東京・台北の2拠点生活――立体造形家&雑貨コレクターの森井ユカさんが、仕事場を台北に移して手に入れたものとは?(前編)

ビジネス

2020/3/25

森井ユカ

『あたしンち』や『ポケモン』などのマンガキャラクターの立体化や粘土遊びセット「ねんDo!」や無限ネコ製造機「ネコカップ」等の企画、スーパーマーケットマニアとして、また雑貨コレクターとしての著書も多い森井ユカさんが、麻布十番にあった仕事場の移転先を考えたときに頭に浮かんだのは、なんと台北! LCCの就航やリーズナブルな物件価格、大好きな台湾グルメなどに背中を押されて実現させた、東京と台北、半々の暮らし。その1年の様子のまとめた『月イチ台北どローカル日記』(集英社)についてうかがった。

もりい・ゆか●東京都生まれ。桑沢デザイン研究所卒業、東京造形大学大学院修了。立体造形家にして雑貨コレクター。YUKA DESIGN代表。粘土を使ったキャラクターデザイン、粘土遊びセット「ねんDo!」や無限ネコ製造機「ネコカップ」等を企画。著書に「スーパーマーケットマニア」シリーズ、『10日暮らし、特濃シンガポール』『旅と雑貨とデザインと』『IKEAマニアック』『旅のアイデアノート』など。2018年10月、台北に仕事場を開設。@yukayuka 

 

20年以上前に、香港に部屋を借りていました

──『月イチ台北どローカル日記』、すごく面白かったです。私も台北は大好きなのですが、最近は行ってなくて。拝読して「行きたい!」気持ちが一気に高まりました。「海外に仕事場を持つ」ってけっこう英断だと思うのですが、以前も香港に部屋を借りていたことがあったそうですね。そのときのことを教えていただけますか?

森井 1995~1997年、香港の中国返還(1997年7月1日)をまたいで、2年ちょっと借りていたんです。もう20年以上前になりますね。当時は香港の何もかもが大好きでした。部屋を借りることにした一番の理由は、ある香港スターの追っかけをしていて、香港に行く頻度が尋常じゃなくなったから(笑)。映画の公開日だけ行くとか、テレビの収録だけ見に行くとか、日帰りは難しいので翌日帰ったり……。初めは2~3カ月に1回だったのですが、その間隔がどんどん短くなって、そうなるとホテルに泊まるよりも部屋を借りたほうが安いんじゃないかということになり、追っかけ仲間の漫画家さんと二人で借りました。電話とfaxを引いて、仕事道具を置いて、そこで日本と変わりなく仕事ができたんです。短いときは3日、長いときは2週間くらい滞在していました。

──今のようにLCC(格安航空会社)もなかった時代にすごい行動力ですね。

森井 交通費については、香港で日本往復の航空券を買うなど、少しでも安くすませる工夫をしていました。それでも今とは比べ物にならないくらい高かったですけど。拠点ができて本当は毎月行きたかったのですが、実際に行ったのは2~3カ月に1回くらい。香港が返還前の激動期に入って、お目当てのスターの芸能活動も抑えめになってしまったんです。それは残念でしたが、日本にいるときでも“香港に自分の部屋がある”――そう思えることが嬉しかったですね。

──その楽しさが、今回、台北に仕事場を作ろう!という気持ちに拍車をかけたわけですね。

森井 そうですね。その頃から、またどこか遠くに部屋を借りたい。そんな気持ちがありました。

──そのときは麻布十番に自宅とお仕事場があって、歩いていける距離だったんですね。お仕事場が契約更新の時期になったこともあり、環境を変えたくなったと書かれていましたが。

森井 はい。8年もそこにいたので、そんな気持ちがムズムズと(笑)。でも、麻布十番で今の仕事場以上の好条件の物件(駅から徒歩2分。ワンフロアの83平米で家賃30万円)はなくて。開業してからずっと、自宅の中に事務所があるか、自宅の至近距離(徒歩5~6分程度)に事務所があるという環境が続いていたので、なにか乗り物に乗って仕事場に行くことになるなら、それが電車であろうと飛行機であろうと変わらないのではないかと思ったんです。

──それが、これまで各国を旅してきた森井さんらしい発想ですよね。

森井 私にとっては1時間かけて通勤してる人のほうがすごいなと。しかも、それを毎日!台北に仕事場を移転するといっても、“意を決して”という感じではなくて、ちょっと借りてみてうまくいかなかったら、また日本に戻ればいい、そんな軽い気持ちでした。1年ちょっと経ちましたが、今のところ楽しくやってますね。

──これまで、海外にいろいろ行かれたなかで、台北を選ばれた理由はなんですか?

