棚橋弘至「熱い言葉には熱い応援が返ってくる。それをプロレスラーとしてのエネルギーに変える。」【プロレス×言葉(前編)】

インタビューロングバージョン

2019/8/8

「愛してま~す!」というリング上の決め台詞とは思えないようなラブコールで会場を沸かせ、バックステージでは、次の試合が待ち遠しくなる引きの強いコメントを残す。また、ブログやツイッター、連載コラムなどでは、豊かな表現力でプロレスと“棚橋弘至”という存在を絶え間なくアピールしつづけてきた“プロレス界一たくさんの文章を書く男”。彼は言葉をどう操っているのか――ダ・ヴィンチからの質問状に、大ボリュームの文章で回答!

本誌9月号では掲載できなかった質問も含んだメールインタビュー完全版(前編)

心から発していない言葉は、すぐに見透かされる
だから、心のありのままを発している

Q1)『カウント2・9から立ち上がれ 逆境からの「復活力」』で、「レスラー像は言葉の積み重ねで作られる」と書いていらしたのが印象的でした。プロレスファン以外の読者に向けて、さらに詳しく、このことを説明いただけますでしょうか。

棚橋 プロレスラーはリングで闘う職業です。リング上の姿で、応援されたり、ブーイングが起こったりします。それは、闘いには「人柄」が滲み出てくるものだからです。しかし、それはあくまで人としての輪郭がぼんやり分かるくらい。

 プロレスラーがどんな人物なのか? ぼんやりと浮かび上がった輪郭の中を埋めていくのが、試合後のインタビューや雑誌の記事などになります。そこで、大切になってくるのが「言葉」です。言葉によってレスラーの人となりが浮かび上がってくるからです。何を考え、何のために、どうして闘うのか? ファンの皆さんは、プロレスラーが発信する少ない言葉を材料として、そのレスラーを見極めていきます。

 つまり「言葉」とは「人」そのものなのです。これからも、熱量のある言葉を使ってプロレス界を盛り上げていきます! 

Q2)中邑真輔選手への「どうだ? うっとうしいだろ!?」という発言が好意的に受け取られたのは「『他者から自分がどう見られているか』を瞬時にとらえ、最適な言葉を発することができたから」と書かれていました。自分を客観視することは、レスラーが言葉を発するうえで重要なのでしょうか。

棚橋 リング上でのマイクアピールはとても難しいです。ファンの皆さんがどういう「言葉」を期待しているのかを瞬時に判断する力が求められます。期待している言葉を言うのか、また、その逆を行くのか? これは経験値を積み上げていくしか方法はありません。「あのとき、ああ言えば良かったのに」と反省を繰り返して身につけていくものだと思っています。 

 プロレスの歴史の中で、みんながパッと思い出せるような印象的なマイクアピールをプロレスラーが残すためには、筋肉だけでなく、言葉の瞬発力が必要です。

 中邑と対峙したときの「どうだ? うっとうしいだろ!?」は「何しに来たんだよ」「帰れよ」という求めざる者が登場した空気感を察した僕の瞬発力でした。会場から笑いや「うぉー」という反応が聞こえたということは……僕は約1万人に「うっとうしい」と思われていたことを証明してしまったわけですけど……。

Q3)今の「棚橋弘至」というプロレスラーを客観的にとらえて言葉で表すと、どうなりますか。

棚橋 ん~。難しい質問ですね。プロレスラーは主観で生きるべきなので。カッコよく言うと「孤高の人」ですかね(笑)。既存の価値観を壊そうとする人間は孤立します。なぜなら、従来のままのほうが居心地が良いからです。

 僕は、他の選手がやらないことに積極的に挑戦してきました。当時、理解してもらうことは難しかったのかもしれません。だから、かなり孤立していたと思います。ブーイングを受ける選手と試合をする対戦相手の選手も大変だったんじゃないかと、今だから冷静にそう考えられます。

 武藤さんがブーイングを受けている僕に言った言葉がとても印象的でした。

「おい、棚橋、プロレスを壊すなよ」

 プロレスには相対的にベビーフェイスとヒールが存在します。簡単に言うと「いいものと悪者」ですね。僕は立場的に「いいもの」でありながらブーイングをもらっていたのです。これでは、両者の存在意味が逆転するというか、どちらも光らない試合になってしまいます。

