Twitterなんて今すぐ辞めて“鎖国”すべき? キンコン西野亮廣が見出した、激変する今の生き方

エンタメ

2019/6/12

 2013年、ニューヨークでの個展開催費用を集めるため、いち早くクラウドファンディングという資金調達方法に着目。2017年には、絵本『えんとつ町のプペル』(にしのあきひろ/幻冬舎)をインターネット上で全ページ無料公開した。わたしたちの常識を次々と塗り替えてきたキングコング・西野亮廣さんが、2019年、またひとつの挑戦を成し遂げた。


新・魔法のコンパス』(西野亮廣/KADOKAWA)

新・魔法のコンパス』(西野亮廣/KADOKAWA)は、3年前に刊行されたベストセラー単行本『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』(西野亮廣/主婦と生活社)の文庫版という位置づけだ。通常、単行本を文庫化するときの内容変更は、加筆修正のレベルで行われる。が、この文庫本は、加筆修正の枠を超えた全編完全改訂。実質書き下ろしと言える文庫化である。

 全編完全改訂をした理由は、「目まぐるしい速さでルールが変更されてしまう時代」だから。「世界のルールは今日も書き変えられて、おかげで、学校で貰ったコンパス(羅針盤)はグルグル回り続けて、いつまでたってもボクらが進むべき道を指さない」──本書でもそう語る西野さんは、この時代と、この時代のエンタメを、どのように捉えているのか。お話をうかがった。

■エンタメの選択肢が増えて、時間の価値が上がった

──『新・魔法のコンパス』は、単行本からさらにエッセンスが抽出され、シンプルで応用力が高い内容になったなという印象です。そういう点は、意識して執筆されたのですか。

西野亮廣氏(以下、西野):今回、執筆する際に意識したのは2点です。1つ目は、単行本を出したのが3年前なのですが、「3年前に比べて、みんな忙しくなった」ということ。スマホを触れない時間って、もはやストレスでしかありません。エンタメの選択肢が増えて、時間の価値がすごく上がっちゃった。「1冊の本に許される時間が3年前ほどはない」という話です。せいぜい、1時間から1時間半くらいで読み終わるようにデザインしておかないと、それ以上の情報は、ストレスに変わってしまう。だから今回は、いらないものをぜんぶ切って、1時間半くらいで読めるようにしました。

 2つ目は、単行本の新刊と文庫本とでは「役割が違う」ということですね。文庫本って、単行本に比べて本屋さんに長く残るじゃないですか。5年後に手に取られたとき、内容が古くなってると具合が悪いですから、あんまり最新のことは書いていません。最新テクノロジーは腐りが早いので。新しいものを書くとしても、文化として残りそうなものだけですね。たとえばオンラインサロンなら、「オンラインサロン」という名前か残るかどうかはさておき、月額課金のモデルはおそらく5年後も10年後もあるだろうから、それは書く。残るものだけを書こう、普遍的なものを書こう、というのは意識しました。

──今回は、時代にあわせてまるまる一冊書き直されたということですが、あえて同じタイトルで出された意味は?

西野:最初は、ここまで書き直すつもりはなかったんですよ。「加筆・修正」程度にするつもりだったので、別にタイトルを変える必要もないと思ってたんですけど、書き始めてみると3年前の本の古さに腰を抜かしちゃって、最初から最後まで丸ごと書き直すハメになってしまいました。

──お金や広告の話は、書き直された文庫版にも変わらず入っていますね。物事をいかに始めて、いかに広げていくかというお話は、ご自身のテーマなのかなと。

西野:挑戦には「お金」と「広告」の問題は必ずついてまわって、挑戦を続けるには「お金」と「広告」問題を解き続けなければなりません。どの仕事でもそうですよね。最近、サロンメンバーの会社のコンサルを80社ほどやらせてもらっているのですが、ほとんどの悩みが、「集客」や「どうやって物を売っていくか?」です。彼らや、彼らと同じような境遇にある人達の背中を押したいと思うのですが、その時、お金や広告戦略のことを外して「魂の~」とか「宇宙の~」とか言い出すと、スピリチュアル系の自己啓発本になっちゃうじゃないですか。それで救われる方もいらっしゃるとは思うのですが、僕は精神論よりも具体的な数字が伴った話の方が好きなので、「お金」と「広告」のことは数字をまじえてキチンと書こうと思いました。

