『夫のちんぽが入らない』こだま×ゴトウユキコ対談――「漫画にするとこんなに伝わるんだ、って感動した」

アニメ・マンガ

2018/9/8

 ゴトウユキコさんの描く『夫のちんぽが入らない』は、原作では決して書かれなかった二人の名前がついている。

 鳥居さち子と倉本慎。

 こだまさん原作の『夫のちんぽが入らない』(9月14日に「講談社文庫」より文庫版が発売)が、ゴトウユキコさんによってコミカライズされ、ヤングマガジンで5月から連載中だ。

 そして、とうとう記念すべき第1巻が発売された。単行本には、第7話までのお話と、お二人の往復書簡がおまけに入っている。

 本記事では刊行を記念して、こだまさんとゴトウユキコさん、お二人の対談を行った。

 この対談は、ゴトウさんの「(緊張してしまうので)お酒があれば」という一言で、夜の新宿にある、とある個室居酒屋の一室で行われることとなった。(ちなみに、その場には、こだまさんの担当編集である高石さん、ゴトウさんの担当編集である小島さんも同席)

 作品をみればわかる、お二人の相性の良さ。特に、話すトピックは決めず、そのときの流れで自由に話に花が咲けばいいと思っていた。

 そして、対談は、沈黙から始まる…。

 度々会話が途切れて静まり返る個室の中で、果たしてこの対談は成立するのか、と、もしかしたらその場にいた全員が感じていたかもしれない。

 だが、度々訪れる沈黙の中から、こぼれるように、唐突に落ちるお二人の言葉は、決してその場しのぎの表現ではなく、むしろ極限にまで磨き上げられた「本音」だったように思う。

「できれば人と話したくない性格なんです」と語る二人が、それでも聞きたかったこと、どうしても話したかったこと。

 約2時間の中で、ぎこちなく二人の間を行き来していたボールは、しかしとてもまっすぐに、相手の手元に向かって投げられていた(ように思う)。

こだまさんが国分寺で他の人と会っているって知って、嫉妬してしまって

――乾杯を交わしたところで、対談ではありますが、あまりかしこまらずに色々とお話しできればな、と思っています。

こだまさん(以下、こだま):……。

ゴトウユキコさん(以下、ゴトウ):……。

――……お二人は、今日で会うのは何回目なんですか?

こだま:3回目、ですね。1回目が、コミカライズを担当いただくことになって初めてお会いした日。2度目が、神楽坂のイベントにお越し下さって、そして3度目がいきなりの対談という。正直最初にお会いしたときにゴトウさんがとても緊張されていたので、今日このお話を受けてくださったと聞いて、すごく嬉しいなと思って……。(こだま、突然鼻をかむ)

高石さん(以下、高石):大丈夫ですか? 今日は鼻がやられてるんですか?

こだま:大丈夫です、緊張で鼻水が止まらなくなってしまって。

小島さん(以下、小島):ゴトウさんも今日お腹痛いって言ってたよね。

ゴトウ:もう大丈夫です。すごく緊張してますけど……。

――普段メールやDMなどでのやり取りはあるんですか?

こだま:いえ、一切。むしろ私から連絡してしまうと、なんだかプレッシャーに感じてしまうのではないかと思っていて。コミカライズはすべてゴトウさんにお任せして、ゲラを拝見したときに感想を編集さんを通してお伝えしています。

ゴトウ:私は、私信とか送っちゃいけないのかな、と思っていて。

こだま:え、気を遣われていたんですね。私は私で、とにかく重荷にならないといいなと思っていて。むしろ普段感想を送るだけでもプレッシャーになってるんじゃないか、と心配していたくらい。だから、お互いにTwitterで自分たちのことだけつぶやいているような距離感が一番いいのかな、と思っていて。

ゴトウ:感想は、すごく励みになっています。

――こだまさんは、ゲラを拝見するとき、自分に重ね合わせて読むんですか?

