アイドルマスター 15周年の「今までとこれから」⑬(如月千早編):今井麻美インタビュー

アニメ

公開日:2021/6/18

『アイドルマスター』のアーケードゲームがスタートしたのが、2005年7月26日。以来、765プロダクション(以下765プロ)の物語から始まった『アイドルマスター』は、『アイドルマスター シンデレラガールズ』『アイドルマスター ミリオンライブ!』など複数のブランドに広がりながら、数多くの「プロデューサー」(=ファン)と出会い、彼らのさまざまな想いを乗せて成長を続け、昨年の7月に15周年を迎えた。今回は、765プロのアイドルたちをタイトルに掲げた『MASTER ARTIST 4』シリーズの発売を機に、『アイドルマスター』の15年の歩みを振り返り、未来への期待がさらに高まるような特集をお届けしたいと考え、765プロのアイドルを演じるキャスト12人全員に、ロング・インタビューをさせてもらった。彼女たちの言葉から、『アイドルマスター』の「今までとこれから」を感じてほしい。

「アイドルマスター15周年特集」のラストを飾ってもらうのは、如月千早役の今井麻美。ちなみに、今回の特集は、2019年8月のアニメロサマーライブ(アニサマ)にサプライズで登場した如月千早(今井麻美)が、ステージ上でのMCで15周年への想いを語っていたのを目撃したことが、発端だったりする。天海春香役・中村繪里子とともに、先頭に立って765プロダクションを牽引してきた15年間で感じた想いを、存分に語ってもらった。

如月千早
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

advertisement

最初は、才能のある千早さんに、私が追いつかなきゃいけないと思って、ずっと追いかけていた

――今回の『アイドルマスター』15周年特集をやりたいと考えたきっかけが、2019年のアニサマで今井さんがサプライズで“蒼い鳥”を披露したとき、MCで「2020年が15周年です」と言ってるのを聞いていて――という背景がありまして。

今井:嬉しいです。いやあ、やってみるものですね(笑)。当時、15周年に向けて、スタッフさんたちが気合いを入れて準備をされているのが、ひしひしと伝わってきていました。そのタイミングで、「アニサマで、千早さんの歌を歌ってほしい」というオファーをいただいて。そのときに、歌もMCも今井麻美ではなく如月千早で通そうと思ったのは、改めて『アイドルマスター』は皆さんに歌やダンスや世界観をお届けする作品なんだぞって伝えられる、チャンスだと思ったんです。アニサマには、初めての方もたくさんいらっしゃるので。本当に、あの場を授けてくださってことには、感謝しかないです。私が千早として歩んできた十数年の思いを伝えられる素敵な場で、ピアニート公爵さんが弾いてくださって、『アイドルマスター』を知らない方も曲を知ってくださる機会になって――そのうねりのようなものを体感したし、ある意味で形として残せたことが嬉しかったです。

――『アイドルマスター』に今井さんが参加されたのは2005年ですね。アーケードゲームのタイトルとしてスタートした当時、どのようなプロジェクトとして見えていたのか、その一員として関わることでその見え方はどう変化してきたか、を教えてください。

今井:私自身はアーケードでアイドルゲームが出ることに関して、オーディションに受かったばかりの頃はピンときていなくて。ただ、当時流行っていたいわゆる美少女ゲームとは、「何かがちょっと違うぞ」という感覚はありました。で、いざプロジェクトの中に入ってみると、とにかくすべてにおいてスポ根だったんです。部活動に近いイメージがありました。ゲームを作ることに対して、たくさんの人が関わっていることは想像はつくんですけど、せっかく作ったものも皆さんからの評価が受けられないと、残念ながらいわゆるロケテストというもので終わってしまう。そこでギリギリの橋を渡りながら、皆さんにお届けするために命を削って作られているのを目の前で見て、「私にもできることはないか」って思うようになりました。