──文庫版では、お金や広告の章に加えて、「ファン」という章が新しくできていますね。「ファン」というくくりは、どのように発見されたんですか。

西野:最近、サービスのクオリティーに差がなくなってきましたよね。もう高くて不味い店はないし、どの電気屋さんに行っても、同じものならだいたい同じ値段で売っている。「あそこのラーメンが美味しい」となったら、翌週にはそれが流行っちゃうというような。インターネットによって「機能」は全人類の共有財産となり、「機能」で差別化することが難しくなっちゃって、僕らは「あの人の店に行こう」という判断をくだすようになる。時代は徐々に「機能検索」から「人検索」になってきているわけですね。“人”で差別化するしかない。つまり、「ファンを抱えている人が強い」というシンプルなルールです。ここからは目を背けることはできないと思います。

──それも不思議ですよね。テクノロジーの進化が、“人”に行き着くっていう。

■今、お客さんは“物語”に反応している

──表現者に必要なのは「鎖国」だというのも、おもしろいなと思って拝読しました。

西野:プチ鎖国はすごく大事だと思います。表現活動をされてる方は、Twitterなんて今すぐ辞めた方がいいと思いますよ。尾崎豊しかり、勝新太郎しかり、表現者の最大の価値は「間違ってるけど、いいよね」という部分にあるのに、間違いを徹底的に認めないのがTwitter村のルールです。Twitterは「正義」なので。ただ「正義」が正しいかというと、これまた微妙なところで、暴走するのも、戦争を始めるのも、いつも正義の仕業です。正義で動いている人は歯止めが効かないんですね。当然、Twitter村では、どんどん間違いが消されていきますから、表現者は弱体化する。先日炎上されてましたが、幻冬舎の見城さんに、品行方正を求めるようなんてナンセンスじゃないですか。見城さんは天然記念物なんで。「見城徹」ではなくて「ニホンケンジョウ」でいいんです(笑)。ああいう人がいなくなると、窮屈になりますよ。今のTwitterは2ちゃんねるなので、参加するだけ時間の無駄です。

──いろいろ聞こえてしまう時代ですもんね。オンラインサロン(「西野亮廣エンタメ研究所」)を作られて、意見を聞く場を切りわけていらっしゃるというのも、ひとつの決断だなと。

西野:オンラインサロンだと、次はあれをする、その為にはこれをするっていう建設的な話ができるので。それをTwitterとか世間に投げちゃうと、理解が追いつかない人達が自分の自我を守る為に、「なに言ってんの」「また逆張りして」「炎上商法ですか」と言い出すわけで、シンプルに面倒臭いんです。自分としては、今のところ、オンラインサロンで活動して、出来上がったものを2年後ぐらいに世に出すっていうのがバランスのいいですね。

──次々とおもしろいことを仕掛けていらっしゃる西野さんですが、アイディアはどんなときに生まれてくるのでしょう。

西野:酔っ払ってるときですね(笑)。お酒を飲んでるときって、気が大きくなっちゃってて、なんとなくいける気がしませんか? 僕、今度美術館を作るんですけど、シラフだったら「美術館作ろう」なんて判断はしないと思うんですよ。美術館って高いんで!(笑) 50メートルくらいのでっかい時計台も作るんですが、それもシラフだといらないっていう判断になる。酔っ払ってるといいですね、判断を大幅に間違っちゃうから(笑)。50メートルの時計台の作り方なんて、Yahoo! 知恵袋とかで調べても見つからないんですよ。作った人がいないから。なので、アイデアを絞り出すしかない。アイデアを絞り出さないと死んでしまう状況に飛び込んでいった結果、アイデアが出てくる。生き物なので、生き延びるようにプログラミングされているんだと思います。

──そうやってダイナミックに仕掛け続けていくことが、現代の生存戦略なのかなという気もしました。

西野:今、お客さんは、“物語”に反応してるんですよね。そうなると、ただ企画を遂行するだけのプレイヤーには、あんまり人がついてこない。「どうすんのこれ!?」とか「死んだじゃん!!」みたいなときに「おいおい、ここからどうするんだよ?」という熱狂が生まれます。このあいだ個展をやったときも、最初の見積もりは1300万円だったんですよ。それなのに、ふたを開けてみたら4000万円になってて即死しました。

──どうリカバリーされたんですか?

