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