森井  ぼんやり台北がいいかなと。検討しようと思って検討したわけではなく、なんとなくなんです。北海道とか、大阪とか、九州とか、シンガポールとか、もう一度、香港とかも考えたのですが、私の中でいろんな好条件が重なったのが台北でした。

──台北には、これまでどのくらい行かれていたんですか?

森井 年に5回は行ってました。コンスタントに2カ月ごととかではなく、ダダダッと続けて行くこともあれば、ちょっと空くこともあって。むらはあったんですが、それくらいは行ってましたね。

──社員の野島さん(デザイナー)はちょっと驚かれたようですね。

森井 相談するというよりも「私、決めちゃったんで」という感じで話したんです。彼も台北にはよく行っていたし、食べ物も好きだし、旅行も好きだし、まあ大丈夫だろうと(笑)。私が先走って燃え上がることが多いので、野島は「冷静にちょっと考えてみてください」というスタンスで接してくれるんです。最終的にはノリを合わせてくれるので、そういう役回りでいてくれるのはありがたいですね。

──麻布十番の事務所を出るのが2018年10月で、台北の部屋が決まったのが同年9月。とってもスリリングなスケジュールだと思ったのですが。

森井 私も野島も事務所にあったものをそのまま台北に持っていこうという発想はなくて、 まずは、荷物を整理して、お互いの自宅に入るくらいまで減らすことに心血を注いだという感じでした。なので、万が一、台湾の物件が決まらなくても東京で仕事ができる状況ではあったんです。

──そうだったんですね。でも、森井さんは雑貨コレクターのお仕事もされていて、ほぼご自身のものということだったので、それを減らすのはとてもたいへんだったのでは?

森井 はい。自宅もそれほど広くはないので、結局、雑貨類は入り切らなくて、今もトランクルームを借りてまして。もろもろの荷物については、講師をしている学校でチャリティフリマがあったので、そこで大放出したり、友人・知人たちにSNSで呼びかけてもらってもらったり。棚類などもあったんですが、それはパラダイス山元さんがトラックで来て、ほぼ引き取ってくださって。以前、入谷の一軒家に自宅と事務所があったとき、場所があるのをいいことに荷物を増やし放題にしていて、そこからの引っ越しが思い出したくないくらいにたいへんだったんです。野島がそのことをよく覚えていて、半年くらいかけて着実に引っ越しの準備をしようと段取ってくれて。おかげで修羅場を見ずにすみました。

──森井さんが仕事道具として、これだけは絶対必要というものは?

森井 造形の仕事で必要なのは、粘土とオーブンレンジ。書きものの仕事はノートパソコンがあれば、大丈夫です。オーブンレンジは手頃なものを現地調達しようと思っていたのですが、台湾にはオーブンレンジというものがほぼなかった! あれは日本固有のものだったんです。電器屋さんをいろいろ回って、見つけたのは日本製、それも見本だったので、1カ月かけて取り寄せしてもらいました。オーブンだけでも仕事はできるんですが、借りた物件にコンロがなかったので、レンジ機能は欲しかったんです。半年ぐらいかけて、徐々に身の回りのものを揃えて、今は思いついたときに身一つで移動できる。ベストな状態ですね。

不動産情報で間取り図を載せているのは、日本とフィンランドだけ

──台湾の物件探しは、「591」という不動産情報のサイトを利用されたそうですね。私もこのサイトを見てみたのですが、驚いたのは間取りが載ってないこと。 写真はたくさんアップされているのですが、間取りがないので部屋全体の構成がつかみにくかったんです。

森井 私も物件情報を見るのが大好きで、世界の住宅広告の本(『ヨーロッパの住宅広告』)を作ったことがあるんです。そのときに20カ国くらい調べたんですが、間取りを載せてるのは日本とフィンランドだけ。他の国は間取り図を載せるという概念がないので、写真を見て想像を働かせるしかない(笑)。

──だから、森井さんの部屋の大家さんも間取り図を持ってなかったんですね。

森井 そうなんです。だから、台湾在住の友人が私に代わって下見してくれたときに間取り図を走り書きしてくれて。それがすごく役に立ちました。日本人にとっては100枚の写真よりも間取りのほうが大事ですよね。でも、台湾の人にとっては「そんなに知りたいの?」っていう感じでした。

──そんなところにもお国柄が出ますね。お部屋は80平米くらいあるんですよね。(間取りを見て)、仕事場のスペースに、台所、寝室とシャワールームといった感じですか?