西野:できてないです(笑) コンパクトな規模にして予算を削るっていう方法と、4000万円意地でも用意するっていう方法の2択だったんですけど、やっぱりお客さんがワクワクするのは後者だよなってことで。入場料はは大人500円、子供無料にしたので、イベント単体ではクソ赤字ですよ。でも、その“物語”を見せることで、オンラインサロンのメンバーが増えたり、やめようと思っていたオンラインサロンのメンバーが残ったりというのもあわせると、イベント単体では赤字でも、チームの売り上げは上がってる。あんまりマイナスじゃないんだ、と自分に言い聞かせて、経理のスタッフさんからはブチギレされてますね(笑)。

■会社の在り方、エンタメの在り方、お金の流れが変わっていく

──オンラインサロンに参加されているのは、どういった人なのでしょう。

西野:ホームレスから上場企業の社長まで2万5000人ほど。幅広い人がいます。今、自分としては、すごく動かしやすくなっていますね。僕は吉本興業所属ということになっているんですが、自分の会社もあって、そこの社員は2人なんです。ここは先輩方と考えがずれるところなんですが、僕には会社を大きくしようという発想が一切なくて、社員が2人もいれば、十分、エンターテインメントで世界を取れんじゃないかなぁと。

 僕は、毎日サロンに記事を投稿しています。「僕はこういうことを思う」「こういうのが好き」「こういうのは嫌い」「こういうのがやりたい」「こういうときはこうしたほうがいいと思う」みたいなことを、毎日毎日、2万5000人に発信してる。その2万5000人の中には、アカデミー賞を獲った音楽家さんとか、いろんな方がいらっしゃるわけです。このあいだの個展もそうなんですが、運営はサロンメンバーに投げたし、空間設計もサロンメンバーの建築士に、照明も音楽も撮影も、サロンのメンバーに投げました。オンラインサロンの中だけで、エンタメが完結したんですよ。

 たとえば撮影をしてもらうのであれば、当然ギャランティーをお支払いすることになりますが、自社でクルーを抱えていたら、うちの会社が撮影をしないときも、その人たちにお給料を払わなくちゃいけない。いろんな会社を見ていると、この“活きていない固定費”が、かなり可能性を潰してるなと思っていて。

 本来、撮影をしないあいだの撮影クルーの固定費は、作品にぶつけたほうがチームとしてはいいはずです。そうであれば、プロジェクトごとに、集合と解散をカジュアルに繰り返せるチームのほうがいいということになる。だからといって完全外注にしてしまうと、どういう世界観にするのか、とか、いちいち意見のすり合わせからしなくちゃいけません。なので、2万5000人のサロン内に外注するやり方が一番居心地よくやれる。予算のムダがないんです。

──会社の在り方みたいなものも、今後変わってきそうですね。

西野:変わりますね。けっこう大変そうですもん、大企業。重たくなっちゃって、本来その企業が使わなきゃいけないところに、予算の全力を注げていない。

 それに、ドーパミンみたいな興奮したとき出る物質って、受け取るだけのときよりも、作って与えたときのほうが出るんでしょうね。お客さんの満足度は、お客さんをステージに上げたときに最上級になる。「プレイヤーにしてあげる」っていうのは、女の子が結婚式に憧れる感じに近いんじゃないですか。結婚式の日だけはお姫様になれる、そのときの女の子って幸せなはずなんです。プレイヤーになれるから。誕生日会で、みんなにおめでとうって言ってもらうのもそうかな。普段はプレイヤーに回れない人が、プレイヤー側になる。エンタメも絶対、お客さんをいかにプレイヤーに回すかっていう方向になると思います。

 そうなってくると、お金の流れが完全に変わりますよね。お客さんの満足度が高ければ高いほどお金を多く払わなきゃいけないっていう理屈でいうと、B席、A席、S席の中では、これまではS席の満足度が一番高かったから、S席の値段が一番高かったわけじゃないですか。それよりも、おそらくプレイヤーの満足度のほうが高いから、値段設計でいうと「プレイヤーになれる権」が一番高くなる。お金を払って、プレイヤーになるってことですね。「お金を払って働かされるなんて、ブラック企業の極みだー! 悪徳宗教だー!」と叫んでいる人達は、ここが読み取れていない。しかし、時代は確実にそっちに向かっています。

■近畿大卒業スピーチに託したメッセージは“希望”

──文庫版には、近畿大学平成30年度卒業式でのスピーチが収録されていますが、これはどういうお気持ちで入れられたのですか。

西野:意外と評判がよかったから入れとけ、みたいな……それくらいのノリだった気がするんですけど(笑)。その部分、本の中では「特別付録」っていう別枠として入れてるじゃないですか。数字が伴ってないからなんですよ。部数だとか、予算だとか、こういうことをしたらこういう結果が出ましたみたいな、数字の話はしていない。なので、付録という形にしたんです。