 今でこそ、声優さんが表に出ていくのが当たり前になっている中で、特に初期の頃は中村繪里子ちゃんと私が活動の中心にいたところもあって。ふたりともまだド新人の状態で、そんな私たちだからこそできるものはないかって考えて、スタッフの皆さんと協力しながら、できることを探していった結果、イベントをやってみたり、振り付け自分たちで考えて歌ってみたり、をしていって。その状況から今につながることは、もちろん当時は想像もしていなくて、ただいつか多くの人に知っていただける作品になったらいいなあ、という願望がありました。ほんとに目の前のことに必死だったけど、当時私たちが感じた「こんなゲームあるんだ!?」というビックリ感を、みんなと共有したいと思っていました。

――こうしてお話を伺っていても、それこそ15周年についてステージ上のMCで話をされていたときも、今井さんの熱い思いを感じますし、その熱さは初期の頃から持ち続けているんですね。

今井:そうですね。当時はもっと視野も狭くて、メンバー同士で目の前のやるべきことをひたすら頑張っていて、逆にそれしかできなかったですけど、スタッフさんたちの完成度への頑張りと、私たち自身の「もっとブラッシュアップしていくぞ」っていう思い、いろんなものが噛み合わさっていくうちに、自然と応援してくださる方が増えていって。不思議な感覚を味わっています。

――15周年特集では最初に中村繪里子さんの取材をさせてもらったんですけど、話の中で印象的だったのは、「『アイドルマスター』に関わっている間、自分はいい人になっている」みたいな話で。

今井:ああ~、わかります。共感しますね。もともとすごく純粋でいい子だったんですけど、誰かと関わることの喜びを知ったんじゃないかなって、そばで見ていた立場としては感じますね。『アイドルマスター』では、私たち自身のいろんなエピソードがアイドルに還流されているところがあるので、自分のよさを客観的に見られたりする部分もあったんですよ。自分のことって、なかなかわからないじゃないですか。それを客観視する、不思議な体験をしました。えりちゃん(中村)が春香で、似てるところと似てないところ、それぞれあるとは思うけど、「自分がいい人になってる気がする」というのは、えりちゃんのよさを春香が吸収して、それを客観的に見られてるのかなって思います。

――なるほど。一番近くで見ていた今井さんならではの分析ですね。

今井:もう、分析魔がだんだん年々ひどくなってきて、自分のことがどんどん嫌いになるんですけど、どうしたらいいですかね(笑)。

――(笑)そうなんですか?

今井:そうなんです(笑)。自分が分析魔になったのも『アイドルマスター』がひとつの理由だと思っていて。作品が大きくなるにつれて、特殊な経験を積ませていただいた分、何か大事なことを訴えていくときに、「中村、今井、任せた」って言われることが多かったので。えりちゃんはのびのびと、えりちゃんらしく表現してもらって、逆に私は一歩引いた目で見ていて。お客さんたちや、スタッフの皆さんの日々の努力を見ることはできないので、多くの方が集まったときに、次の目標を伝えるには、冷静に見ていかないと正しく伝えられないな、と考えたりしているうちに、分析魔になってきた感があります(笑)。

――(笑)今井さんと千早の関係性について伺いたいんですけども、千早を演じたり、歌を披露する中で、彼女のどんな一面を見つけていきましたか。

今井:まず、その成り立ち的に、「歌しか見ていない孤高の歌姫」というフレーズがついていて、でも私自身は性格的に孤高のタイプではなかったので、そういう意味では「演じよう」と思っていましたし、いわゆる一般的に声優として与えられたキャラクターを演じる、そういうつもりで向かい合っていったんですけど、最初の収録が歌だったんですね。性格とかをしっかりと把握する前に、まず歌を歌っていたんです。だから当時、演じながら歌うというよりは、出せるものを出すしかなくて。だから、「千早さんを演じる」という感覚よりも、正解を探しているターン、みたいな感覚は近かったですね。アーケードのゲームが完成して、やっと私としても「あっ、こういう子だったんだ」ってわかるようになって。当時、私も足繁くゲームセンターに通って、いろんなアイドルたちと接していくうちに、知ることも多かったです。

