最強の「憑きもの落とし」ここに見参! エンタメファン必読の幕末ミステリーとは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

浮雲心霊奇譚 赤眼の理』(神永学/集英社)

祝、文庫化! 神永学の人気時代ミステリー『浮雲心霊奇譚 赤眼の理』(集英社)がついに文庫化された。シリーズ最新作がちょうど書店に並んでおり、気になっていた人も多いはず。この機会にエンタメファン必読の作品内容をあらためて紹介しておきたい。

『浮雲心霊奇譚 赤眼の理』は、「心霊探偵八雲」シリーズや「怪盗探偵山猫」シリーズなどの作品で熱烈なファンをもつ作家・神永学が2014年から書き継いでいる「浮雲心霊奇譚」シリーズの記念すべき第1作だ。

舞台となっているのは明治維新を目前に控えた江戸時代末。死者の霊が見える両眼の赤い男・浮雲(うきくも)と絵師をめざしている若者・八十八(やそはち)のコンビが、巷で巻き起こるいくつもの不思議な事件を解決してゆく。推理、アクション、ホラー、人情、恋愛とエンターテインメントのあらゆる要素をつめこんで、ぐいぐいと読者を物語世界に引きずりこむ、まさに神永学の真骨頂ともいえる作品である。

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物語の発端はこうだ。姉のお小夜が幽霊に取り憑かれてしまった呉服屋の息子・八十八。凄腕の「憑きもの落とし」がいると聞きつけて、荒れ果てた神社を訪ねる。そこで彼を待っていたのは、白い着物に白い肌、両眼を赤い布で覆った、口の悪い男だった。金にどん欲で、酒好きで女好き。それでも憑きもの落としの腕はピカイチという男とともに、八十八は姉を救うために江戸の町を駆ける。

事件解決の鍵になるのが、死者の魂が見えるという浮雲の体質だ。いつもは布で覆っている赤い両眼をさらし、事件の真相を解き明かしてゆくクライマックスシーンは、文句なしのかっこよさ。時代ミステリー界に、また新たなヒーローが加わった。

本書には八十八と浮雲の出会いを描いた「赤眼の理」のほか、妖艶な幽霊に魅入られた武士を描く「恋慕の理」、呪われた絵にまつわる「呪詛の理」と3つのエピソードを収録。いずれも江戸の闇を感じさせる濃密なムードと、そのなかできらりと光る切ない人間ドラマが魅力的だ。天才肌の浮雲とまっすぐな八十八というコンビに加え、土方歳三、近藤勇など、幕末を彩った歴史上の人物がストーリーに関わってくるのも大きなポイント。実際に剣術道場に通っていることでも知られる著者の作品だけに、迫力満点の殺陣シーンも圧巻である。

シリーズはますます面白さを加速させながら、現在3巻まで刊行中。これからもまだ続くようなので、読み始めるなら今回の文庫化がベストタイミングだ。この記事で気になった人はもちろん、「八雲」「山猫」は読んでいても時代小説には手をつけていなかった、という神永ファンもぜひ手にとってみてほしい。

文=朝宮運河