こだま:いえ、もう全くの別物として読んでいます。これは、ゴトウさんの作品。ゲラを拝見しているときも、本当に一読者としての感想で「ここが面白かった!」ってお伝えしているだけで。一人一人に名前があるだけで、完全に他人事になるんですよね。毎回「面白かった」って言うのが、自画自賛みたいでちょっとためらわれるんですけど……。

ゴトウ:ずっとさち子と慎くんを描いていたら、二人のことがすごく好きになってしまって……こだまさんのことも、全然会っていないのに、好きになってしまった。

こだま:ああ、本当に。

ゴトウ:好きです。

こだま:……ありがとうございます。

ゴトウ:……。

――こだまさんのTwitterを拝見していると、毎週漫画をすごく楽しみにしている印象です。この間は、漫画に出てくるお団子屋さんにも行っていましたよね。

こだま:そうなんです、ゴトウさんの作品の「聖地巡礼」みたいな気分で。そのお団子屋さんが実在するって知らなかったんですけど、友達が「国分寺にあるよ」って教えてくれて。銭湯も見に行ったりして……国分寺は、学生の街ということで舞台に選んだんですか?

ゴトウ:いや、地元で。

こだま:ああ、そうだったんですね! 知らなかった……。

ゴトウ:だから、Twitterみたら、こだまさんが国分寺に来ていることを知ったんですけど、違う人と会っていたので嫉妬してしまって。

こだま:そうだったんですか! お会いしたかったです。

漫画にするとこんなに伝わるんだ、って感動したんです

小島:実は、今度のヤンマガの巻頭カラーは、ゴトウさんがこういう風に描いてくれたんです。

こだま:え、すごい!

小島:イベントでこの仮面をつけていたのが、相当印象に残っていたみたいで(※)。

※こだまさんは顔バレしないように、トークイベントなどでは必ず仮面をつけて登場する。

こだま:これは、さち子なんですか? それとも私に寄せて描いてくれている……?

ゴトウ:さち子です。

小島:こだまさんのファンでイベントとかに行くような人じゃないと、これの意味はわからないと思うんですけど。

ゴトウ:もしかして、実際のこととつなげない方が良かったですか?

こだま:いやいやいや、もうすごくありがたくて。これはもう、自分ばっかり嬉しいですね。私、ゴトウさんの絵が好きなんですよ。可愛らしく描いてくださるから、自分のことだと思わずに読めるというか。ゴトウさんのご家族は、この作品を描いていることはご存じなんですか?

ゴトウ:知ってます。

こだま:娘さんがこのタイトルで作品を出すって、どういう反応なんでしょう……。

ゴトウ:メールで伝えたら、すごく喜んでました。姉ちゃんはもともと原作が大好きだったみたいで。お母さんはエロに対して拒絶反応があるタイプなんですけど、それでも褒めてくれました。

こだま:え、すごく嬉しいです。

――どこらへんがお母様の心に響いたのでしょう。

ゴトウ:……わからない(笑)。

こだま:漫画は毎回、性的なシーンと日常的なシーンの落差がとても激しくて、それが本当にすごいですよね。痛々しいシーンは、本当に辛いんですけど、一方で、二人で銭湯に行ったり買い物に行ったりするシーンは、すごく和やかで。私が原作では書ききれなかったことをゴトウさんが描いてくれているような感覚なんです。漫画にするとこんなにも綺麗に伝わるんだ、って感動しました。Twitterでもそう言ってくれている人が多いんですよ。

ゴトウ:こだまさんはエゴサするんですか。

こだま:作品のタイトルでしてますね。ゴトウさんはエゴサしますか……?

ゴトウ:毎日してます。

こだま:え、意外……!

血の量はあれくらいで大丈夫でしたか?

――個人的に、ベビーオイルの回があまりにも痛々しくて、読んでいて少し泣いてしまいました。

ゴトウ:実際、あれくらい血が出たんですか?

こだま:あの漫画ほどではないですね。でも、誰がみても痛々しいというか、そのまま放っておけない程度の血は出ました。

ゴトウ:出しすぎちゃったかな……。

こだま:いや! もう全然、あれくらい出ていいですよね?