 それならばと、僕はチャラ男に変化しました。ブーイングを受けに行ったのです。僕がブーイングを受ければ、対戦相手に応援がいく。特殊な状況ではありましたが、結果、盛り上がればいいでしょ?と開き直っていた部分もありました(笑)。

「孤高の人」と言いましたが、仲間、スタッフ、ファンの皆さんに、支えられていました。決して孤独ではなかったです。なんと言いますか? 突然変異種のプロレスラーですかね? 要は「100年に一人の逸材」ということで、よろしいでしょうか?(笑)

Q4)棚橋さんの発する言葉は、いつもキャッチ―で洗練されていますが、突然「治らないものは治しようがない」など生々しい言葉が投入され、ドキリとさせられます。その緩急のようなものは、意識的にされているのでしょうか。

棚橋 リング上で闘う姿と同様に、心から発していない言葉は、ファンの皆さんにすぐに見透かされてしまいます。だから、心のありのままを発しているだけです。

「棚橋のプロレスに悲壮感はいらない」と常々思っていますが、レスラーである前に人間です。たまに、レスラーの鎧が剥がれて、棚橋弘至の弱い部分が出てしまうのは、未熟なところです。決して意識的にやっているわけではありません。いつも、自然体です。

 リング上で見せたいのは、鍛え上げた肉体、華麗な技も、もちろんとても大切なのですが、一番大切なのは「感情」です。喜び、怒り、哀しみ、楽しさ。その感情を一つ一つの動きに乗せていきます。これが、プロレスというジャンルの一番の魅力だと思うからです。

文章を書くときに必要なのは、
「テーマを絞る」ことと「楽しんでほしい」というサービス精神

Q5)棚橋さんの試合中の姿を拝見していると「字幕がつけられる」と思うほどに、言葉が聞こえてきます。実際に言葉を発していないのに、観客に言葉を感じさせることができるのはなぜだと思われますか。

棚橋 そう言っていただけるのは、僕の目標に近づくことができてきているからかもしれません。闘いから音楽が聴こえてくるのが僕の理想なんです。

 ロックなのか? ポップスなのか? 演歌なのか? 特撮のヒーローが反撃に移るとき、バックに勇壮なメロディーや主題歌が流れたりします。観ている側は、とてもテンションが上がり、勝利を確信します。そんな信頼感を身に付けたいと思っています。

 もし言葉を感じてくれるとしたら、そんな僕の思いとリンクしているからかもしれません。

Q6)Twitter、Instagram、ブログ、そして新日本プロレス・スマホサイトでの日記とさまざまな媒体で発信していらっしゃいますが、どのようなことを意識して書き分けているかを教えてください。

棚橋 様々なSNSがある現在。その役割はそれぞれ違います。数式? 大なり小なりで表すと、こうなります→【Twitter≒Instagram>ブログ>新日本プロレス・スマホサイト】。

 これは、見てくれている人数を表したものです。TwitterやInstagramはタイムラインやハッシュタグがあるので不特定多数の方の目に触れる可能性があります。なので、リング上でのことなどはあまり書きません。なぜなら、そこまで深い情報を欲していないからです。

 次にブログ。閲覧の数はTwitter、Instagramに比べると減ります。なぜなら、自ら情報を取りに行かないといけないからです。一手間かけて来てくれた方のために、ここでは、もう少しだけ深めの情報や心情を書きます。

 そして、最後に新日本プロレス・スマホサイト。こちらは有料になるので、さらに数は少なくなりますが、より好きな方が見ています。なので、より詳しく心情を吐き出します。
熱心に見てくれる方に一番喜んでもらえることが、理想です。熱い言葉には熱い応援が返ってきます。それを、いつも嬉しい気持ちで見て、プロレスラーとしてのエネルギーに変えています。

Q7)「コメントを出す時」には“瞬発力”が必要だ、と書かれていましたが、「文章を書く時」にはどんな力が必要だと思われますか。

棚橋 文章を書くときに必要なのは「テーマを絞る」ことです。プロレスの闘い方の定石に、弱点を攻める一点攻めがありますが、これと同様、テーマを絞ったほうが文章の内容が深くなると思うからです。

 文章を読むという行為には、時間とエネルギーが必要になります。せっかく読んでいただけるのなら、より深く掘り下げていく内容のほうが、読了したときの満足度が高い。

「楽しんでほしい」というサービス精神が必要ではないかと考えます。

後編(8/10に公開)につづく