池松壮亮「理解しがたい男たちの恋愛観に、たまに納得させられてしまうのがちょっと悔しい(笑)」

あの人と本の話 and more

2018/7/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、映画『君が君で君だ』に出演する池松壮亮さん。「簡単には答えが出ないものごとを、考えさせてくれる作品が好き」と話す彼が、今回の映画と推薦本『ちいさこべえ』で感じたこととは――?

池松壮亮さん
池松壮亮
いけまつ・そうすけ●1990年、福岡県出身。2003年『ラスト サムライ』で映画デビュー。14年『愛の渦』『ぼくたちの家族』『海を感じる時』『紙の月』などで日本アカデミー賞新人賞、ブルーリボン賞等を受賞。近年の代表作に『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』など。9月28日より木村大作監督の映画『散り椿』が公開。
ヘアメイク:FUJIU JIMI スタイリング:Baby mix 衣装協力:スタイリスト私物

「新井英樹さんのマンガが大好きで、いろんな影響を受けているんですけど、この作品はタッチも人間描写も何もかもが全然違いますよね(笑)」

 そう笑いながら池松さんが薦めてくれた『ちいさこべえ』。確かに、ひとコマひとコマから人間の“生”のエネルギーがダダ漏れするような新井作品とは異なり、『ちいさこべえ』は余白を生かしたタッチやコマ割りが印象的だ。

「この作品は、“昔も今も人の心の奥底にあるものは変わらない”ということをとても丁寧に描いている。だから、読むたびにいろいろと考えさせられます。それに説明しすぎていないところもいいんですよね。主人公の茂次はヒゲモジャで、まったく顔の表情がわからない。対する世話人のりつも感情的になることがほとんどない。そうやって、あえてわかりにくくすることで、読み手に考えさせる余白を与えてくれている。マンガに限らず、普段観る映画にしても、登場人物たちの感情が整理されすぎていない作品が大好きなんです」

 今回、池松さんが主演を務めた映画『君が君で君だ』もそうだ。ひとりの女性を男3人で10年間にわたって、ひたすら監視をする物語。それも、最終的に告白するわけでもなく、頼まれてもいないのに、女性を借金取りから守るために。この行動心理は、正直、理解しがたいものがある。

「ヘンな映画ですよね。おもしろいのが、向井理さん演じる本来もっとも危ない生き方をしている借金取りが、いちばんまっとうに見えてくるんですよ(笑)。しかも3人の男たちと一緒にいるうちに、ちょっとずつ感化されていって(笑)。逆にいえば、それだけ彼らの言動は真っ直ぐで純粋だということなんですよね」

 監督・脚本は松居大悟。池松さんとはこれまでにも映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』『私たちのハァハァ』や舞台『リリオム』など、さまざまな作品をともに作り上げてきた。

「松居監督とは僕が20歳のときに出会ったので、もう7年ぐらいの付き合いになります。監督は以前からずっと『オリジナル脚本で映画を撮りたい』とおっしゃっていて。というのも、今の日本映画界ってオリジナルの作品を作ることがどんどん難しくなってきているんですね。もちろん、原作のある作品を映像化することを否定はしませんし、意味のある素晴らしいことだと思います。ただ、「1」から「2」を作ることよりも、「0」から「1」を生み出す作業のほうがとてつもなく大変で。そこに松居さんが挑戦しようとしているのなら、僕もぜひ役者としてお手伝いしたいと思ったんです」

 ただ、物語を聞いて、池松さんは少なからず衝撃を受けたという。

「最初は“尾崎豊の話”と聞かされていました。なのに、あがってきたシナリオを読んだら全然違っていてびっくりしました(笑)。確かに“尾崎豊の話”ではあるんですが、片想いの女性が好きな尾崎になりきる男の役だったんです。しかも、その彼女を斜向いのアパートから見守るだけの話で。発想はおもしろいけど、わざわざこれを映画にしようだなんて、普通誰も思わないですよね(笑)」

 それでも監督の熱い想いを聞くうちに、納得させられる部分もあった。

「松居さんと話をしていたとき、突然、『大好きな相手だと、好きすぎてその人と同化したくなると思うんですよね』っておっしゃったんです。思わず、『え、どういうこと!?』って引いちゃったんですけど、それを話してる監督の表情が本気で(笑)。あまりにも純粋な目でいわれたので、“そうなのかな”って感じてしまう自分がいたんですよね。でも、それこそがこの作品の本質だなって思うんです。人間って、誰しも自分のなかにある程度の恋愛観や常識があるものだと思うんですが、当然それは人によって違うもので。だから純粋に『これが俺の思う、人を愛する気持ちだ』っていわれたら、たとえ常識から外れたおかしいことでも、どこか納得してしまうものなんだなって」

 とはいえ、尾崎になりきる男の役について、「きっと共感できない人のほうが多いと思いますよ(笑)」と池松さん。

「それでも、向井さん演じる取り立て屋じゃないけど、ときどき彼の純粋さにハッとさせられるところがある。そこが悔しくもあり(笑)、おもしろいところなんです。松居監督の作品っていつも入り口は混沌としているんですけど、その先には言葉にできない“人間愛”が詰まっている。そうした機微を感じ取ってもらえるとうれしいですね」

(取材・文:倉田モトキ 写真:干川 修)

 

映画『君が君で君だ』

映画『君が君で君だ』

監督:松居大悟 出演:池松壮亮、キム・コッピ、満島真之介、大倉孝二、高杉真宙、向井 理、YOU 配給:ティ・ジョイ 7月7日(土)より全国公開 
●失恋からの傷心カラオケで出会った留学生に一目ぼれした男。その後、男は彼女に借金があると知り、取り立て屋から守るため、友人や元カレを巻き込んで彼女の好きな男性(尾崎豊、ブラッド・ピット、坂本龍馬)になりきりながら、ひとつ屋根の下で彼女の日々の行動を10年間、監視し続ける。