高石:いいですよね、って誰に確認とってるんですか。

こだま:でも当時も目でみてわかるくらいには出たんです。ちょうどこのお皿(直径約20cm)くらいは……。

ゴトウ:今回、漫画で描くための資料として、ベビーオイルを初めて買って。手に出してみたら、思っていたより水っぽくて意外でした。もっとドロドロしているのかなって思っていたので。

こだま:あ、そうでしたか? 私はもう、学生当時に使って以来、ちょっとトラウマのようになっていて買ってもいないし、お店でも目を合わせないようにしていて、感触自体忘れてしまっています。わりとスルってしてました?

ゴトウ:はい。

こだま:もっとトロトロの方がよかったのかな。

ゴトウ:あれをいっぱい出してやるんですか?

こだま:そうです、何回もプッシュして。だからもう、シーツの血もそうですけど、ベビーオイルの量もすごくてシミになっちゃう。血とベビーオイル、ダブルでベタベタになっちゃうので、洗濯が本当に大変でしたね。いま思い返すと。

 漫画でも、さち子がシーツを干しているシーンがありますよね。あれをみながら、たしか血とベビーオイルがあまりに出るから、シーツを二重に使っていたな、とか当時の苦労を思い出しました。シーツを干しているシーンとか、夫がシャワーを浴びている寂しそうな背中とか、そういう私の本の中では描かれていないシーンがあると、ゴトウさんが本を読んで、ゴトウさんの目でみたものだから、より私の心に響くというか。やっぱりそこはゴトウさんの作品として読んでいるんですよね。

高石:今日はよくしゃべりますね。

カットされた金髪ブタ、夫のモデル

ゴトウ:小説の面白いところを全然面白く描けていないな、ってずっと思っていて……。

こだま:え、面白いですよ。

ゴトウ:金髪ブタくんのところが描けなくて。

こだま:それは全然、気にせずカットしていいところですよ。

ゴトウ:あそこ、なんか面白かったので入れたかったんですけど。本筋とは絡んでこない部分でもあったので。

こだま:私自身がカットされていることに気づいてなかった(笑)。

――こだまさんはゴトウさんの作品として読んでいるという話でしたが、慎くんに対しても自分の旦那さんとは完全に切り離してみているんですか? 読んでいてキュンとしたりとかするのかな、と。

こだま:もう、完全に別物ですね。旦那さんと私ではなくて、別世界の二人をみているのが面白いというか。だから、自分が原作なのに、つい「ああ、すごく良かった」と感想を言ってしまうときがあって、恥ずかしくなるときがあります。自画自賛してるみたいで気持ち悪いな、って。

――ゴトウさんは原作を読んだとき、旦那さんに対してどういう印象を抱いたんですか。

ゴトウ:なぜか、かまいたちの濱家さんが頭の中に浮かんで。

こだま:ええ、なんでだろう。

ゴトウ:色白で八重歯って書いてあったので。

――ちなみに、ゴトウさんにとって慎くんのようなビジュアルって好みのタイプだったりしますか? ほかの作品でも、同じ系統の顔の男の子が描かれている印象があったので。

ゴトウ:性的な対象ではなくて、綺麗なものだと思ってみています。

――旦那さんも背は高いんですか?

こだま:いえ、私よりも少し背が高いくらいなので。男の人としては高くないと思います。夢を崩すようですが、外見だけは少しフィクションとして変えさせてもらっていて……八重歯もないです。

ゴトウ:あ、そうなんですか……漫画で慎くんを描くときは、格好良く、美しく、を意識しています。

こだま:ああ、でも、いつも汚い格好だったのに、スーツで現れるシーンが格好良かったです。いままでずっとジャージ姿だったのがここで活きるんだ、という(笑)。

――4年目にして初めてのプレゼントをもらう日のエピソードですよね。あれは本当にそれまで何ももらってなかったんですか。

こだま:そうなんです。私からは相手の誕生日とかケーキで祝ったりしていたんですけどね。夫は誕生日に何かを贈るとか、そういった習慣のない人で。学生時代は彼もお金がなかったのでスルーしていたんですけど、社会人になってからも言いそびれていて、私の誕生日自体知らなかったんじゃないかな。もともと他人に関心が希薄というか、良くいえばおおらかな人なんです。