 最近、いろいろなことをやっていて、この国に今、圧倒的に不足しているのは“希望”だと思ったんですよね。たとえば戦後は、「アメリカのコピペをやったらうまくいくんだ」みたいなことを、国民全員が信じていた。希望を持って、いい大学に入って、いい会社に入って、そうしたら幸せになるんだと信じられていたときは、みんなすごくがんばったし、国も安定してました。本当にそこにたどり着けるかは別として、希望を持っていること、「もしかしたらいけるかも」と思うことが、人をすごく安定させるんだと気づいた時に、「努力は報われるよ」「夢は叶うよ」って言わないとあかんなって思ったのはありますね。「夢は叶わない。現実を見ろ」みたいなことを言うのが一番簡単ですけど、それはまだ、国に余裕があったときのやり方ですね。

 実体験としては、さっきからお話ししてる個展の話になるんですけど、兵庫県の川西市っていうなんでもない田舎の町で、山奥のお寺を2週間貸し切って個展をやったんです。川西市って、僕の故郷なんですよ。なので、ゆくゆくは川西市に美術館を作って、人が来る環境を作るっていうふうに旗を振ってスタートしました。最初はやっぱり、地元の人たちは「こんなところに人が来るわけない」「無理だよ」みたいな感じだったんですけど、「いや、いける」って言い切って。僕も、別に算段が立ってたわけじゃないんですけどね。

 でも、いざ個展がスタートすると、全国からすごく人が来たんですよ。普段はほんとに人が来るようなところじゃないのに、駐車場は300台待ち、1kmくらいの渋滞ができて……近隣住民の方にむちゃくちゃ迷惑かけてしまいました。けれど、それを見た地元の方が、急に「あれ、いけるかも?」って、次の日からすごく前のめりに手伝ってくれるようになった。「あ、これだ」と。国全体に、これが不足してるんだなって思ったんです。「夢は叶う」という生ぬるいことを、夢を叶える為の方法論をまじえて大声で言わなきゃダメだと。バカみたいですけど、すごく大事だなと思いました。

──ブログで拝読したのですが、この『新・魔法のコンパス』を最後に、ビジネス書のご執筆を少しお休みされるとか。この本が集大成ということですか?

西野:いや、とはいえ、また来年度か再来年度とか、書きたくなったら……そんなこと言ってたら、来月書くとか言ってるかもしれませんけど(笑)、今はいいかなと。今現在のことはもう書きましたからね。

 今、オンラインサロンっていう2万5000人のチームを運営していて、それって簡単なことじゃないんですよ。たとえば夕張市って、人口7000人とか8000人とかそのくらいだと思うんですけど、夕張市には警察があるじゃないですか。つまり、7000人とか8000人って、犯罪のリスクがある人数なんです。

 同じように、企業なんかの抱えるリスクも、1000人、3000人、5000人から1万人とメンバーが増えるにつれて、どんどん上がっていきますよね。5000人くらいになると社員から犯罪者が出て、1万人くらいになると、年に1人くらいは事故や自殺で死んじゃう。2万5000人っていうとそれ以上の人数なので、そのリスクをいかに削っていくかということを考えるんですけど、その過程で覚えたこととか、勉強したことが山ほどあるので、次に本を書くとしたら、たぶんリーダーの話ですね。リーダーがなにをしなきゃいけないのかっていう。

──それも、世の中を動かしていくには必要な話題ですよね。

西野:そうですね。野球部のキャプテンも、会社の部署のトップもリーダーだし、リーダーはいっぱいいるので、リーダーに向けて本を書きたいなと。でも、ちょっと先になると思います。今はそれより、時計台を作ったり、ロボットを作ったりしたいですね。あと、エッフェル塔! エッフェル塔をジャックして個展をやろうと思ってます。でも、エッフェル塔のジャックの仕方なんて、調べても出てこないんですよ(笑)。自分たちで探さなくちゃいけない、今はそれが楽しいです。

取材・文=三田ゆき 撮影=内海裕之

まぼろしの最終話!西野亮廣『新・魔法のコンパス』「不安定たれ」【ダ・ヴィンチ限定公開】

西野亮廣エンタメ研究所
西野亮廣氏が主宰する国内最大の会員制オンラインサロンで、毎日、西野氏とサロンメンバーで議論や実験を繰り返しながら、作品制作やWebサービスの開発などを進めている。エンタメの最前線を楽しめるだけでなく、時にはクリエイター側として参加できるのも特徴。月額1,000円の有料制ながら、会員数は25,000名を突破し、国内最大となっている。