「この話いつまで続くんだろう」と考えながら聞くと話が長くなる!? 精神科医・水島広子先生に聞く、疲れずに人の話を「聴く技術」

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更新日:2021/6/15

堂々巡りの愚痴を聞かされたら? 攻撃されたときはどうしたらいい?

――堂々巡りの愚痴や悩み相談を何度もされてイラっとする、という場合はどうしたら……?

水島 これはね、私が精神科医になってわりとすぐ気づいたことなんですけど、「この話いつまで続くんだろう」って考えながら聞いていると、絶対に話が長くなるんです。

――え!?

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水島 そう考えてしまう時点で、相手の話に100%集中していないということ。すると、適当な相槌を打ったりアドバイスをしたりしてしまうので、相手が聞いてもらえていないことを察知して不安になるんです。で、わかってもらえないのは、真剣に聞いてもらえないのは、自分の説明が不十分なせいじゃないかと思って、ますますしゃべってしまう。できるだけ短時間で済ませたいなら、腹をくくって聞くことに専念したほうがいいと思います。

――話している最中に、意見を求められたときはどうすればいいんでしょう?

水島 先ほども申し上げましたように、ほとんどの人はアドバイスなんて求めていないんです。恋愛相談で、アドバイスが採用されたことなんてほとんどないでしょう?(笑)「どう思う?」と聞くときはたいてい、「私の話はつまらなかっただろうか」などと不安に感じているとき。ですから、あたたかく穏やかに聴いていてあげれば、そもそも意見を求められることはあまりないと思います。

――なるほど……。

水島 私のように医師として治療をする立場なら、もちろん意見を述べることは必要ですが、「どうしたらいいと思うか」と聞かれるまでは雑念を脇において集中していますし、答えるときも自分のデータベースではなく、専門知識をもとに考えます。専門家でない人がそれをするのは難しいでしょうから、相手が満足するまでただ聴いてあげるというのがいちばんだと思います。

――「どう思う?」と聞かれたら、「どうしたい?」と返して話をうながしてあげるほうがいいんでしょうか。

水島 それもひとつの手だと思います。大事なのは、相手の話を決して逆流させないこと。話の流れにそのまま乗ってあげるのが大事です。

――上司や親といった逆らえない立場の人から、攻撃的なことを言われたときはどうしたらいいでしょう。「そういうところがだめだ」とか「何を考えているんだ」とか。相手の話に集中するほど、苦しくなってしまいそうです。

水島 「相手が怒っている=相手が困って、助けを求めている」と切り替えるスイッチを頭のなかに入れておくとラクですよ。そうすると、怒りが激しければ激しいほど「うわあ、この人相当困ってるんだな」と思えて傷つかずに済みますし、怒らせておいたら何もしなくても相手の気が済む、ということもあります。相手の怒りは、相手の悲鳴。我が事としてとらえないのがいちばんです。たとえ原因が自分だとしても、感情は相手の問題なので「まあお気の毒に」って受け流せばいいんです。

――我が事のように考えるのが寄り添っていることのように感じてしまいがちですけど、そうすると相手の感情に巻き込まれてしまいますもんね。

水島 せっかく頼ってくれたのだから助けになることを言ってあげなきゃ、とか、相手のために自分の悪いところを直さなきゃ、とか、そんなふうに考えた瞬間、実は相手から気が散っているんです。いい人だと思われたい、という気持ちが先行して、けっきょく相手の話に100%向きあえてはいない。雑念を脇におき、我が事として考えないというのが、けっきょくのところいちばん相手に誠実な姿勢なんだと思います。

――「ぐちぐち言うほうが悪いのに、どうして私が相手にあわせて態度を変えなきゃいけないんだ」みたいに理不尽を感じる人もいると思うんですが。

水島 相手のため、と思わないことです(笑)。自分がいやな時間を過ごさないために気持ちのありようを変えようとしているだけで、相手に温情を与えようというわけではありません。たとえば……そうですね。以前、地方講演の仕事が入ったとき、先方のミスで予定していた飛行機に乗れず、東京での仕事をキャンセルせざるをえなくなったことがあるんです。頭にきましたし、ずっとイライラしていたんですけど、ふと気づいたんです。イライラしていたところで飛行機には乗れるわけではないし、スケジュールが元通りになるわけでもない。だったら、せっかくいつもよりいいホテルをとってもらえたんだし、満喫していい時間を過ごそう、って。そうしたらすごくラクになりましたし、これが本当の意味での忍耐なんだなとも気づけました。

――忍耐、ですか?

水島 自分を苦しめて耐える忍耐は、ただつらいだけでしょう。そうではなく、ネガティブな感情をあえて手放し、より質の高い時間を過ごすんです。ミスした相手は、そのことを教えてくれた先生だと思うことにしました。上司にも報告しないだろうしお詫びもないだろうなと思っていたら案の定でしたけど、済んでしまったことはしょうがないとわりきったら、気にならなくなりましたね(笑)。

――正義感から怒り続けてしまう人も、いるように思います。注意しないと、相手のためにならない!と。

水島 上司に言いつけてやろうと(笑)。その気持ちもわからないでもないですが……正義というのは人によってかなり違いますから。「親を大事にするべき」という価値観ひとつとっても、円満な家庭に育った人と虐待を受けて育った人とでは意味が変わってくる。何についてどう感じるかというのは本人にしかわからないこと――それを私は「領域」と呼びますが、人それぞれ正解の違うものを競いあってもエネルギーの無駄。だったら自分にとってストレスのかからない解釈を採用し、受け流すのがいいと思います。「自分には理解しきれないけど、親を大事にしたいと思えないほど大変な環境だったんだな」とか。