文芸・カルチャー

相手を想うあまりについた悲しい「嘘」とは――。霊感体質の少年と幽霊の少女による切ないラブストーリー

 昔から恋愛と怪談は縁が深い。片思いを募らせて生霊となって相手の枕元に立ったり、幽霊となって恋女房の元に帰ったり、あるいは捨てられた恋人を恨んで怨霊となったり、恋愛の絡む怪奇譚は枚挙に暇がない。

 今回紹介する『きみがすべてを忘れる前に』(喜多南/宝島社)も恋愛と幽霊の物語だ。霊感体質の男子高校生と幽霊の美少女のピュアで切ない学園青春ラブストーリーである。

 ある日の放課後、男子高校生・結城クロは、教室でクラスメイトの美少女・長谷川紫音と出会う。しかし、夏休み明けに再会した彼女は幽霊になっていた。幽霊に接触できる霊感体質のクロは、紫音を成仏させるため、彼女の心残りを成就させようとする。だが、生前からその見た目に反してワガママで傍若無人だった紫音は「わたしを生き返らせなさい」と無茶な要求を突きつけて、下僕のようにクロを振り回す。幽霊らしからぬ溌剌とした女王様ぶりが強烈な魅力となってクロのみならず読者までも惹きつける。

 幽霊になってさらに奔放に振る舞うようになった紫音は、学園内をさまよう他の幽霊を見つけてきては、彼らの抱える事情にクロを巻き込んでいく。渡せなかった恋文を探す女子高生の霊、音楽室のピアノにとり憑いた男子生徒の霊、校庭の木の下にいるいろんなことを忘れてしまった少年の霊。クロはさまざまな伝手を頼って、彼らを成仏させるために奔走する。死してなおも失われない想いや、叶うことのない願いを抱いてこの世に囚われていた彼らが、未練から解き放たれて消えていく姿が哀愁を誘い、思わず涙が溢れそうになる。

 次々と舞い込む幽霊たちの相談に、クロと同様に霊能力を持つクロの家族たちも関わっていく。おっとりした性格の長女・藍子、紫音相手に敵意を隠さない次女の緋色、小動物のように愛らしい末妹・黄。両親を亡くしたクロにとってかけがえのない家族であり、頭の上がらない姉妹たちだ。過去に辛い思いをした経験から「幽霊には関わらない」という約束を姉妹と結んでいたクロは、その約束を破って幽霊と関わるようになった理由を問沙汰される。クロの動機には紫音との共通の親友である志郎の頼み事が関係しており、やがてクライマックスへと繋がっていく。紫音の存在によって揺れ動くクロと周囲のキャラクターとの人間模様も物語の見所だ。

 果たして紫音の心残りとは何なのか。そもそもどうして彼女は幽霊となってクロの前に現れたのか。互いに相手のことを思いやるあまりに、ずっとつき通してきた「嘘」とは――。ストーリーを通して描かれる長谷川紫音という少女の強い覚悟と秘めた想いに誰もが圧倒されることだろう。生と死を超えてまでも伝えたい大切な人への言葉、ただ必死に今を生きる少年と少女の純愛の行く末をその目で見届けてほしい。

 本作は、宝島社が主催した第2回『このライトノベルがすごい!』大賞にて、優秀賞受賞作として刊行された『僕と姉妹と幽霊(カノジョ)の約束(ルール)』を全面改稿した作品。今後の続編の展開にも期待が高まる。

文=愛咲優詩



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