森井 そうですね。家具をたくさんは置いてないのでちょっとガランとした感じです。寝室が2つあればよかったんですが、1つなので、私と野島が二人とも台北にいるときはどちらかが近隣のホテルに泊まっています。

食べ物への執着は年々あがっています(笑)

──この物件に決めるときに重要視されたのは、まず場所。でも、仕事上での利便性というより、ご自身の好きな食べ物のお店から近いかどうかだと。森井さんの生活の中で「食」の優先順位はとても高いのだなと思いました。

森井 なんか年々そうなっていく感じがします。この本も、イメージ的にはデザインや雑貨の話と、食べ物の話と半々ぐらいかなって思ってたんですが、8割方食べ物の話になっていて。年齢が上がっていくと、食べ物しか信じられなくなっていくんでしょうか(笑)。前はここまで執着がなかったんですよ。香港に行ったときはここまでじゃなかった。まあ、台北の食べ物は本当に美味しいのでそうならざるを得ないのかも。

──森井さんが「台北滞在中、食べないと落ち着かないもの」として3つあげておられて、それがオビ裏に載っていますね。どんな経緯でお好きになったのか、それぞれ教えていただけますか?

森井 番茄牛肉麺(トマト牛肉麺)は、初めに食べたのがどこだったか覚えてないんです。牛肉麺自体は台湾でとてもメジャーで、お店によってトマトのあるなしがあって。私はもともとトマトが大好きで、誰かと一緒に牛肉麺を食べに行ったとき、「じゃあ、私はトマト入りで」となって、それがとても美味しかったんです。3~4回続けて食べてるうちにズブズブと徐々にハマって、これは極めていこうと。

──カバー裏にある「台北どローカルMAP」にも、トマト牛肉麺が食べられるお店が何軒も載っていて、よほどお好きなんだと思いました。この芋団子も美味しそうですね。

森井 夜市の屋台で、タロイモを練った団子の揚げたてを売っているんです。二択で、一つは丸めて揚げただけのもの。写真はもう一つのほう(蛋黄芋餅)で、団子の中に卵の黄身と肉鬆(ロウソン)という肉でんぶが入っていて、全体の味付けとしては甘じょっぱい。甘さとしょっぱさのバランスが絶妙で、本当に美味しいんです。夜市に行くたびに必ず買ってます。つくり方は沖縄のサーターアンダギーに似ていますが、食感はもっと“しっとりもっちり”ですね。

──このモツの薬膳スープはどんな味なんでしょう。

森井 四つの神の湯(四神湯)と書いて「スーシェンタン」と読むんですが、日本でいうところの豚汁のように、家庭でも作ることができるものなんです。「○○の四神湯」というふうに、家庭やお店によって味が変わる。一軒すごく気に入ったところがあって、その近くに部屋を借りたいと思って探していたら、今の部屋が見つかって。四神湯はどれも豚の小腸を使っていて見かけは少しグロいのですが、その店の味はなんとも慈味深いというか、たとえば散々飲んだ最後に食べるとスッキリするような……。味は濃くないんですけど、モツのお出汁がじんわりじんわりと沁みてくる。漢方の煮込みなので、そこはかとない香りもすごく独特、日本ではちょっと食べたことがないような美味しさです。

──聞いているだけで、お腹が鳴りそうです(笑)。後編では、台北グルメの続きと森井さんが惚れ込んだ台湾の出版物の話をうかがいます。

 

 
 
 
 

『月イチ台北どローカル日記』
森井ユカ 集英社 1300円(税別)

「電車を使うなら、いっそ飛行機に乗って毎月半々で海外の仕事場に通うのはどうだろう!?」――そんなひらめきから始まった台北と東京のデュアルライフ(二拠点生活)。物件探し、大家さんとのやりとり、生活者として台北に滞在して見えてきたさまざまなこと。日常を彩る「食」と「カルチャー」の写真&役立つ生活情報も満載! 旅行時に携えたら、きっと違った台北が体験できる。

 

後編はこちら

取材・文:konami 撮影:内海裕之