最初は、僕たちの自己満足から始まった! 芸人トッカグンによる新たな「防災マニュアル」ができるまで

エンタメ

2019/11/30

 元自衛隊芸人として活動しているコンビ・トッカグン(小野寺耕平・佐藤昌宏)。2014年にYouTubeで開設されたチャンネル『トッカグンの東京サバイバル』では、自衛隊入隊当時の体験談やサバイバル術、防災食や各国軍隊のレーション(戦闘糧食)の試食など、自衛隊関連の動画を配信しており、登録者数は16万人を超える。

『自衛隊芸人トッカグンの日用品で簡単にできる!! 超自衛隊式防災サバイバルBOOK』(トッカグン/双葉社)

 そんな彼らが自衛隊時代に身につけた知識や経験をもとに、非常時に備えたサバイバルマニュアル『自衛隊芸人トッカグンの日用品で簡単にできる!! 超自衛隊式防災サバイバルBOOK』(双葉社)を発売。

 自衛隊芸人として考える、本当のサバイバル術とは。また、彼らが「元自衛隊」として情報発信を続ける情熱の源にあるものは何なのか。お二人に伺った。

大砲を磨きながら「芸能界に入ってみたいな」って

――お二人は高校の同級生なんですよね。

小野寺耕平(以下、小野寺):そうですね。ただ、クラスは違って、自衛隊に入ったら偶然部屋が一緒で、部隊も同じだったんです。特科群という、大砲を打つ部隊です。

――その後、どのような経緯で自衛隊を辞め、芸人になろうと思ったのですか。

小野寺:入隊してから1年くらいかな。18歳でこの世界に入って、そのまま定年までずっといるべきかどうか、次第に考え始めるようになったんです。

佐藤昌宏(以下、佐藤):大砲磨きながら?

小野寺:大砲磨きながら。ちょうどそのタイミングで、上官がラジオを流していたりするんですよ。芸能人のラジオ番組を聴きながら大砲を磨いているうちに、もっと広い世界を見てみたいな、って。とにかく田舎者で若かったから、東京への憧れも強かったんですよね。

――そもそも自衛隊に残り続ける人の方が少ない、というお話をYouTubeの動画でもされていましたね。

佐藤:そうですね。そもそも自衛隊に入るタイミングで、任期制や定年制で試験が違ったりするんです。任期は2年単位で更新されるんですけど、続けていても4年で試験に受かって階級が上がらないと辞めざるを得ない。10人に1人しか残らないような厳しい世界なんです。

――佐藤さんは養成所には行っていないんですよね。

佐藤:僕も小野寺と自衛隊を辞めるタイミングは一緒だったけど、一旦仙台に残って仕事をしていました。団体生活から離れて、自由気ままなひとり暮らしの生活がしてみたくて。

小野寺:本当は彼も辞める前は上京するって言ってたんですけどね。直前になってビビったのかわからないけど、仙台に残っちゃって。僕はひとりで吉本興業の養成所に入って、卒業したタイミングで彼を誘いました。

――そのときの返事は迷いました?

佐藤:いやもう、二つ返事で。東京はテレビで見る憧れの世界でしたから。

小野寺:自衛隊で共同部屋だったときに、彼が私物でお笑いの本とかを置いていたんですよ。だからきっと芸人に興味あるんだろうなと思って。

――お笑いの本って、具体的にどのような?

小野寺:本っていうか、台本だったよね?

佐藤:ラーメンズさんのコントの台本ですね。仙台のヴィレッジヴァンガードで買ったやつ。とにかく当時大好きだったんですよ。

――今とは芸風もだいぶ違うような気もしますが。

佐藤:服装からして、迷彩ですしね。

小野寺:でも、コンビ組んだばかりの頃は、自衛隊あるある系のネタと、オシャレなコントと、半々くらいでやってたんですよ。

佐藤:尖ってたな、あのときの俺たち。

サバイバル術を考えるのは、とにかく自己満足

――でも今は自衛隊のネタに特化していますね。

小野寺:それはYouTubeが大きいですね。2014年に開設したんですけど、そこで自衛隊のみんなが知らないような情報やサバイバル術の発信を始めたんですね。それはたとえばお笑いライブだったらできないような、真面目な情報を伝えるための場所です。

 お笑いライブだと、僕たちの情報をそのまま伝えようとすると講演会みたいになって笑えなくなってしまう。だったらYouTube使ってみようよ、と。

――今登録者数16万人というすごい数ですけど、始めた当初の手応えはどうでした。

佐藤:じわじわ、という感じですかね。

小野寺:始めて3年くらいは全く増えなくて、完全に僕たちの自己満足として楽しんでいました。サバイバル術って、理科とか科学のような要素がたくさんあるんですよ。考えていると中学生の頃に戻ったような気持ちになる。

佐藤:自分たちで中二病だって言いながら色々試してますからね。それが楽しい。

――人気に火がついたきっかけは?