 千早さんと私の人間性が、つかず離れず交差したり離れたりを繰り返したような気がします。最初は、才能のある千早さんに、私が追いつかなきゃいけないと思っていて、ずっと追いかけているイメージでした。あるときを境に、私のほうがちょっと先を行き始めることもあって、そうしたら千早さんがあとから追いかけてきたり。それを、ず~っと繰り返しているイメージなんですよね。千早さんがちょっと自分と離れていったときに、寂しくもあり、いわゆる普通の「キャラクターと自分」という関係性になってホッとすることもあったり。それを繰り返している気がします。

――今のお話で印象的だったんですけど、今井さんからの彼女の呼称は「千早さん」なんですね。

今井:最近はそうですね、千早さんです。

――ずっとそうであったわけではない?

今井:ではないですね。やっぱり、そのときの関係があります。今は、「千早さん」の距離感――そのときの感情と一番近いものを無意識に選ぶ傾向があって、今は「千早さん」です。

――「千早さん」と呼ぶときはどういうモード、関係なんでしょうか。

今井:わりと近いときです。距離感が近くて、かつ、輪郭がしっかりととらえられるとき、と言ったらいいんでしょうか。私とフュージョンしていなくて、千早として確固たる何か意志を感じるときは、尊敬の念を込めて「千早さん」になることが多いです。それはおそらく、最近『MA4』のシリーズを録っていたことももあって、彼女がすごく訴えかけてきていたんでしょうね(笑)。「私はこうしたいから、あなたはこういうことを努力してくださいね」って、プレッシャーかけてきてたんですよ。そうすると、身近に感じつつ、輪郭が明確になるし、尊敬の気持ちが強くなるので、「千早さん、私はこう努力してきたけど、足りてますか」「まだ足りません」みたいな(笑)、そんな想像をして取り組んでいたりします。

――アイドルとしてライブのステージに立つことの楽しさ・喜び、あるいは難しさについて、今井さんはどのように向き合っていたのでしょうか。

今井:始めた当初は、私自身も10代の気持ちがまだわかるくらい人生経験が浅くて、同じような感覚で物事に取り組めていた部分があったので、千早役としてステージで歌うことに対しての引け目が、私自身は少なかったんですね。もちろん、「声優として始めたのにな」って悩んだ子もたくさんいたとは思うんですけど、私自身はそれがなくて。プロモーションとして、できることはやるべきだ、と思っていたし、ライブで歌を歌うことに関しても、率先して「よさが伝わるからやりましょうよ」って言っていました。ただ、規模がどんどん大きくなって、多くの方が注目してくれるようになり始めた頃に、壁にぶつかって。もちろん、決して軽い気持ちではやってたわけではないですけど、クオリティの高いものをお出ししていかなければいけない、多くの人が注目してくれるものになったと感じたときに、自分の楽しさとか期待感だけで、「やりましょう」って言ってきたことに対して、悩んだ時期は確かにありました。

 結局、私たちは生身の人間だから歳を重ねていく、でもアイドルたちはこの十数年の間にひとつしか歳を取っていなくて。常に、元気で期待に応えていかなきゃいけないけど、自分自身は「いや、私はここまでできてない」みたいな、葛藤をだんだん感じるようになりました。このままステージに立ち続けることはできないから、自分のスキルをもっと向上させないといけないな、と。逆に言うと、私たちはすごくいい時代を過ごしてもいるんですよね。自分たちの努力があればなんとかなった時代も知っているし、小さい会場から始めて、大きな会場に到達するまでのヒストリーも経験させてもらって、すごく贅沢な体験をさせてもらいました。その点、後輩の子たちには、「できて当たり前」から入っている分、苦労をかけてる部分もあるのかな、と思ったりしています。まあ、後輩の子たちはそれもとっくにみんな乗り越えていて、気持ち的にも技術的にも、とっくの昔に追い越されてるじゃないか、とは思うんですけど(笑)。