いかにして人は孤独から解放されるのか―― 『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE』佐渡島庸平インタビュー【後編】

文芸・カルチャー

公開日:2018/8/2

クリエイターのエージェント「コルク」代表として、数多くのヒット作を世に送り出してきた佐渡島庸平さん。インターネット時代の到来と従来のビジネスモデルが崩壊していく中、新たな可能性を“コミュニティ”に見出した佐渡島さんは、2017年1月にオンラインサロン「コルクラボ」を設立、今年5月にはその活動を通して考えてきた“新コミュニティ論”として新刊『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE 現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ』を刊行した。現代社会に生きる私たちは、どのようなコミュニティを必要としているのか。著者の佐渡島さんに聞く。今回はそのインタビュー後編をお届けする。
【インタビュー前編はこちら】


――新しいコミュニティはビジネスにおいても重要な役割を果たすと書かれています。それは、「無名の一般人でもセルフブランディングしてフォロワーを増やそう」とか、そういう話とは違うものですよね。

佐渡島 そうですね。そういうSNSをビジネスに活かそうみたいな単純な話だと、その中心になる人とフォロワーは、1対nの関係になりますよね。コルクラボのようなオンラインコミュニティでは、よりフラットでフォロワー同士が自発的につながっているn対nの関係になるんです。コルクラボに参加している人たちは「佐渡島庸平とつながる」ことが目的ではないんですよ。コルクラボのなかで新しく複数の関係性を築いていくことを求めているんです。

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 このような新しいコミュニティのあり方がビジネスに重要だと考えるのは、今の時代でもっとも人の欲望を喚起するものが“同じコミュニティにいる人からの影響”になっているからです。ネット以前の社会ではマスメディアの発信に多くの人が影響を受けていたから、ひとつのブランドに人気が集まるようなことがよくあったわけですが、今は自分の欲望をマスメディアではなく、コミュニティのなかで発見するようになってきたんですね。こうした動きはほとんどの人が無意識のうちに行っています。例えば、新しく洗濯機を買おうとするときに人が参考にするのはメーカーのカタログや取扱説明書より「価格ドットコム」のレビューです。そこでは「子供が2人いる4人家族がこの機種を使ってみてどうだったか」みたいな細かいニーズに合う情報が共有されています。これが家電製品ではなく飲食店だったら「食べログ」、料理だったら「クックパッド」みたいに、みんなコミュニティで自発的に発信され、共有された情報から自分の欲しいものを見つけることが当たり前になっているんですね。こうした動きは今後どんどん細分化されていって新たにコミュニティができていく。そこでは、これまでのように“ジェネラリスト”ではなく、より“マニア”な人が求められ、評価されるようになります。そうなってくると、仕事のあり方にも変化が起こってくるでしょう。


――今後、オンラインコミュニティに参加しようという人はさらに増えてくるのでしょうか。

佐渡島 まずオンラインコミュニティに対する認識が変わっていくと思います。今の時点でオンラインコミュニティに参加しているのは多くの場合、時代の変化に敏感で積極的に学びたいという意識を持った人たちですが、すぐにオンラインコミュニティ自体がもっと身近で気楽なものになっていくはずです。学生の頃って「何かひとつくらい部活やサークルにひとつぐらい入ったほうが楽しいかな」という感覚があったじゃないですか。今後、オンラインコミュニティもそのぐらい一般的なものになると思います。数が増えて多様化していくことで、部活やサークルを選ぶのと同じような感覚で多くの人が自分が入るコミュニティを選ぶようになるのではないかと。実際、サークルの運営とオンラインコミュニティの運営って共通するところが多いんですよね。大学に8年通って、サークルをいくつも作ってきたという経験がある人の話を聞かせてもらったことがあるのですが、コルクラボの運営にものすごく参考になりました。

――本書は「アップデート主義」として、noteの有料ページで公開しながら書き進めて、読者のフィードバックをもらいながら書いていったそうですね。

佐渡島 今は紙の本を先に作って、それが電子書籍としてデータになっていますが、その順番はこれから逆になっていくでしょう。デジタル上でアップデートを重ねていって、最終的に落ち着いたものを紙の本にするという流れになるはずです。そうなると本の作り方そのものやコンテンツの考え方といった仕組みが変わっていくので、出版社もそうした動きに対応していく必要があります。ですから、まずは自分の本で実験的にやってみたんです。

 今はそういう根本的な変化の過渡期。そういう意味では、この本は出版するタイミングとしては、ちょっと早いんです。タイトルは『宇宙兄弟』に出てきた台詞に由来していますが、パッと見ただけでは何の本かわかりづらいですよね。それは、まずは本当に興味のある人にだけ手に取ってもらえばいいと考えているからなんです。自分で料理をしない人はレシピ本を読んでも書かれていることがわからないのと同じように、コミュニティについて意識していることがないとわからないことが多い内容になっているんですよ。でも、今ここに書かれていることがピンと来ない人でも、3~5年後ぐらいにはしっくり来ることが多いのではないかと。実際にコミュニティに参加したり、自分でも作ってみようと考えている人には伝わるものがあるはずなので、この本を改めてコミュニティについて考えるきっかけにしてほしいですね。

取材・文:橋富政彦
写真:山本哲也

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