【電撃小説大賞受賞作】人々が脳内に情報端末を手に入れた世界。孤独な天才少女捜査官×紳士系ヒト型ロボットが知覚犯罪に挑む!

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/7

ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒
『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』19巻(菊石まれほ/電撃文庫/KADOKAWA)

 SFの世界に新たな最強コンビが誕生した。第27回電撃小説大賞《大賞》受賞作『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』(菊石まれほ/電撃文庫/KADOKAWA)は、孤独な天才少女と相棒のヒト型ロボットによるSFクライムドラマ。人間とロボットのバディものという、古今東西問わず親しまれてきた題材を、現代社会の問題と絡めて語りなおす意欲作だ。ひとたび本をひらけば、脳侵襲型情報端末とヒト型ロボットが急速に発達したその物語世界の緻密さに惹き込まれる。そして、正反対の性格をもつ2人の、時に軽妙で、時にシリアスな掛け合いから目が離せなくなってしまう。

 物語の舞台は2023年。1992年に起きたウイルス性脳炎のパンデミックから人々を救った医療技術は、今や日常に不可欠な脳侵襲型情報端末として進化を遂げていた。その端末の名は「ユア・フォルマ」、通称「脳の縫い糸」。直径はわずか3マイクロメートル、レーザー手術で脳に埋め込んで使用するスレッド型デバイスだ。「ユア・フォルマ」があれば、健康状態のモニタリングからオンラインショッピング、SNSの更新まで、すべてを頭の中で完結できる。さらには、その人が見たこと、聴いたこと、そして感情までもが、すべて刻一刻と記録されるのだ。

 そんな記録の集合体「機憶」にダイブし、重大事件解決の糸口を探るのが、国際刑事警察機構(インターポール)所属の「電索官」エチカ・ヒエダの仕事だ。人並外れた情報処理能力をもつ彼女は、世界最年少で電索官に着任した天才少女。だが、その高すぎる電索能力ゆえに、電索能力が釣り合わない何人もの補助官の脳を焼き切って病院送りにしてきた問題児でもある。ある日、エチカの新たな補助官として選ばれたのは、金髪碧眼の超高性能ヒト型ロボット〈アミクス〉ハロルド・ルークラフト。幼少期のトラウマから、ロボットすべてが大嫌いなエチカは、ロボットが相棒になったことに愕然とするのだが…。

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 エチカとハロルドの性格はまるで正反対だ。エチカは、人間であるはずなのに、機械のような少女。自分の感情を抑圧し、感情などもたないかのように振る舞ってみせている。対して、ヒト型ロボットであるはずのハロルドは、とにかく人間らしい。「紳士系ヒト型ロボット」とでも形容すれば良いだろうか。機械のくせに、馴れ馴れしく、図々しい。それはエチカに対しても同様で、エチカがロボット全般を嫌っていることなどお構いなしに距離をぐいぐい詰めてくる始末だ。優れた観察眼は、事件を追うのに役立つだけではなく、エチカの思考まで筒抜けにする。読者も、エチカと同様、そんなハロルドの姿に翻弄させられることだろう。だが、エチカとハロルドは、電索の相性だけは抜群。彼らは電子犯罪事件の犯人を見つけることができるのだろうか。次第に、事件は思いがけない方向へと舵をきっていくことになる。

 すべての人間の記憶がデータ化されれば、犯罪事件の捜査はうんとラクになるのか? と思いきや、どんな世界でも真実にたどり着くのはなかなか難しい。そして、難しいからこそ、ハラハラドキドキさせられる。紆余曲折を経て明らかにされる思いがけない真実に、読者はあっと驚かされることだろう。

「仲良しごっこはしないと言ったはずだ」
「ストイックな方は嫌いではありませんよ」

 この本を読み終えてからも、エチカとハロルドの掛け合い、そして、彼らとともに難事件を追うあのスリルが恋しくてしかたない。シリーズ化を期待してしまうこと必至。SFとしても、ミステリーとしても、ヒューマンドラマとしても楽しめるこのクライムストーリーを、ぜひあなたも体感してみてほしい。

文=アサトーミナミ

『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』詳細ページ

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