大ヒット増刷中! 出張先は火山にジャングル、無人島!? 鳥類学者に必要なのは一に体力、二に体力?
公開日:2017/11/30
我々人類は太古の昔から鳥類に興味と憧憬を抱いてきた。飛翔という人類が持たない高等スキルと、自由を連想させる立派な翼をもつそのシルエットは我々の本能に畏敬の念を抱かせる。幼いころに図鑑の鳥類の写真を眺め続けていた人は大勢いるはずだ。私もその中の一人である。鳥はカッコいい。しかし、そんな鳥類を日夜追いかけ研究する鳥類学者の実態を知っている人はほとんどいないのではないだろうか。
バッタ博士やナマコ博士が世間を賑わす、近年とても活気のある生物学界隈。今、鳥類学者が出した一冊の本が売れに売れている。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(川上和人/新潮社)をご紹介したい。
おにぎりを食べていると、しばしば愕然とさせられる。なんと、梅干しが入っているのだ。ウメはアンズやモモの仲間、紛れもない果物だ。フルーツを塩漬けにして、ご飯に添えるなど、非常識にもほどがある。私が総理大臣になったら果物不可侵法案を可決し、梅干しを禁止、フルーツの基本的権利を守ることを約束する。ついでに酢豚からパインを排除しよう。
と、おにぎりに話しかけながら、24時間の船旅を過ごし、小笠原諸島に向かう。これが私の仕事である。
無論、私はおにぎり屋の跡継ぎではない。鳥類学者だ。
本書を開くと1ページ目でいきなりこんな文章が飛び込んでくる。間違いない、この人は変態タイプの学者だ。どうして生物学の世界にはこうも個性の強い学者たちが集まるのかという疑問はさておき、本書は終始一貫してとても面白く、読みながら何度も吹き出してしまったことをここに報告する。
■鳥類学者、絶壁の無人島へ。南硫黄島での死闘
硫黄島よりもさらに南に60 kmの位置にある無人島、南硫黄島。山頂を含む調査は過去3回しか行われていない。その理由はこの島が環境省より原生自然環境保全地域に指定されているという点と、島が断崖絶壁に囲まれており立ち入りが非常に難しいという点にある。この島に行くためには、まず「準備」をしなくてはならない。原生自然には外来生物を持ち込むわけには断じていかない。そのため調査器具は原則としてすべて新品、過酷な環境に立ち向かうための体力のトレーニングも欠かせない。いつの間にか死亡時5000万円の生命保険がかけられ、プロジェクトの予算は「うまい棒でビルが建つほど」だったという。そんな命がけの実地調査を著者はこう振り返る。
持ち帰ったサンプルを分析している頃、南硫黄島の映像がテレビで放映された。調査には映像記録班が同行していたのだ。そして吃驚仰天した。なんと、画面に映った南硫黄島は非常に美しかったのだ。これは私の知る島じゃない。足元の死屍累々、未だ口内に感触の蘇るハエ呼吸、波打ち際にのたうつ地球外生命体こそがあの島の真実である。
騙されちゃいけない。美しいだけの自然などない。テレビの風景は嘘ではないが、真実の一部でしかない。裏切りのない不二子ちゃんなんぞ魅力は半減だ。美とは、毒に支えられてこそ真の魅力を発するものと心得てほしい。
本書はとにかく面白い。それでいて単に面白いだけでない。著者は鳥類学者の日常を“綺麗な部分”だけではなく全て曝け出してくれている。鳥類学者を駆り立てるのは、飛びぬけた知的好奇心とほとばしる偏愛、そして自然に対する敬意と情熱なのだとつくづく実感した。
文=K(稲)
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