音楽ライター・南波一海さんインタビュー ~受け継がれるハロプロ~【前編】

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公開日:2017/6/16

『ハロプロ スッペシャ~ル~ハロー!プロジェクト×CDジャーナルの全インタビューを集めちゃいました!』(音楽出版社)

 1997年のモーニング娘。結成にはじまり、今なおアイドル界の一大勢力として輝きを放ち続けるハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)。群雄割拠、戦国時代と称される2010年代のアイドル界においても、新グループの結成やメンバーの卒業や加入による新陳代謝をともない、多彩なパフォーマンスによりファンを魅了し続けている。

 現在も様々なグループが名を連ねるが、直近では、今年の6月12日に5人組アイドルグループの℃-uteが解散、同月30日をもって“ももち”の愛称で知られる嗣永桃子が卒業する。一方で、今年11月にはモーニング娘。(現・モーニング娘。’17)qが結成20周年を迎えるなど、長く続いてきたハロプロの歴史において、今年はとりわけ大きな節目であるという見方も強い。

 その歴史の一端を記したインタビュー集『ハロプロ スッペシャ~ル~ハロー!プロジェクト×CDジャーナルの全インタビューを集めちゃいました!』(音楽出版社)が刊行された。雑誌『CDジャーナル』の2011年10月号から2016年12月号までに掲載された、ハロプロの各グループやメンバー個人へのインタビューをまとめた本であるが、ファンにとってはその成長や変化を辿れる貴重な一冊となっている。

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 そこで、全てのインタビューを担当した音楽ライター・南波一海さんにお話を伺い、本書に掲載されたインタビューの裏側や、ハロプロに対する思いなどを尋ねた。

◎ボリュームたっぷりの1万字インタビュー。取材では“脱線”を心がける

――初めに、インタビュー集のお話から伺えればと思います。約5年にわたるインタビューが一冊にまとまるというのは壮大なイメージもありますが、完成した今、改めて率直な感想はいかがですか?

南波:素直に嬉しいですよ。『CDジャーナル』は月刊誌のため、通常は毎月のように書店で入れ替わってしまうんですよね。だから、わずかでも自分の関わったものがこうして一冊になるのは感慨深いです。

――振り返ってみると、やはり色々と思い出されますか?

南波:読み返すと「そろそろお時間です」みたいな終わり方も多くて、その点はちょっと悔やまれるかな。本としてまとまるとわかっていたなら、終わり方ももっと色々考えていたのに(笑)。メンバーの変化はもちろんですけど、僕にとっての、聞き手としての変化の記録でもあるんだなぁと思います。

――インタビュー集のテーマは「ハロプロ」ですが、一つの大きな対象を月ごとに掘り下げる上では何か工夫もありましたか?

南波:基本的にどのインタビューも本文が1万字前後と、とにかくボリュームが多いんですよ。それを飽きずに読んでもらうためにどんなことをすればいいのかというのは常に考えています。これはアーティストのインタビューでも同様ですが、続ける以上は読者のみなさんに毎回、何かしらの“発見”をしてもらいたい。だから、インタビュー時にはなるべく話を“脱線”させられるように心がけていましたね。

◎受け継がれるというキーワード。ライブを中心に研鑽へ励む

――ここからは少し、ハロプロ自体についてのお話ができればと思います。その前段としてアイドル界を俯瞰してみたいのですが、タワーレコード内のアイドルレーベル「PENGUIN DISC」の主宰を務め、様々なアイドルへの取材も手がける南波さんにとって、現在のアイドルシーンはどのように映っていますか?

南波:抽象的ですが、今は徐々に洗練される方向へ進んでいるように思います。よく節目とされるのは「アイドル戦国時代」ですが、一時期はたくさんのグループが誕生する中で混沌とした状態が続いていました。どのジャンルにせよ混沌とした先ではやがて洗練されていくのが常で、その前提からいえば、現在はアイドル界そのものが洗練された方向へ進む途中にみえます。

――グループやメンバーのパフォーマンスもしかり、ファンの見方も研ぎ澄まされていく中では必然なのかもしれません。その過程を経て、20年もの歴史を持つハロプロというのはとりわけ目立つようにも映るのですが、南波さんご自身として、その魅力はどのように考えていますか?

南波:事前に質問をいただいていたので考えていたんですけどね。パフォーマンスの基本的なレベルが高いというのは無難な答えかなと思いますし。結局、悩みに悩んで……分からないというのが自分なりの答えでした(笑)。

――あ、すみません……。無茶振りしてしまったみたいで!

南波:でも、長い歴史の中でさまざまな技術が受け継がれているという部分は大きいかなと。楽曲にしろ、ライブでのMCや衣装など細かな部分に至るまで、一つの枠組みの中でノウハウを踏襲し続けているというのはやはり特筆すべき事実だと思います。

――年始と夏には全グループの合同コンサートを開催して、その合間では各グループの公演や別の合同コンサートを実施するなど、年間の流れも基本的には変化せず続けられているというのも強みのようにみえます。

南波:そうですね。その背景には、音楽を主軸に据えた事務所であるというのも強く影響しているのではないかと思います。例えば、Juice=Juiceが一昨年から昨年にかけて、47都道府県と台湾、香港を巡り225公演を行うツアーを開催したり、ステージ上のパフォーマンスにこだわり地道にそれぞれの実力を向上させようという試みがある一方で、楽曲でいえばとにかく耳に残るようなものを提供し続けられているのも特徴の一つですね。

 
 十年一昔とは、物事の区切りとしてよく使われる言葉である。しかし、ハロプロの歴史は20年とその倍の時間を要して、パフォーマンスを高める姿勢を軸にしたシステムを構築してきた。南波さんの関わったインタビュー集は、直近の約5年分を切り取ったものであり、とりわけ現在も活躍を続けるグループやメンバーの成長や変化を読み取れる。

 そして、今回のインタビュー前編では、インタビュー集の裏側や現在のアイドルシーンをふまえた上でのハロプロの特徴を知ることができた。続く後編では引き続き南波さんへお話を伺い、間近に控えた℃-uteの解散や嗣永の卒業にまつわる見解や、実際のインタビューでみえたメンバーの個性に迫る。

取材・文=カネコシュウヘイ