違法サイトにどう対抗?『ドラゴンボール』鳥嶋さん、マンガ好き吉田尚記アナの答え

アニメ・マンガ

2018/2/9

(左)吉田尚記氏(右)鳥嶋和彦氏

 違法にアップロードされたマンガをインターネット上に公開する海賊版サイトの横行が、出版業界に深刻な被害をもたらしている。海賊版サイトはどのような悪影響を与えるのか。そして、読者は何ができるのか。白泉社の代表取締役社長でかつて『ドラゴンボール』などの担当編集だったことでも知られる鳥嶋和彦氏、「マンガ大賞」発起人であるニッポン放送アナウンサーの吉田尚記氏、マンガ・アニメ海賊版対策協議会事務局長・桶田大介弁護士に語ってもらった。

■海賊版サイトがマンガの未来を消滅させる!?

吉田尚記氏(以下、吉田):僕が子供の頃はコミックスにシュリンクがされていなかったので、書店でめちゃめちゃ立ち読みをしていました。もちろん今はお金を払って購入したマンガを読んでいますが、お金のない子供からすると「タダで読めるのはいいよね」というのは偽らざる本音だと思うんです。今回はそういう海賊版サイトでマンガを読んでいる子供たちを論破していただきたいな、と(笑)。

鳥嶋和彦氏(以下、鳥嶋):まず、マンガ家という仕事について知ってほしいですね。マンガ家は生活できるようになるまでに、とても時間と労力がかかる厳しい技術職なんです。例えば、新人のマンガ家さんが『週刊少年ジャンプ』で連載を始められるようになるまでにどのくらいの時間がかかるか。10代のうちから新人漫画賞に応募を始めたとして、そこで才能を見込まれて編集者がつき、ネームを見せるようになって、それから3年はかかります。

吉田:最短で?

鳥嶋:だいたいそうですね。鳥山明さんでも2年ぐらいかかりました。連載が始まって原稿料が出るまでは基本的にマンガでは無収入です。そこに至るまではアルバイトや親の援助で生活をせざるを得ないのですが、全員が連載を持てるようになるわけではありません。ジャンプだと編集者が20人ぐらいいて、それぞれデビュー前の新人を常時10人ぐらいは抱えていますから、編集部全体では約200人。そこから本当に連載を持てるようになるのは20人。1割しかいないんです。

 そこを勝ち抜いて連載を獲得しても、連載が終わればまた無職です。ひとつの連載が始まるまでに本当に多くの人の時間と労力が費やされているのですが、マンガ誌に載っているのはその上澄みだけなんですよね。

吉田:僕はその上澄みを立ち読みしていたということですね(笑)。

鳥嶋:しかも、連載中の原稿料はほとんどアシスタント代で消えてしまうので、それだけでは食べていけません。マンガ家さんの生活はコミックスが売れることで、なんとか成り立っているんです。それは出版社サイドも同じで、実はマンガ誌の売り上げだけで黒字というのは『週刊少年ジャンプ』だけ。他は全部赤字なんですよ。

 それでどうして成り立っているかというと、それもコミックスの売り上げで赤字を埋めているんです。今は紙のコミックスの売り上げも落ちてきていて、電子書籍で補ってようやく前年比100というところだから、非常に厳しい状況ですよね。

吉田:そういう中で海賊版サイトでのタダ読みが横行すると、マンガ産業自体がピンチになってしまうと。

鳥嶋:マンガ家さんと出版社に対価が還元されないタダ読みが当たり前になってしまうと、マンガ家という仕事が成り立たなくなるし、出版社もマンガ家さんを支えきれず、最終的には破綻します。

吉田:そんな状況をよく理解していなくて罪悪感なしに海賊版サイトでマンガを読んでいる人はすごく多いと思います。実際、ツイッターなんかではマンガ家さん本人に「ファンです! ○○(海賊版サイト)でいつも読んでます」なんて堂々と言ってしまう人がいるぐらいです。

 また、あえて身勝手な読者の立場を想定してみると「今、自分がタダ読みできるマンガがあれば将来的にマンガ産業がどうなろうと知ったことじゃない」という人もいると思うんですね。そういう人たちにどんなことを言いたいですか。

鳥嶋:マンガの良さのひとつは今の状況をリアルタイムですくって、それをさまざまな形で表現してワクワクする娯楽にしてくれるところにあります。すでにコンテンツとしては膨大なストックがあるかもしれませんが、そういう新しくて面白いマンガが今後出てこなくなってもいいんですか、と。

 さらにいえば、日本のアニメ、ドラマ、映画はマンガを原作にしたものがほとんどです。こうした日本のエンターテインメントコンテンツがどんどん先細りになって、最終的になくなってしまうという事態をちょっと想像してみてほしいですね。

吉田:まさにそれを実感したことがあります。高校生の頃ですが、僕は中国返還前の香港に行ったことがあるんです。当時、旺角(モンコック)という繁華街にまるごと全部が海賊版の店が入っているビルがあって、そこでは世界中のあらゆるコンテンツの海賊版がほとんどメディア代だけの激安価格で手に入りました。

 当時はVCDでしたが、1枚に日本の某アニメシリーズ全話とかパソコンソフト100本とかハリウッド映画5本とか入っていて、日本円で200~300円。勝手なユーザー目線からすれば天国みたいなところなんですけど、よく見ると香港産のコンテンツはひとつもなかったんです。どうしてなんだろうと考えてみて、ふと気づいたんですが、著作権者の権利が守れなければ誰もコンテンツを創ろうと思わないんですよね。当時の香港に優秀な創作者がいたとしても、海賊版が当たり前の香港の市場では食べていけないわけですから。

 そこで著作権が何のためにあるのか、腑に落ちたという経験をしました。このまま海賊版サイトが横行すれば、著作権がしっかり保護されている国のコンテンツが数多く生まれていく中で、そこに日本の新作コンテンツだけがないという状況がいずれ来るかもしれません。

鳥嶋:海賊版はユーザーにとっても一瞬はいいんですよ。無料や安い料金で面白いものが手に入るわけですから。でも、結局は焼き畑農業みたいなもので、最後はモノが生まれる土壌が消えて何もなくなってしまうんです。