自力本願、変化受容、失敗が命取り…「イマドキの若者=つくし世代」を理解するためのキーワードは【共感】

社会

公開日:2016/6/1


『「つくす」若者が「つくる」新しい社会(ベスト新書)』(藤本耕平/ベストセラーズ)

 クドカンのオリジナル脚本をテレビドラマ化した『ゆとりですがなにか』が話題を呼んでいる。開き直りの感情が強烈に伝わるタイトルが、すでに秀逸だ。今夏の参議院選挙から“18歳選挙権”が適用されるとあって、いわゆる「ゆとり世代」が方々でスポットを浴びている。

 いつの世もオトナが理解しかねる“イマドキの若者たち”。まして、現代の若者たちは、「ゆとり」「さとり」などと、新人類のようなレッテル貼りがなされている。先入観も手伝ってか、「イマドキの学生は…」「新入社員が…」「やはり、ゆとり世代は…」などと嘆く大人の声が、あちらこちらで聞かれる。『「つくす」若者が「つくる」新しい社会(ベスト新書)』(藤本耕平/ベストセラーズ)は、そんな現代の若者たちの実態を明らかにしている。

 本書いわく、現代の若者は、上の世代とはまったく違う新しい価値観とマインド、そしてポジティブなパワーを持っている。彼らを表現するなら、「ゆとり」でも「さとり」でもなく、「つくし」世代がピッタリだと本書。仲間を喜ばせて自分もハッピーになりたい。そのためには全力を“つくす”のが、現代の若者だという。

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「つくし世代」を理解するには、まず、彼らがどのような環境で生まれ育ってきたのかを知る必要がある。本書によると、「つくし世代」は1985年生まれ(2016年時点で31歳)から1991年生まれ(2016年時点で25歳)の「つくし第一世代」と、1992年生まれ(2016年時点で24歳)以下の「つくし第二世代」に分けられる。第一世代は小学校入学が1992年以降、第二世代は生まれが1992年以降。「1992年」が、つくし世代を知るカギだとしている。

「つくし世代」を理解するための4つのポイント

(1)教育環境の変化
1992年から「学習指導要領」が改訂され、個性尊重をはっきり打ち出した教育が始まる。学力の評価基準が相対評価から絶対評価に変わり、競争意識を煽るのではなく、本人の自立性・創造性を豊かにすることを目指した。第二世代(1992年生まれ)は、小学4年生から高校卒業まで、どっぷりと「ゆとり教育」。

(2)家庭環境の変化
1992年に「共働き」世帯数が「専業主婦」世帯数を上回る。

(3)経済環境の変化
1992年はバブル崩壊の年(1991~1993年の景気後退期を指す、とも)。

(4)IT環境の変化
1992年前後に「一家に一台パソコン所有」が進む。第一世代が中学生の頃に一般化。第二世代が中学に入学した2005年には、インターネット人口が7割に達し、携帯保有率は5割を超える。

 これらの要因で“つくられた”つくし世代。本書は4つのポイントを「四題噺」として、つくし世代を次のように説明している。

個性尊重教育で他人との比較はなく、自分が主役であると意識を高め、家族みんなで食卓を囲む習慣は減り、さみしくなったけれども、自分と向き合う自由は獲得し、ネット環境の発達で世界同時に他人とつながる喜びも感じることができた。しかし、右肩上がりの時代から低成長という社会の停滞時期に直面し、現実問題として生きる選択、決断を求められていた。ゆえに、自分をどう生かしていくのかという問題を常に意識し、他人に“つくす”ことで自分の世界を広げることができると知った。

 つくし世代の若者は、社会への不信感から「他力本願」ではなく「自力本願」であり、社会は絶えず変化するという実感から「習慣盲信」型ではなく「変化受容」型であり、チャンスの回数よりリスクの高さへの恐れから「失敗も経験」と思えず「失敗が命取り」と慎重な姿勢を取る。これらの性質は、「自分がものさし」「つながりを渇望する」「賢くケチる美学を持つ」「ノットハングリー」「不確かな未来よりも今の充実という『せつな主義』を信奉する」といった具体的な特長として表れている。

 前述のとおり、「つくし世代」は自分の居場所(コミュニティ)を作りたいと願い、そのため、仲間に対しては主体的に「つくしたい」と積極的に行動する。しかし、勘違いしてはならないのが、決して「人につくしたい」お人好しではなく、「それな!」と共感できる仲間に限ってつくしたいと考えている、という点だ。

「イマドキの若者は利己的で淡白で…」と現代のオトナは言う。しかし、人間関係を築くためには、相互理解と歩み寄りが欠かせない。上の世代側がつくし世代と本気で向き合いたいのなら、彼らに心をさらけ出して本音で接し、共感し合える関係づくりを目指すべきだと本書は述べている。

文=ルートつつみ