ゴトウ:原作で、チーズフォンデュの話を読んで驚きました。せっかく自分のために買ってきてくれたのに、もう二度といらないって平気で言えちゃうのがすごいな、と思って。

こだま:良くも悪くも、あまり人の感情を気にしないというか…。自分の意見を言える人ではあるけど、無神経でもありますよね。

ゴトウ:ムッとならないんですか。

こだま:大学時代で慣れ過ぎてしまったというのはありますよね。でも、最近は私もキレるようになったんですよ。なんでいままで許せていたのか忘れちゃうくらい、普通に「うるせー!」とか家でずけずけ言うようになりました。

いまやっと『きらめきのがおか』に意味があったと思えました

――こだまさんは、ゴトウさんの描く他の漫画作品で特に好きな作品などはありますか。

こだま:最初に読んだのが、代表作としていただいた『R-中学生』。そのあとすぐに自分で買ったのが『水色の部屋』。それがすごく、良かった。タブーに思えるようなことを、これほどためらいなく描ける人がいるんだ、と思って。そういう方に自分の本を描いていただけるというのが嬉しかったです。

 その次に読んだのが、『きらめきのがおか』。これが先ほどの二つとは全く違うタイプの作品で、驚きました。でも、これも好きですね。主人公が純真そのもので、どんどん周囲を巻き込み、巻き込まれていく感じ。いまの『夫のちんぽが入らない』の漫画版って、残酷で痛々しい部分と、普段のほっこりとした日常のシーンの落差がすごく面白くて印象的だと思っているんですけど、私は両方のタイプの作品からつながりを感じていて。

『R-中学生』や『水色の部屋』で描かれる残酷な部分と、『きらめきのがおか』のほっこりとした部分、これがいまの作品にどちらも要素として入っているように感じるんです。だから、そういうのを前もって勘付いて候補作家に挙げてくださった方々にも、感謝しています。

ゴトウ:……『きらめきのがおか』は、描いた意味があったのかなってずっと思っていて。

こだま:え、そうなんですか? あれはゴトウさんのアイデアだったんですか。

ゴトウ:いや、小島さんの前の担当さんが、一切エロのない作品を描いてみよう、というお話をしてくれて。振り幅を広げてほしいから、というお話だったので、実際にやってみたんですけど、自分はどうしても好きになれなくて。

こだま:えええ。

ゴトウ:でも、いまこだまさんのお話を聞いて、『夫のちんぽが入らない』の日常部分に活かすことができていたのなら良かったな、って初めて思えました。

こだま:良かったです。なんていうか、ゴトウさんの作品ってひとつひとつが、同じ人が描いた作品とは全く思えないんですよね。こんなに暴力的なシーンを描く人が、こんなに純真な女の子を描くんだ、っていう。その幅に驚いてしまう。でも、じゃあ『きらめきのがおか』の連載は辛かったんですかね。

ゴトウ:はい……でも、勉強になったので、結果的には良かったです。

――そろそろ時間も終わりに近づいているのですが、普段なかなか会う機会もないというお話だったので、何か最後に言い残したこととかあれば。

こだま:私からはもう、「ありがとう」以外にありません。こんな素晴らしい漫画の作品にしてくださって、本当にありがとうございます、と。

ゴトウ:新宿にある「珈琲西武」というお店にすごいパフェがあるので、それを食べてください。

――そこは一緒に行きませんかではないんですね(笑)。

ゴトウ:あ……行きませんか。

こだま:ええ、ぜひ、行きます。行きます。

取材・文=園田菜々

(C)こだま・ゴトウユキコ/講談社