まぼろしの最終話!西野亮廣『新・魔法のコンパス』「不安定たれ」【ダ・ヴィンチ限定公開】

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更新日:2019/6/12

 西野さんが「1時間前後で読める本にする」という意図で執筆したのが文庫本『新・魔法のコンパス』(KADOKAWA)です。

 それは西野さんの「読んで成果を生み出す助けになるべきビジネス本が、必要以上に読者の時間を奪っていいのか」という疑問から、読むのにかかる時間を最小化し、学びを最大化することを『新・魔法のコンパス』で試みたといいます。

 結果、いくつもの話を入稿時から時間をかけて検討し、落す決断を下す。そして校了時に収録しないと決断をしたのが、「終わりに」の前の最終話だった「不安定たれ」なのです。

 この“幻の原稿”をダ・ヴィンチニュース読者だけに、公開してくださることになりました。

不安定たれ

もしキミが『芸人』や『絵本作家』をやっている僕のように、
「お客さんから応援してもらうことで生きている人間」ならば、
この話を覚えておいて欲しい。

2019年の春。
TOYATAさんから『新型クラウン』のラッピングカーの
デザインと広告戦略のお仕事のオファーをいただいた。
いわゆる「大きな仕事」というやつだね。
デザインしたラッピングカーは表参道ヒルズの前にデーンと
飾られるというので、表参道ヒルズとギャップのあるデザインの方が
面白そう。
というわけで、アイデア自体は新しくも何ともないし、
最終的には別案を採用したんだけど、
『錆びた車』をデザインしてみることにした。
(※もちろん、『錆び』のデザインにはキチンとコンセプトがあるんだけど、ここでは関係のない話なので割愛するね)

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錆びた車をデザインするにあたって、
『鉄』と『錆び』ついて少し勉強したんだけど、これがなかなか面白い。
鉄は、鉄鉱石という「錆の塊」から、
人工的に酸素を取り除いて作ったものなんだって。
僕らは『錆び』を「劣化」のように捉えているけど、
厳密に言うと「酸化」で、あれが本来の姿だ。

「物体はより安定した姿に変化する」が世の中のルールで、
それでいうと『鉄』という「不安定な姿」から、
『錆び』という「安定した姿」へと変化しているというわけだ。
この理屈で言うと、ずっと変わらない『庭園』なんかもそうだよね。
そもそも『庭園』というのは、手間をかけ続けた「不安定な姿で」、
手間を省いた途端に「『安定』した姿(=森)」に向かってしまう。
『鉄』や『庭園』が存在できている理由は、その「不安定な姿」に
ニーズがあるからで、このことは、僕らのように
「お客さんに応援してもらうことで生きている人間」にも同じことが言える。

いいかい?
ほっといても、人は安定に向かう。
そんな中、僕らのような人間が生き残るには、鉄や庭園のように、
手間をかけて、『ニーズがある不安定な姿』になるしかないだろう?

「アイツ、間違ってるけど、あれはあれで、いいよね」

と言われるような。
TOYOTAさんの案件しかり、今、僕の元には
「大きな仕事」がポンポン入ってきている。
数年前に植えた苗が成長して、今は『刈り取り時期』に入っているのだと思う。
成功しちゃったんだと思う。

こうなったら終わりだね。
刈り取ってしまえば、ハゲた土地が残るだけなので、全て刈り取る前に
僕は(25歳から耕し続けた)この土地を離れなきゃいけない。
それなりの成功をおさめた『テレビ村』から外に出た
13年前のようなアクションを、もう一度やらなきゃいけない。
今のお仕事はスタッフさんに任せて、『芸人』と『絵本作家』を辞めて、
次は『コインランドリーの店主』でも目指そうかなぁと思っている。

「おいおい、また捨てんのかよ! バカなの?」と怒られそうですが、
僕は起業家ではなくて、表現者。
皆が安定に向かう中、表現者も一緒に安定に向かってしまったら、
そこには何もない。
不安定であり続けるから「応援シロ」があるわけだ。
なので、勝っちゃった分野はとっとと辞めて、また間違いたいと思う。

間違い続けなきゃいけないんだよ、僕らは。
その上で、いかに愛されるか? という勝負だ。
ここに人生を懸けるのは怖くて仕方がない。
まったくもって不安定だ。
だから面白い。
ところでキミはどうする?

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