小野寺:2018年の9月の北海道胆振東部地震のときですよね。ちょうどその1ヶ月くらい前に、インスタント麺を袋のまま水で作る方法を動画でアップしていたんです。そしたら震災の直後に一気に再生数が伸び始めた。

 防災意識の高まった人たちが、それを入り口に「こんなチャンネルあったんだ」って知ってくれて、そこから過去の動画も遡って見てくれるようになったんですよね。

とにかく最優先は「水」

――今回の本はかなり実用的な方法がたくさん載っていますが、これは自衛隊のときの知識や技術がどれほど活かされているものなのですか。

小野寺:フリーザーバッグの使用法とか、五点着地とか、ヘリコプターの誘導の仕方とか、自衛隊の知識や技術をそのまま載せているものもありますし、あとは僕が防災士の資格を活かして考えたアイデアを2人でブラッシュアップしたものもあります。

――フリーザーバッグって、本当に自衛隊の人も使っているんですね。

小野寺:めちゃくちゃ使いますよ。自衛隊内の売店ではフリーザーバッグが売っているんですけど、演習のたびにそこで下着とか戦闘服を入れるために買わないといけない。

佐藤:買わざるを得ないんです。防水処置として必要なので。

小野寺:ちゃんと空気を抜いて圧縮できていないと怒られるしね。

佐藤:たとえば山で着た服を入れてしまえば、臭くならない。

――靴紐のろ過装置とかは。

小野寺:あれはもともと布でろ過する方法があるんです。でも、たとえばTシャツよりも長くて、身近な存在でもある靴紐が使えるなら、そっちの方が絶対にいいよねということで考案しました。

佐藤:あれは、石とか砂を取ることができる方法です。菌までは取れません。

――最後の最後の手段というか。

小野寺:泥水の場合はそうですね。ただ、人間って2、3週間は何も食べなくても生きてはいけるんですよ。そして救助が2、3週間来ないということはまずありません。そうなると、まず最優先で確保すべきなのは水であって、食べ物はあまり優先順位が高くありません。

 水も、市販で「ろ過ストロー」などが2000円程度で売っているので、それひとつあれば煮沸していないお風呂に溜めた水や、なんだったら水溜まりの水まで、そのまま飲めてしまいます。わざわざスーパーで水を大量に買いだめる必要もない。

佐藤:そもそも水を大量に持ち運びするのは重たすぎますしね。

小野寺:たとえば台風が来る前も、「ろ過ストロー」をひとつ用意して、あとはお風呂を掃除してお湯を溜めておくだけで、スーパーで買うよりもはるかに多い量の水が10分程度で確保できてしまう。そっちの方が合理的ですよね。必ずしもみんながやっている防災準備が正しいわけではないんです。

実際に書籍内で紹介されていた、シーチキンの缶で即席ランプを作る方法を実践! 佐藤「シーチキンが温度を吸収するおかげで、缶の周りが熱くならないんですよ。照明のようなイメージですね。これだけで40分くらいもつし、燃やしたあとはノンオイルのシーチキンが食べられます」

今も自衛隊の一部のような心持ち

――お二人は自衛隊芸人として活動されているわけですが、自衛隊の活動そのものに対して一切未練はないんですか?

小野寺:いや、僕たちは一応「予備自衛官」になっているので、今でも招集されたら助けに行く立場なんですよ。そういう意味では半分現役という表現の方が正しいかもしれない。自衛隊の中でも、助けに行く専門の人もいれば、物資を届ける専門の人もいるし、広報を専門にしている人もいます。すべて合わせて自衛隊なんです。僕たちは今、広報のような感覚で活動していますね。

――そういう意味では、芸人は活動の幅が広いので色々できて良いですね。今回の本もたしかに自衛隊のメソッドを広めるという意味合いもあると思うのですが、防災意識が高まる中、どういう層に届いてほしいと思っていますか。

佐藤:やっぱり、経験の少ない若い世代に届いてほしいとは思いますね。不安も大きいだろうし。そこから代々伝えていってほしい。

小野寺:伝えるときは新しい本でね。あとは、何から準備したらいいかわからない人にもお勧めしたいです。震災前にできる準備や用意するもの、被災したあとにすべきこと、そういう段階を踏んで網羅した一冊になっているので。

――たしかに、防災意識は高まっているけど、なかなか準備まではできていない人が多いと思います。そういう点では、トッカグンの動画の視聴者はかなり意識が高いかもしれませんね。

佐藤:そうですね。少なくとも16万人は全員「ろ過ストロー」を持ってると思います。

小野寺:うん。登録者の家族と親戚も合わせて3000万人くらいは持ってるんじゃないかな……。

最後のオマケに、意識がない人の救助方法もその場で実践!

小野寺「まず転がしてうつ伏せにして」

小野寺「下に手を入れて上体を持ち上げます」

小野寺「ここがちょっと難しいんですよね。立膝をついて、そのまま相手の正面にまわり、腰のベルトあたりをつかみます」

小野寺「持ち上げたら、相手の脇の下に頭を入れて、手をつかみ……」

小野寺「持ち上げられたら成功!」 佐藤「いざというときに使えるように、お友達や家族と練習しておくといいかもしれないですね」

取材・文=園田もなか 撮影=海山基明